健康・医療

《50~60代女性は注意》スマホの多様が招く「スマホ認知症」、“脳のゴミ屋敷化”により認知症リスクが上昇 対策として医師が解説するデジタルデトックス習慣

「スマホ認知症」は認知機能を司る「前頭前野」が“運動不足”状態になり、リスクは4~6倍にも(写真/PIXTA)
「スマホ認知症」は認知機能を司る「前頭前野」が“運動不足”状態になり、リスクは4~6倍にも(写真/PIXTA)
写真6枚

いまや生活に欠かせないどころか、“体の一部”になっている人も多いスマートフォン。便利な半面、目や耳、姿勢など体のあらゆる部分に及ぼすデメリットも指摘されている。それはついに脳までも――。

認知症を加速度的に進行させる原因と危惧されるのが「スマホ」

日本人の平均寿命は男女平均で84才となり、30年前と比較し6才ほど“長生き”になった。一方で、慶應義塾大学などの研究チームは3月に「心身ともに自立し健康的に生活できる期間を指す健康寿命との差は広がった」との解析結果を発表。これはすなわち、なんらかの疾患や健康問題を抱えて生きる時間が延びたことを意味する。

そのひとつが認知症だ。高齢化とともに認知症の患者数は増え、“長生きリスク”の代表的疾患といえる。大きな要因は加齢によるものだが、いま加速度的に進行させる原因と危惧されるのが「スマホ」だ。「スマホ認知症」の名付け親である、おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さんが解説する。

「私のクリニックはもの忘れを中心に診療していますが、ここ数年、50~60代の働き盛りの女性患者が増えてきました。クリニックを開いた20年ほど前は、高齢のアルツハイマー型認知症のかたがほとんどだったことを考えると、認知症を発症するにはまだ若い年代です。この背景には、スマホによる“脳過労”があると考えています。

莫大な情報量を脳に入れると同時に、子育てや親の介護、自分自身の老後についてなど不安が多い年代で、その不安を解消しようと調べ物などでスマホを多用する。それによってさらに脳に情報が詰め込まれ、疲弊し、判断力や記憶力、コミュニケーション力が低下してしまうのです」

「脳のゴミ屋敷化」
脳のゴミ屋敷化状態に(イラスト/PIXTA)
写真6枚

奥村さんはこれを、「脳のゴミ屋敷化」と指摘する。

「情報が多すぎて整理整頓ができていない状態です。30代、40代ならばまだ脳機能が活発で多少情報量が過剰気味でも処理できますが、50代になると脳の老化が一気に進み、キャパオーバーになってしまいます。

すると、人やモノの名前が出てこない、気持ちを伝える言葉がパッと浮かばない、相手の話をうまく理解できないといった認知症のような症状が現れる。こうした『スマホ認知症』を単なる老化として放置すると、脳の機能がみるみる低下し、認知症を発症しやすくなることも考えられます」(奥村さん)

認知機能が低下し、感情抑制ができない

スマホが脳に与える影響について、「人間の集中力が低下している」と警鐘を鳴らすのは、東北大学応用認知神経科学センター研究教育戦略部門助教の榊浩平さんだ。

「大きく分けると理由は2つあり、1つ目はスマホの多機能性です。人間の脳は本来、一度にひとつのことにしか集中できないという性質を持っています。一方で、スマホには多数のアプリや機能があり、それを数分、数十秒、数秒ごとに切り替えて使っている。こうした頻繁な注意の切り替えは、脳にとって非常にストレスになり、集中できない原因になります。

2つ目は、通知の影響です。メールや電話、SNSなどの通知が頻繁に目に留まることで注意が散漫になるのです」

また、スマホは「認知機能を司る、脳の前頭前野の機能を低下させる」と榊さんは続ける。

「脳の思考の中枢とされる前頭前野には、考える、理解する、覚える、がまんする、人を思いやる、気持ちを伝えるなどの機能があります。いわゆる知的な働きを担っていますが、スマホを使用しているときはこの領域が使われていないということが研究で明らかになってきています。脳には筋肉と同じような性質があり、使えば使うほど育ち、使わなければ衰える。スマホを多用することで、脳が“運動不足”となり、カナダの研究機関は将来における認知症リスクが4~6倍になると指摘しています。

認知機能が低下することで、前述の通り注意力がうまく働かず運転能力が著しく落ちたり、感情抑制がうまくできなくなるということも懸念されるでしょう」

スマホは前頭前野にダメージ!
スマホは前頭前野にダメージ!記憶や思考、判断など高次機能を持つ前頭前野。スマホを使用すると、この前頭前野の働きが落ちて、脳の萎縮や認知機能低下につながる(イラスト/PIXTA)
写真6枚

無数の情報にさらされ、脳が疲弊し、機能が低下するにもかかわらず、スマホは“依存度が高くなる”からこそ事態は深刻だ。

「現代社会においてスマホは生活に欠かせないデジタル機器です。仕事、調べ物、エンタメ、買い物、そしてコミュニケーションツールと日常のあらゆるシーンで使うことが当たり前になっていて、“なくてはならない”ものになっています。

スマホが生活の利便性や豊かさを高めていることも事実ですが、気づかぬうちに依存していてスマホがないと不安になる、通知がきていないのに音が鳴っているような気がするなど、生活も脳も“支配”されたような状態になってしまうのです」(榊さん・以下同)

電子より紙 動画サイトよりテレビ

榊さんが指摘する通り、あらゆる機能を搭載したスマホに「できないことはない」。だからこそ、読む、聴く、見るなど同じ機能であれば“スマホじゃない方を選ぶ”ことが、スマホ認知症を遠ざけ、脳の機能低下を予防することにつながる。

「たとえば読書について、紙と電子書籍を比較すると、内容の理解度と記憶や知識の定着には大きな差が出るといわれています。いずれも紙の書籍の方が優れている。ただし、重たい本を持ち歩かなくていいのは電子書籍の大きなメリットです。このメリットを生かすためには、電子書籍専用のタブレットを使用することをおすすめします。

電話やメール、SNSなどの機能がある端末だと読書の最中に通知がポップアップ(表示)され、集中力が途切れてしまいます」

紙の書籍を読むことは、脳だけでなく目にもいい
紙の書籍を読むことは、脳だけでなく目にもいい(写真/PIXTA)
写真6枚

紙の書籍を読むことは、脳だけでなく目にもいいと奥村さんが続ける。

「スマホは脳を疲弊させるだけでなく、ブルーライトの発光や画面の小ささから眼精疲労にも直結します。目が疲れることで、睡眠の質の低下にもつながり、ひいては疾患の要因にもなりうる。読書だけでなく、映画やテレビ、動画視聴も同様です。なにより、スマホは“いつでも、どこでも”使えてしまうのがかえってよくない。

紙の本やテレビであれば時間や場所が限定されて区切りができますが、スマホはベッドの中でも、トイレでもお風呂でも操作できてしまうので、“ながらスマホ”で終わりがないまま脳が疲弊していく。日本人は健康のために食生活には気を配りますが、こうしたながらスマホは“脳の暴飲暴食”です」

動画視聴アプリは、CMがないことが利点に挙げられることもあるが、そのぶんかえって際限なく視聴できてしまう。また、使用する個人に合ったアルゴリズム(履歴から興味や関心を分析し、嗜好に合ったコンテンツなどを表示すること)によって、次から次へと「おすすめ」が表示されてしまうため、やめ時を逸してしまう。

榊さんは「調べ物をするときもスマホには頼りすぎないで」とアドバイスする。

「言葉の意味や漢字については、辞書で調べれば前頭前野は非常に活発に働きますが、スマホで検索してしまうとほとんど働きません。なにかを思い出す作業も、脳にとってはとても労力を使うことなので、スマホがやってくれることが癖になると“覚えなくてもいい”と判断してしまう。こうして記憶力の低下が進行するのです」

多機能ではなく、紙の本やテレビなど、単機能の媒体で娯楽を楽しもう(写真/PIXTA)
多機能ではなく、紙の本やテレビなど、単機能の媒体で娯楽を楽しもう(写真/PIXTA)
写真6枚

使われるのではなく主体的に使う

日々の生活で取り入れたいのは「デジタルデトックス」習慣だ。1日のうち、スマホを触らない時間を意識的に設ける、寝る数時間前からは見ないようにするなど意識してみよう。

「前述した通り、スマホによる眼精疲労は睡眠の質を下げます。さらに、スマホを見るとオレキシンという覚醒物質が脳から分泌される。これは、“目の前に敵がいるから寝ている場合じゃない”と脳を覚醒させるのです。認知症の原因となるたんぱく質のアミロイドβは睡眠中に脳外へ排出されるので、充分な睡眠をとれないことは認知症リスクを上げることにもなる。

寝る前はもちろん、日中もスマホから離れてぼんやりする時間を作ったり、スマホに向き合うのではなく運動をしたり他者とのコミュニケーションをとることが、リスクを下げるといえます」(奥村さん)

現在、教育現場ではデジタルデバイスの積極的な導入が進められているが、海外では使用が見直され始めている。榊さんが言う。

「日本に先駆けて教育のデジタル化を進めてきた北欧やヨーロッパ諸国では、“読解力や学力が低下している”ことを理由に、紙の教科書への回帰が始まっています。子供や高齢者にとって必要なのは、デジタル機器に“使われる”のではなく、主体的に使う、ということ。使用目的を明確にし、必要なときにだけ使うことを意識することが求められます」

ブラジルでは、2025年2月から小学校〜高校でスマホ利用が禁じられるように(写真/PIXTA)
ブラジルでは、2025年2月から小学校〜高校でスマホ利用が禁じられるように(写真/アフロ)
写真6枚

自分は依存症じゃないと思っていても、1日の生活記録をリストアップしてみると、気づかぬうちにスマホに生活が侵食されている現実が見えてくるかもしれない。

認知症の“入り口”ともなるスマホ認知症を防ぐために、糖分や塩分と同様、“スマホ節制”を始めよう。

※女性セブン2025年4月17日号

関連キーワード