《50〜60代女性に増加する「スマホ認知症」》スマホを常に操作することで情報の整理整頓ができず「脳のゴミ屋敷化」が進行 物忘れ、判断力や記憶力の低下を招く

わからないことや知らないことでも、スマホに聞けば何でも教えてくれる。最近はAIも発達して、以前にましてラクになった。だがこうした何でもスマホ頼みの状況は私たちを賢くするどころか、脳の機能を低下させている。おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さんが明かす。
「ここ数年、働き盛りの50〜60代女性から『会話中にぼんやりして気の利いた言葉が出てこない』『うっかりミスが増えた』などの相談が増えています。こうした訴えの背景には、『スマホ認知症』があると考えられます」
奥村さんが名付けた「スマホ認知症」とは、スマホの使いすぎで「脳疲労」が生じ、人の名前が出てこないなど生活に支障が出る状態を指す。中核症状は、「手順通りに動作を実行する能力(遂行実行能力)の低下」「コミュニケーション能力の低下」「企画力・創造力の低下」「生活意欲の低下」「体調不良・情緒不安定」の5つの低下だ。奥村さんはこれらの症状について、「脳の情報処理がカギです」と語る。
「脳の情報処理は、3つのステップで成り立ちます。まず見聞き、体験した情報を脳にインプットする『入力』、次に入力した情報を取捨選択する『整理・整頓』、最後に適切な情報を選んでアウトプットする『出力』です。なかでも重要なのが、人間だけが持つ能力の『整理・整頓』です」(奥村さん・以下同)

脳が整理・整頓をする際は、一旦情報の入力を遮断する必要がある。しかし、スマホを常に操作していることで不測の事態が生じる。
「整理・整頓がはかどらない脳内に情報ばかり詰め込まれて、『脳のゴミ屋敷化』が進んで物忘れが激しくなったり、判断力や記憶力が低下するなどで生活の効率が低下します。30〜40代なら情報量が多少過剰でも処理できますが、50代以上は脳の老化が一気に進み、処理能力を超えてスマホ認知症が悪化する恐れがあります」
スマホの使いすぎで脳疲労の状態になると、スマホ認知症以外の症状も現れやすくなる。そのひとつが、体のさまざまな部位に原因不明の痛みが生じる「全身の疼痛」だ。
「通常は痛みを察知すると脳内物質のノルアドレナリンが分泌されて過剰な痛みを抑制します。しかし脳疲労によりノルアドレナリンが枯渇すると痛みが抑えられず、体のあちこちに痛みが出る可能性がある。すでに完治しているはずの古傷や、慢性的な腹痛や頭痛が生じるケースもあります」
人間関係も希薄になりがち
脳の機能低下や全身の痛みに加えて、「眠れなくなる」ケースもある。
「スマホを使い続けると、覚醒作用をもたらす脳内物質オレキシンが過剰に分泌されて、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりする症状が現れることがあります。こうした不眠症は、アルツハイマー型認知症の危険因子であり、うつ病と密接に関係することも知られるので要注意です」
スマホ認知症になっている中高年世代は、認知症の予備群とされる。
「脳疲労によるスマホ認知症の症状を“たかがスマホでしょ”と放置すると、脳の機能低下が進行して認知症を発症しやすくなることがあり得ます。認知症の予防で最も大事な三本柱は、自分の頭を使ってモノを考え、体を動かして、人と上手にコミュニケーションを取ることです。スマホばかり使っていると、この3つがおろそかになります」