イタリア人が絶賛した「これが米の味なのか!」
その米を私はイタリアのミラノに住む日本人オペラ歌手の台所で炊いたことがある。バブルの末期でお金で買えないものに価値があると信じられていた時期だったので、新米を茶色の小さな紙袋に入れて土産で持って行ったんだよね。そうしたら「こちらで日本のお米を炊いたことがないから、あなたにお任せするわ。若くて有能なイタリア人指揮者を呼んでいるから今夜の日本食はあなたが作って」とソプラノ歌手は高い声でブレスなし。一気に私に押し付けたの。

米を鍋で炊くのは初めての私だけど「はじめチョロチョロ、中ぱっは。赤子なくともフタ取るな」を頼りに炊いたら思いの外、うまくいった。あとは外国人も日本人もみんな喜ぶ天ぷらと、あと何か作ったはずだけど覚えていない。でも忘れられないのは、イタリア人の若き指揮者が、黙々と米を食べていたことよ。天ぷらと米を交互に食べるのではなく、米、米、米。そして何をいうかと思えば、「ナツラーレ!」。自然とか、天然とかいう意味だけど、ソプラノ歌手が通訳するには、「シンプルな米の味がする。これが米の味なのか!」とそう言ったんだって。
“生の米”を口に入れた売れないアイドル
そうそう。米といえば私が新宿で編集プロダクションをしていたときに売れないアイドルと仲良くなったの。聞けば彼女も農業高校卒で、しかも私みたいに成り行きで入学したのではなく、ちゃんと農業に興味があって入学したと言うんだわ。「芸能関係者の話は眉に唾をつけて聞け」というのは雑誌業界の常識だけど、彼女は本物だと思ったね。新米を少し分けてあげたら、いきなり生の米を指でつまんで口の中に放り込んだのよ。そして「うん、水分が多いお米だね」と言ったのよ。生米を口に入れた人を見たことがなかった私はすごく驚いたっけ。
数か月後、彼女は「私、芸能界は無理だわ」と言って田舎に帰っていってその後、どうしたのかしら。きっと地に足がついた人生を送っていると勝手に想像している。
と、まあ、米にまつわる話はいくらでも出てくる。今の高値は政府が備蓄米を放出したから終わるという話もあるけれど、そうか? そういえばずいぶん前に知り合った中国人の留学生のマオ君が、「中国にいる母親に一番食べさせたいのは日本のお米」と言っていたんだよね。「砂糖を入れて炊いているのかと思った」とも。「出身はコウシュウです。広い方ではなく杭のほうの杭州です」と言っていたハンサムな彼は、日本から中国に戻らず、アメリカに行って、その後、どうしたかはわからない。「大好き」と言っていた日本の米をその後も食べたのかしら。
◆ライター・オバ記者(野原広子)

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。
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