犬の糖尿病は、人間でいう1型(自己免疫異常による疾患)がほとんどだが(関連記事)、猫の糖尿病はどうだろうか。実は、猫は人間でいう1型、2型、どちらにもかかる。2型であれば予防策を講じて発症を抑えられる場合もあるし、発症しても回復する可能性がある。飼い主さんはどのようなことに気を付ければいいか、獣医師の鳥海早紀さんに聞いた。
猫の糖尿病は人間でいう1型も2型もある
糖尿病とは、血液中のブドウ糖を分解してエネルギーとして使えるようにするインスリンというホルモンが関わる病気だ。人間の場合、自己免疫異常によって膵臓(すいぞう)の細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなる1型と、肥満や内臓疾患などによってインスリンの効きが悪くなる2型がある。血液中の糖が分解されず、血糖値が高いままになると、筋肉や臓器へのエネルギー供給が滞り、さまざまな障害が起きる。
糖尿病の初期には、多飲多尿や、食事量は多いのに体重が減少するなどの症状が見られる。病気が進行すると食欲がなくなったり、元気がなくなったり、嘔吐や下痢をしたりすることも。さらに重症になると神経障害や昏睡を引き起こし、命を落とす可能性もある。また、白内障や腎疾患、肝疾患、細菌感染による皮膚疾患など、合併症のリスクがある。
犬の糖尿病は人間でいう1型に相当するが、猫の糖尿病は1型と2型のどちらもありえる。人間の場合は2型が9割以上を占めるが、猫の場合はそこまで2型の比率が高くないという調査もある。調査によって数字にばらつきがあり、まだ研究段階ということのようだ。総じて、犬より猫のほうが、ほぼ全ての年齢で罹患率が高い。本記事では、飼い主さんにできることが比較的多い猫の“2型的な糖尿病”について解説する。
インスリン抵抗性の糖尿病、原因は肥満やほかの病気
猫の糖尿病の原因は主に、肥満と疾患である。肥満の猫は糖尿病の発症率が、標準的な体重の猫に比べて4倍にもなるという。膵臓から正常にインスリンが分泌されていても、その効きが悪くなるのだという。
鳥海さんは「インスリンが分泌されているのに、その効き方が弱くなってしまうことを、インスリン抵抗性といいます。肥満のほかに、肝臓や心臓、腎臓、膵臓、胆嚢(たんのう)、脾臓(ひぞう)、腸などの疾患が原因で、インスリンの効果が低下することがあります。膵炎の場合はインスリン抵抗性というよりは、インスリンを分泌する細胞が壊れて糖尿病発症に至りますね」と説明する。
大元の病気が治れば糖尿病も治る可能性が
治療は、血糖値のコントロールが第一となる。
「血糖値が高い状態が続けば続くほど、怖い病気を併発する可能性が高くなります。末梢神経の機能障害や、ケトアシドーシスと呼ばれる病態などです。まずは高血糖の状態を脱するために、インスリンの皮下注射を行います。脱水症状が見られたり、ケトアシドーシスを起こしたりしていたら点滴治療を行います。症状を抑え、血糖値をコントロールしながら、インスリン抵抗性がどこから来ているのか検査で原因を探り、突き止めてその原因に対処します」(鳥海先生・以下同)
ケトアシドーシスのしくみはこうだ。糖尿病のためにエネルギーが不足すると、身体が糖を分解する以外の方法でエネルギーを作り出そうとし、その過程で肝臓がケトン体を作る。ケトン体が体内に増えると身体が酸性に傾き、食欲不振や嘔吐、脱水、意識障害などの症状を引き起こす。ケトアシドーシスを起こすと、内臓にまでダメージを及ぼすことがあり、悪くすれば多臓器不全で死に至る。これを回避するために、動物病院では、重い糖尿病の患畜にはまずインスリン注射を行う。
「検査の結果、例えば肥満が原因と分かれば、ダイエットを進めることになります。感染症などと分かればその治療をする。その結果、ちゃんとインスリンが機能するようになって、血糖値が保たれるようになることもあります。そうやってインスリン注射を離脱できれば糖尿病から回復したといえる。猫の場合は、糖尿病は必ずしも一生の付き合いにはならず、治る可能性があるのです」
経口薬の販売が始まった
なお、最近では、猫の糖尿病治療用に経口薬も登場した。2024年3月、農林水産省が製造販売を承認。同年秋から「センベルゴ」の名称で販売されている。1日1回、シロップ状の薬剤を専用のシリンジを使って経口投与する方式で、注射薬に比べて猫や飼い主さんのストレスや不安が小さい点が特長だ。
「インスリン注射には、時に血糖値を下げ過ぎてしまう危険が伴いますが、この経口薬ではそのようなリスクが小さいと聞いています。投与量が一定で、糖尿病治療中に必要な定期検査も頻度を減らせるのだとか。一方で、どの症例にも有効なわけではないですし、価格も1カ月分を注射薬と比較するとやや高額になるはずです」
ただ、血液検査などの回数が減って、検査費用や再診料が減るのであればトータルのコストはそこまで割高にならないかもしれない。かかりつけの獣医師の方針や、飼い主さんの事情にもよるが、選択肢の一つとして検討する価値がありそうだ。