【日本以外ではほとんど使われていない薬一覧】風邪薬、抗生物質、胃腸薬、睡眠薬…「有効性の根拠が不充分」「副作用が問題視」が理由、日本では一般の人に最新情報が届きにくい現実も
エビデンスが不足する脂質異常治療薬
3人に1人が高血圧といわれる日本では、降圧剤をのむ人も多い。降圧剤は大きく分けて、カルシウム拮抗薬、ARB阻害薬、ACE阻害薬、利尿剤の4種類がある。
「日本ではカルシウム拮抗薬やARB阻害薬がよく使われますが、動悸や心不全などの副作用も懸念されているのに、専門外の医師が感覚だけで薬を選んでいることがあります。利尿剤は効果が高いわりに副作用が少なく、薬価も安いので、アメリカでは第一選択薬になることが多い」(室井さん)
脂質異常症の薬として処方される「ロスバスタチンカルシウム」、「アトルバスタチンカルシウム」などスタチン系も日本では年齢を問わずよくのまれるが、海外では異なる。米ボストン在住の内科医・大西睦子さんが解説する。

「2022年の米国予防医学専門委員会のガイドラインによると、76才以上の高齢者は服薬の対象に含まれていない。年を重ねるとコレステロール値は自然と上昇するもので、薬開始による利点と害のバランスについてエビデンスはありません。むしろ高齢者でコレステロール値が低すぎる人は、死亡リスクが高いという指摘もある。
スタチン系には筋肉に傷がついて壊れて血中へ流失する『横紋筋融解症』など重篤な副作用もあります」
コレステロール値が高いだけならスタチン系は不要だと話すのは岡田さんだ。
複数の研究データを見ると、高コレステロール以外に病気がなければなるべく使わない方がいい」
長澤さんが続ける。

「魚の油由来の成分を原料とする『EPA製剤』、『DHA製剤』も、日本では血液中の脂質を改善するとして使われています。しかし、海外では心血管疾患の発症リスクを低減するというエビデンスが不足しているので、あまり使用されていません」
続いて糖尿病の治療薬にも、海外ではあまりのまれていないものがある。
「日本では『シタグリプチンリン塩酸水和物』などの『DDP-4阻害薬』がよく使われますが、近年、欧米ではDDP-4阻害薬から『SGLT2阻害薬』に移行している。DDP-4阻害薬は臨床での有用性が限定的で、米国内科学会も非推奨としています」(長澤さん)
日々進歩を遂げるがん治療の分野でも、日本と海外の差が生じている。昨年7月、アメリカ臨床薬理学会の国際誌に、「日本で使われている抗がん剤の一部に、効果が不充分で、アメリカでは承認が撤回されているものが存在している」という研究結果が発表された。
「海外は日本に比べて、薬のリスクと利益のバランスを厳しく考える傾向にある。2011年、アメリカの食品医薬品局が、転移性乳がんに対する『ベバシズマブ』の使用承認を取り消しました。生存期間が有意に延びないし、高血圧や心臓発作などの副作用があるからです」(室井さん)
長澤さんが続ける。
「アメリカでは免疫チェックポイント阻害薬の『ニボルマブ』も一部適応が撤回され、『ペムブロリズマブ』は適応が縮小されています。どちらも期待した延命効果が得られなかったことが理由です。抗がん剤・免疫抑制剤の『シクロホスファミド』も副作用が強いので国際がん研究機関(IARC)が使用を控えるよう勧告しましたが、日本ではまだ使われています」
アメリカでは懐疑的に扱われているアルツハイマー治療薬
海外で問題が指摘されている薬はほかにもある。
日本ではアルツハイマー型認知症の治療薬として、「ドネペジル塩酸塩」が幅広く使われているが、こちらもアメリカでは懐疑的だという。
「効果が限定的で、食欲不振や失神などの副作用があり、約半数は1年以内に服用中止と報告されている。いまのところ“アルツハイマー病の根本的な治療薬はない”というのが結論です」(大西さん)
すでにフランスでは2018年に、「効果が不充分である」としてドネペジル塩酸塩を含めた4種の抗認知症薬が保険適用外となった。

「効き目がなく、暴力的になるなどの副作用がある。日本でも認知症の専門医からは、認知症の治療薬は使わないという声も聞きます。しかし、そうした考えはまだ一般的ではなく、のんでいる人は多い」(岡田さん)
一方、長澤さんは、脳の神経の抑制性神経伝達物質であるGABAを増強する「ベンゾジアゼピン系」の抗不安薬や睡眠薬のリスクを指摘する。
「依存性が高く、認知機能の低下から認知症が進行するリスクがある。ところが、日本では筋肉の緊張を緩和する作用があるとして、肩こりや腰痛でも処方されることがあります」
なぜ、海外でのまれていない薬が日本でのまれ続けるのか。大西さんが言う。
「日本は国民皆保険で医療費が安く、病院へのアクセスが容易なため、患者が薬を求めやすい。
一方、アメリカでは同じ病気の患者でも、保険の種類で受診できる病院や医師、処方される薬の種類に制限があります」
日本の医療費増大が取りざたされるいま、自らの健康に限らず社会のためにも、「薬の効果を見極め、適切に使う」ことが求められている。
※女性セブン2025年3月20日号