大型犬では見逃す小さな遺留品を発見
行方不明の高齢者の捜索などで、これまで警察から3度の表彰を受けているアンズちゃんだが、最初から“特別な犬”だったわけではない。鈴木さんとの出会いは2013年。子犬のときに飼育放棄で動物保護センターに遺棄されそうなところを、偶然居合わせた鈴木さんに引き取られた。
「当時は飼育放棄されるとすぐ殺処分されたので連れ帰りました。すぐに新しい飼い主が見つかると思っていましたが、虐待を受けていたアンズは人を怖がり、トラウマを持っていた。布団に入って震えているような状況だったので、うちで飼うことに決めました」(鈴木さん・以下同)
人への恐怖心が強かったが、すでに警察犬として活躍する先輩シェパード3頭と暮らすことで、次第に警察犬としてのスキルを身につけていったという。
「シェパードを訓練していると、アンズも“私もやりたい”と一緒に行動しようとするので、冗談半分で教えました。最初は『座れ』『伏せ』『待て』など人の命令に従う『服従』から始めました。
ただし、愛玩犬のトイプードルは周囲の人や音に影響されやすく、集中力も持続しにくい。体重も3㎏、背中までの高さは25㎝程度なので、大型犬と比べて体格的にハンデがあります。しかし、40㎝の障害物を飛び越える『障害飛越』や、『足跡追及』『臭気選別』などを何度もチャレンジして覚えていきました」
約2年の訓練を経て、アンズちゃんは日本警察犬協会の最高位の資格を取得し、警察犬試験に一発で合格。だが実績を積むまでは、信頼してもらえないこともあったという。
「最初はどうしても捜査員のかたから、“こんなに小さい犬で大丈夫なのか?”と言われることがありました。確かに警察犬は体力が必要で、草木が茂る山道では大型犬が有利です。でも小型犬にも長所がある。歩幅が小さく、地面と鼻の距離が近いため、大型犬が見逃してしまう小さな遺留品を発見できる可能性があり、狭い場所にも入れます。アンズの子・エリーも警察犬になり、窃盗事件の捜査では、犯人の指紋がついた証拠を床下から発見しました」
アンズちゃんが行方不明になった小学生を発見
現在、鈴木さんが飼育している嘱託警察犬はアンズちゃんを含めたトイプードル3頭とシェパード2頭。24時間待機し、県警から要請があればすぐに出動する。
ある日の正午頃、県警から出動要請を受けたのは、行方不明になった小学生の捜索だった。鈴木さんは、「場所が住宅街なので、目立ちにくいアンズに任せよう」と判断。現場でアンズちゃんに子供の靴のにおいを嗅がせると、猛スピードで飛び出していった。
「私と捜査員はアンズを信じて後を追いかけました。かなり歩いて住宅街を抜け、田んぼで開けた場所にさしかかったところで捜査員が聞き込みをすると、数時間前に小学生の目撃情報がありました。アンズはさらに歩き始め、出発点から数㎞のところで警察官が無事に子供を発見することができました」
鈴木さんによれば、最近は子供が親との関係や受験に悩んで、行方不明になるケースも増えているという。
「自殺寸前に発見したこともあります。また、行方不明の高齢者を捜す機会も多いですが、いまの季節は凍死のリスクがあるので一刻を争う。私は地域に貢献するために警察犬指導士になったので、基本的に出動依頼は断りません。犬たちも日々訓練を続けて、準備しています」
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※女性セブン2025年1月30日号