痛みを伴う治療は丁寧な説明を求めて
治療には薬、注射、手術、リハビリなどさまざまあるが、どれを選ぶかはケースバイケースだ。

「すぐに注射や手術を選んだからといって、善しあしがわかるわけではありません。少なくとも整形外科は内科と違って薬で治す科ではなく入院施設がないところも多いので、急性期の痛みを取り除くという目的で注射は急いでもいい。痛みが慢性化すると脳にも波及し、うつ病を招きかねず、うつ病が痛みを増幅させる悪循環に陥ることもあります」(戸田さん)
ただし、それは必ず患者が納得して受けなければならない。
「注射や手術といった痛みを伴う治療は特に、それがなぜ必要か医師は説明すべきです。全身に薬剤が回る点滴や薬は副作用が出ることもあり、どうしても濃度を薄くしないといけないこともある。その点、ピンポイントの注射であれば患部にのみ比較的強い薬を投与できます。そういったことを説明したうえで治療法を選択してもらうべきですし、患者さんも積極的に質問していい。そこでコミュニケーションが図れない医師は努力不足です」(歌島さん)
特に手術を提案された際には、より詳しく理由を聞こう。
「そもそも、上手に治療をしていれば手術は避けられることが多い。変形性ひざ関節症などでは、関節を人工にする人工関節置換術をしようとする医師もいますが、相当な痛みを伴う最終手段です。ひざの場合は、まずはサポーターをつける、ヒアルロン酸ナトリウム注射をするなどの処置を段階的にやっていくことで、杖をつかずに歩けるようになるかたが9割です」(戸田さん)

このように、医療技術は日進月歩で発展を続けている。最新の知見に触れ、実践しているかどうかは予後を大きく左右するため、かかりつけ医を選ぶうえで必ず確認しよう。
「ぎっくり腰に対してベッド上で安静にするのはかえって逆効果という論文(※1)があります。昔は痛みが引くまで安静にしていましょうという指導もありましたが、いまは動ける範囲で動くべきとなっています」(歌島さん・以下同)
薬についての正しい知見を要しているかもチェックしたい。
「2021年には痛み止めの慢性的な使用者に潰瘍発生リスクが高まるという論文(※2)が出されました。非ステロイド系消炎鎮痛剤という、いわゆるNSAIDsと称される痛み止めをのみ続けることで、胃潰瘍や腎臓疾患になるリスクが上がると指摘されています。医師によっては“とりあえず3か月分の痛み止めを出しておきます”という人もいますが、避けた方がいい」
整形外科と美容外科はまったくの別物
医師が専門医かどうか以外にも、どのような資格を持ったスタッフがクリニックにいるかは大切だ。

「リハビリを受ける場合は、理学療法士や作業療法士がいるかを確認しましょう」
治療と並行してリハビリを受けることは必要だが、その際に整形外科以外での治療を受けるのは慎重になった方がいい。
「カイロプラクティックや整骨院、鍼灸など痛みをやわらげるためにいろいろ試されるかたもいますが、たとえばカイロプラクティックはアメリカの国家資格で日本においてはなんの資格がなくても名乗れてしまう整体師と同じです。整骨院には柔道整復師という国家資格を持つ人がいますが、本来は外傷の治療がメインで、慢性的な痛みに対して治療するところではありません。
その意味で、鍼や指圧は国家資格を持ち、慢性的な症状の治癒をうたっているので理にかなってはいる。ただし残念ながら間違った知識による治療を行うところも少なくありません。いずれの場合も、整形外科医に相談のうえ連携できるところにした方がいい」
戸田さんは「後期高齢者以外は掛け持ちしない方がいい」と指南する。
「治療の効果を診断する際に、整形外科以外で施術を受けていると正しく診断できなくなってしまいます。整骨院やカイロプラクティック治療院の中には、長く通院させて収入を得ようとするところも少なくない。時間にゆとりがあり痛みもそこまでひどくない高齢者以外は、より短い治療期間で痛みを軽減すべきです」
美容医療が一般化してきた昨今、治療を混同している人も多い。関節の痛みを覚え、再生医療を受けるために美容クリニックを訪れるケースも見受けられるが、「整形外科と美容外科はまったく別物」と断言するのは歌島さんだ。
「美容整形は『整形』という名前がつくので勘違いしやすいですが、専門科としては形成外科です。骨や筋肉、関節を治療する整形外科とはまったく別物です」(歌島さん)
戸田さんも言い添える。
「腰痛やひざの治療で美容外科を訪れるかたもいるようですが、治療は絶対に整形外科ですべきです。たとえば昨今注目される再生医療も、美容外科では治療後の経過観察や、症状が悪化した場合の治療などを受けることができません」(戸田さん)
インターネットやSNSを通じて無数の情報が手に入れられる時代だからこそ、正しい知識を身につけることが必要だ。そして疑問を感じたら素直にそれを医師に確認することが、かかりつけ医の医師としての技量だけなく人間力を推し量る術でもある。健康寿命を延ばしてくれるかかりつけ医を見つけられるかどうかは自分次第だ。
※1 Wilkes MS. West J Med 172:121 (2000)
※2 McEvoy L et al. Front Pharmacol 12:684162 (2021)
※女性セブン2025年5月1日号