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「育児放棄して性的虐待を繰り返した毒親」や「父の闘病中に浪費を重ねた母」との絶縁…急増する“家族をしまう”人々のリアルケース

家族との絶縁を選択する人が急増している(写真/PIXTA)
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未婚率の上昇、単身世帯の増加などで従来の家族形態が変化していくなか、家族との「離れ方」にも新しい動きが現れている。介護疲れ、DV、金銭トラブルなどで親に見切りをつけた人々が、親の世話を“外注(アウトソーシング)”しているという。令和の「家族じまい」のリアルな実態をレポートする。【全3回の第1回】

「家族は自分で選べる」という考え方

「山林に埋葬する『樹林葬墓地』を整備することで、焼骨は粉状にして土に埋め、約50年後には分解されて自然にかえる」──1月22日、兵庫県神戸市は、樹木の下に遺骨を共同で埋葬する「樹林葬墓地」の整備を発表。自治体による整備は、政令指定都市としては初の試みだ。これは、「墓の継承や管理を次世代に負わせたくない」という市民からのニーズによるというが、翻って言えば、“墓の管理や継承は負担である”という声があるということだ。

一方、警察庁は昨年5月に「2024年1月~3月に自宅で亡くなった一人暮らしの人が全国で計2万1716人(暫定値)確認された」と発表し、そのうちの8割(約1万7000人)が65才以上の高齢者であると報告した。

これらが示すのは、先祖代々つながれてきた「縁」や、社会との「縁」が絶たれているということだろう。そして、いちばん近しい存在であるはずの「家族というつながり」を手放すケースが多くなっているのではないか。終活という言葉が一般的になった現代で、墓や実家を「しまう」人が増加するなか、「家族をしまう」人も急増している。

一昔前であれば、“家族はどんなときでも助け合って暮らすもの”という考えが一般的だった。子供が独立し家庭を持って離れて暮らしたとしても、家族の関係を絶つなどもってのほかと考える人が多数派だったことだろう。そんな風潮に変化が表れた背景を、中央大学教授で家族社会学が専門の山田昌弘さんが考察する。

「少子化が進み、大家族から核家族へと家族の形態が変化してきたなかで、まず見直されたのが嫁姑関係です。かつては、血縁関係のない姑の介護や扶養までも“家族なのだから”という理由で嫁が担ってきた家庭が多くありましたが、そういった関係に疲れを感じ、姑との関係を見直す人が出てきたのです。

さらに、家族の在り方が多様化していき、“お互いに関係がよくないなら、血縁関係がある家族同士でもつきあいをやめよう”と考える人が増えてきたと感じます。かくして、ここ20~30年で“家族を自分で選べる”という考えが普及し、家族の基準が血縁関係ではなく、好きか嫌いか、愛しているかいないか……という感情的な部分を重視するようになったとみています」

自分の幸せのためには、家族は絶対的な存在とは限らない──そうした考え方が一般化しつつあるのだ。

幼少期に親から受けた虐待がトラウマになり、親との縁を切るケースも少なくない(写真/PIXTA)
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むしろ、虐待やDVなどの問題が顕在化し社会問題となったことで、自分の家族に疑問を抱き「絶縁」という道を選ぶ人は珍しくなくなった。

4年前に母を新型コロナウイルス感染症で亡くした会社員のAさん(43才・女性)もそのひとり。母を亡くした1年後に父を高齢者施設に入居させ、両親と絶縁した。Aさんが明かす。

「両親は酒とギャンブルにのめり込み、私と妹、弟は育児放棄されていました。いまでいう毒親です。それどころか、私は物心つく前から、両親に性的虐待を受けていました。

両親はよく家に20代前後の若い人から、70才くらいの老人まで男性を連れて来たのですが、私は彼らと一緒に入浴したり同じ布団で寝るように強制されるなど、わいせつな行為を繰り返されました。私が拒否すると妹が代わりに性的な行為をさせられたり、不機嫌になった両親が弟に暴力を振るうのが日常茶飯事でしたから、言いなりになるしかなかった。 

妹や弟はそれぞれ就職や結婚を機に家から逃れられて、私も母が亡くなったときは正直、心から安堵したのです。関係を整理できたいま、ようやく心が落ち着いていると感じます」 

 父の闘病中に浪費を重ねた母に呆れ果て絶縁

どこにでもいる普通の家族が突然急変することもある。Bさん(42才・女性)は、一昨年、母(61才)と縁を切ったと話す。7年前、当時65才だった父が末期の胃がんと告知されて以降、母の性格が豹変したことがきっかけだった。

「母は、はじめは病床の父に寄り添っていましたが、父が余命宣告を受け、生命保険会社から生前給付金として2000万円が支払われると、ブランド品を買い漁り、旅行、グルメ、ホスト遊びと浪費三昧に。

半年間の闘病を経て父が亡くなると、母は書類を偽造して遺産を独り占めし、父が生前に孫のために積み立てていた預金まですべて自分のものにしました。私の名義で借金を重ねていたことも発覚し、怒りを通り越して呆れ果てるばかり。

しばらく音信不通だった母がつきあっていた水商売の男に捨てられ、行くところがないと戻ってきたのが一昨年です。堪忍袋の緒が切れた私は母を門前払いにして、完全に縁を切るべく引っ越しをしました。現在、母は父と一緒に死んだものと思って過ごしています」

AさんやBさんのように親子間のトラブルに悩んできた人たちは、絶縁後に圧倒的な自由、解放感、安心感などを得たと口にする。

絶縁後は圧倒的な自由や解放感などがある(写真/イメージマート)
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しかし、受けた傷はいつまでもしこりのように残り、それがトラウマとなって他人との関係を築けず孤独感に苛まれる人も少なくない。さらに、縁を絶ったと思っていても行政からの連絡がつながれば、親の介護は家族が行うようにと指導されてしまうケースもあり、地方などでは周囲からの視線もあって、家族を無下に扱うことが難しいという現実もある。

また家族じまいでは、残された遺産の存在が問題になりやすい。親の遺産は基本的に子供に相続権がある。しかし、親との関係を絶っていたり、長く疎遠であったりする場合は、感情論的な面からこじれることが多いという。「相続よろず相談所」の代表・武井敦司さんは、そうした現場を数多く見てきた経験からアドバイスする。

「遺産分割協議を行ったうえで、相続人同士でスムーズに財産を分けることができれば理想なのですが、実際はそう簡単にいきません。親やきょうだいとの仲が悪いと感情論で言い争いになり、遺産分割協議がまとまらず、裁判にまで発展するケースが非常に多いです」 

家族じまいをしたと思っていても、トラブルの火種が残っていることがあるということ。そんななかでニーズを集めているのが、家族とのつきあいを“外注”する家族代行サービスだ。

(第2回に続く)

※女性セブン2025年2月13日号

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