
人は無意識のうちに1日2万~2万5000回、息を吸って吐いているという。しかし日本人の10人に8人が“間違った呼吸”になっている。放っておけば頭痛、肩こり、歯周病、睡眠不足にも──。では、呼吸の重要性を熟知する達人は、日々どんな呼吸を行っているのか。僧侶・前田宗嶽さんに、呼吸による心と体の整え方を聞いた。
背筋さえ伸びていれば深く長い呼吸ができる
深い呼吸で心を整える達人といえば、僧侶。東京・深川の木造寺院、「慧然寺」住職の前田さんは、鎌倉の名刹「建長寺」僧堂で10年間、座禅を主とする修行生活を送った。
「僧侶の座禅は、一般のかたの呼吸の倍近く長く、深い丹田呼吸。丹田呼吸はもっとも心が安まる状態になるといわれています」(前田さん・以下同)
長い座禅修行を続けることによって、前田さん自身も気持ちのあり方に変化があったと話す。
「修行を始めて7年くらいは『人生これでいいのか』という迷いや焦りがありましたが、“自分の座禅”を得てからは、図太くなったのか、動揺や不安を感じることはなくなりました。眠れないこともまったくありません」
慧然寺では土曜に座禅会を開いており、老若男女に人気だという。
「うちの座禅は脚を組まなくてもOK。ただ、『背筋を伸ばして頭は下げず、鼻からゆっくり息を吸い、ふだんよりも長く鼻から息を吐いてください』とだけは言います。背筋は、丹田を前にぐっと突き出したら自然と伸びる。『腹を据える』とはここからきています」
呼吸も大事だが、前田さんの座禅会の目的は「自分のための時間を静かに過ごす」こと。
「多くのかたは朝起きたらテレビ、通勤電車でスマホ、仕事でパソコン、帰ったら動画と、いつも他者の情報に時間を使っています。そうした雑音から離れ、自分と向き合う時間を作ることが大事。オンとオフを切り替えなければ、心身のバランスを崩してしまいます。
私は、姿勢を正して深呼吸を1回するだけでも立派な座禅だと思っています。人間は、やる気があるときは自然と背筋が伸びますよね。そして、背筋さえ伸びていれば、深く長い呼吸ができるものなのです」
◆僧侶・前田宗嶽さん

慧然寺(東京都江東区)住職。京都大徳寺瑞峯院に生まれ、鎌倉の建長寺で10年間の修行を行った後、2005年慧然寺に入寺。2009年住職となる。毎月1回土曜日(月により変動)の17時〜18時に座禅会を開催(要予約、無料)。予約はhttps://enenji.jp/zazenより。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2025年2月6日号