
認知症といえば、罹患すれば悪化する一方の病という印象があるかもしれない。しかし、早期に認知症のサインに気づき適切な治療を施せば、発症や進行を防いだり遅らせることが可能だという。認知症を正しく理解し対応すれば、やみくもに恐れることはない。
65才以上の5人に1人が発症すると予測されている
今年、団塊の世代が全員75才以上の後期高齢者となり、「2025年問題」と報じられているが、2040年には団塊ジュニアの世代が全員65才以上になる。厚生労働省の推計によると、2025年には65才以上の5人に1人が認知症を発症すると予測されている。40年にわたって認知症の研究と臨床に取り組んできた、メモリークリニックお茶の水院長の朝田隆さんがこう話す。
「しばしば誤解されますが、いわゆる物忘れ程度は認知症とは言えません。年齢とともに認知機能が衰えてしまい、自立的な日常生活を送ることができなくなるのが認知症という病気です。現在、日本では65才以上の認知症患者が約500万人いるといわれます」(朝田さん)
5才刻みで認知症になる割合が2倍になっていくとされ、90才を超えると5割が認知症になるという調査結果もある。
これほど“身近な病気”でありながら、朝田さんが指摘するように、「加齢に伴う物忘れ」を認知症と誤解する人は少なくない。また、「認知症になってしまったら、あとはもう悪化するだけ」と思い込んでいる人も多いだろう。こうした誤解や思い込みが、「治せる認知症」を放置してしまうことにつながるケースがある。たろうクリニック院長の内田直樹さんが言う。
「認知症の診断は極めて難しく、丁寧な診察や経過観察が必要です。認知症かと思っていたら、老人性うつやせん妄のような状態に陥っていたということも珍しくはありません。
認知症には治せるものがある
高齢者やご家族には、“認知症になったら治療法はない”と思っているかたもいますが、それは間違いです。認知症には治せるものがあることは、もっと知られるべきでしょう」(内田さん・以下同)

内田さんが指摘する通り、一口に認知症といっても、さまざまな種類がある。
「認知症の原因となる疾患は70あまりあるとされますが、そのなかで3分の3を占めるのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型認知症は脳に特定のたんぱく質が過剰に蓄積し、脳が萎縮することで、記憶障害や見当識障害などの症状が起こるというものです」
次いで頻度が高いのが、脳の血管に障害ができる、いわゆる脳卒中によって酸素や栄養が充分に行き渡らないことで引き起こされる「血管性認知症」だ。ほかにも、レビー小体というたんぱく質が脳にたまって起こる「レビー小体型認知症」、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる「前頭側頭型認知症」などがある。
「認知症は肺炎や甲状腺の機能低下など、疾患によって引き起こされるものもあります。そういった場合、疾患を治療することで認知症が“治る”ことがある。脳の周りにある髄液が増えすぎている状態にある正常圧水頭症や、脳の血管が傷ついて1~3か月ほど血がたまってしまった慢性硬膜下血腫など髄液や血液に脳が押されている状態で、それらを抜けば認知症の症状が治まることがあります。
また、甲状腺機能低下症はその名の通り甲状腺の機能が低下してうつ病のようになっている例で、甲状腺ホルモン剤を内服すれば改善されることがあるのです」
異変に気づき前段階で対処する
治せる認知症であるかどうかは早期発見、疾患の早期治療が何より重要となる。それには、「年をとったら物忘れは仕方がない」と勝手に諦めてはいけない。
認知症が発症する前段階で、日常生活に支障をきたす程度には至らない記憶障害などの症状が表れることがある。これをMCI(軽度認知障害)と呼ぶが、この段階であれば、健常者が認知症へ移行するのを防いだり、発症を遅らせる効果が期待できると朝田さんは言う。

「MCIが疑われる10個の兆候を挙げたので、チェックしてみてください(チェックリスト参照)。いま、しようとしていたことを思い出せなかったり、会話のなかで同じことを繰り返し言ったり尋ねてしまうなど3つ以上当てはまる人はMCIの可能性があります」
内田さんは、年齢を重ねていままでできたことができなくなった場合、MCIの始まりかもしれないと疑うべきとアドバイスする。
「よく、加齢に伴う物忘れと認知症が混同されるケースがあります。言われたらすぐに思い出すことができる場合は加齢に伴う物忘れですが、物忘れを指摘されても何の心当たりもない場合は認知症の可能性が高いと考えていいと思います。
ほかにも、つい先ほど夕飯を食べたことを覚えていなかったり、りんごやみかんなどの身近にある物の名前や家族の名前が出てこない場合は、軽度の認知症を発症している可能性があります」(内田さん)
物忘れと認知症を見分けるサインはほかにもある。朝田さんが続ける。
「つい最近やったことを思い出せなくなったり、同じ行動を何度も繰り返したり、時間を過度に気にして予定時間の前に行動を始めようとする場合は、認知症が疑われます。会話のなかで“あれ”や“これ”を多用したり、曜日や日にちがわからなくなるケースもあります」
“認知症と健常な人の間”とも称されるMCIから認知症に進行させないためには、自身はもとより、家族など周囲の人々がMCIの段階で異変に気づくことが大切だ。少しでも疑わしい兆候がみられた場合は、早期に医師の診断を仰ぐべきだろう。
朝田さんのクリニックでは、MCIや軽度の認知症患者を対象に、「認知力アップデイケア」を毎週実施しているという。
「デイケアでは運動や脳トレのほか、音楽、絵画、料理などのプログラムを1日6時間程度行っています。デイケアに参加しているかたがたの認知機能を認知機能テストで確認したところ、何もしていない人はテストの点数が低下していましたが、参加者は上昇しました」