社会

【フジテレビ騒動でクローズアップ】世界に例を見ない日本の「電波利権」“新聞社と一体化したテレビ局が国の管理下に置かれる”その特異な構造はいかに生まれたのか

総務省が免許を更新しなければテレビ局はたちまち倒産

「テレビ局の中にどっぷりつかっていると鈍感になるけれど、退社して一歩離れると特異な世界であることに気づきました。局員だった頃は薄々気づいていても、考えないようにしていたのかもしれません」

テレビ東京での37年間にわたる番組制作を振り返り、田淵さんはこう語る。

テレビ局と政府、新聞社の「特異」な関係性は互いにどんな影響を及ぼすのか。

まず指摘できるのが、放送に対する「政府の介入」だ。前述したように日本では総務省が放送免許の許認可権を持ち、免許は5年に1度、更新される。ちなみに現在のテレビ局の放送免許は、2023年11月から2028年10月までが期限だ。

日本では総務省が放送免許の許認可権を持っている(写真/PIXTA)
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「総務省の免許権限は絶大で、期限が切れた免許が再交付されなかったらテレビ局はたちまち倒産してしまいます。このため国の口出しを恐れたテレビ局が忖度して、国に不利な番組を作らなくなる恐れがある。NHKに至っては、予算の承認も総務省が行いますから、政府に牙を剥くような報道は望めない。

実際に安倍政権時代のNHK、フジテレビは、政権サイドの言いたいことばかり伝えているという指摘もありました」(砂川さん)

第二次安倍政権で総務大臣を務めた菅義偉元首相は、2007年に関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典II』で、実験データやコメントの捏造が発覚したことを受けて、「電波停止もあり得る」と発言し、行政指導として最も重い「警告」を出した。

「菅さんは行政指導を出しては『免許を取り消すぞ』とテレビ局を脅すような発言をしました。アメと鞭を使って巧みにメディアコントロールをしていたといえます」(田淵さん)

2007年、『発掘!あるある大事典II』(フジテレビ系)で放送内容に捏造があったことが公になり、菅義偉総務相(当時・写真左)が千草宗一郎関西テレビ社長(当時・写真右)に警告を出した(時事通信フォト)
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田中さんは、「現に、日本のテレビ局は政権批判ができていない」と指摘する。

「イギリスの公共放送であるBBCは行政府から独立しています。2003年3月に始まったイラク戦争でBBCはブレア政権を徹底的に批判し、ブレア首相を辞任に追い込みました。  しかし日本のテレビ局は生殺与奪の権利を総務省に握られているため、行政府のトップである総理大臣を面と向かって批判することは到底できません」

こうした上意下達の関係性がもたらす結果のひとつが「天下り」だ。今回のフジテレビ
問題でも、元内閣広報官で“飲み会を絶対に断らない女”と自称する山田真貴子氏が、フジテレビ親会社の社外取締役を務めていることが問題視された。

「フジ側は国家公務員倫理規定に抵触しないと主張していますが、規定には直近の2年間、放送行政に携わっていなければ天下りできるという“抜け道”があります。天下りの定義にもよりますが、過去にはNHKやTBSも天下りを受け入れており、ある地方テレビ局では元総務省出身者が社長を務めた例まである。

テレビ局側も何らかのメリットがあるから高額の報酬を出して元総務省の役人を雇うわけで、電波利権が天下りを生んでいるのは確かです」(砂川さん)

田淵さんも「監督する機関からの天下りは問題です」と重ねる。

「どの局も、監督される省庁から天下ってくる人を無下にはできません。しかもテレビ局の取締役に天下りがいると社内の重要事項がすべて総務省に筒抜けになる。局は首根っこを押さえられているようなものです」

政府が行っている電波の割り当ての電波名と主な利用例
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(後編に続く)

※女性セブン2025年3月13日号