
夜中に何度もトイレに起きて眠りが浅くなり、日中もぼんやりしている――。こうした「夜間頻尿」は生活の質を下げるのみならず、重篤な病気を引き起こし、死亡リスクを高める危険な症状なのだ。思い当たる人はいますぐ対策を。
50代の5人に1人、60代の5人に2人が悩まされている
良質な睡眠は心身の疲労回復だけでなく、免疫機能の向上、認知機能の維持など健康長寿に欠かせない。しかし、厚労省の調査によると、日本の成人の約20..6%が「睡眠で休養が十分にとれていない」と回答している。充分な睡眠時間がとれないことや、慢性的不眠、そして夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒などが原因だ。埼玉県に住むAさん(58才)が言う。
「昔から寝つきはいいのですが、年をとって夜中に起きてしまうことが増えました。何度もトイレに行きたくなってしまうんです。寝る前に必ずすませても夜中に2〜3回、ひどいときは5〜6回のことも。寝ても寝た気がしません」
いま、Aさんのように50代の5人に1人、60代の5人に2人が悩まされているのが「夜間頻尿」だ。
泌尿器疾患を診療するマイシティクリニック総院長の平澤精一さんのもとにも、「ぐっすり眠れないので朝がつらい」「日中も眠気がとれず、仕事に集中できない」など、相談に訪れる女性が増えている。
「夜間頻尿は男性に多いと思われがちですが、女性の患者も少なくありません。主な原因は加齢によるものですが、“年だから仕方ない“とあきらめてはいけません。睡眠の質を下げ、日中の疲労感やストレスにつながるほか、転倒によるけがや骨折のリスクも高まります。悩んでいるかたや、疑わしい症状があるかたは早めに対策をとるべきです」(平澤さん)
心不全など重篤な病気の原因にも
そもそも頻尿とは、通常よりも短い間隔で尿意を感じる症状のこと。朝起きてから夜に寝るまでに8回以上トイレに行く人は頻尿と診断される。また、外出中に尿漏れが起こりやすかったり、1回のトイレで少量しか排尿できない場合も頻尿が疑われる。女性は尿道が短いため、頻尿になると、トイレに入る前に尿漏れを起こす切迫性尿失禁につながりやすい。

通常、夜間は尿の量を調節する「抗利尿ホルモン」が分泌され、腎臓や膀胱の働きを抑制する。そのため、就寝後はトイレのために1回も起きない状態が「正常」とされる。
「1回起きる程度で、日常生活でストレスを感じていなければ許容範囲でしょう。しかし、2回以上起きてしまう人は慢性的な不眠に陥りやすいですし、60才以上のかたの場合は死亡率が約2倍になるというデータもあります」(平澤さん)
夜間頻尿の原因の1つが、水分の過剰摂取や何らかの病気を患っていることで、生成される尿の量が増える「夜間多尿」だ。特に、加齢とともに抗利尿ホルモンの働きが衰えると夜間多尿が起こりやすい。いびきや無呼吸などによる夜間呼吸状態の悪化、尿を膀胱にためる機能が衰える膀胱蓄尿障害も原因となる。
こうした複合的な要因で起こり得る夜間頻尿は、全身疾患の1つと考えてほしいと警鐘を鳴らすのが、泌尿器・日帰り手術クリニックuMIST東京代官山院長の斎藤恵介さんだ。
「膀胱は尿をためる臓器で、腎臓は体内の老廃物や水分を調整する臓器です。動物にはサーカディアンリズムといわれるホルモンのリズムがあり、夜間の尿の産生を抑えるようになっています。夜間は、生命を維持する重要なホルモンが作られる時間です。それゆえ、排尿で起きる回数が多いと寿命が短くなるという報告があります。
夜間に起きる回数の増加は、夜間の尿量を調整する抗利尿ホルモンや睡眠を調整するメラトニンの分泌量の低下、高血圧、心機能、呼吸状態、睡眠の質など、多岐にわたる全身の状態と関連しています。夜間頻尿は重大な病気が潜んでいるサインかもしれません」
尿意を催しやすい“過活動膀胱”に注意
60才を過ぎると、男性の2人に1人が夜間頻尿に悩まされるといわれる。一方、女性は30~40代を境に夜間頻尿になる可能性が高まると、斎藤さんが言う。
「女性は妊娠を機に体重が増え、骨盤底筋が緩み、膀胱の形状が変化します。年齢を重ねると、骨盤内の臓器を支える筋肉の緩みや体重増加で膀胱や直腸などの臓器が下がり、膀胱を圧迫することがあります。こうした膀胱周辺の変化で膀胱のセンサーが変形し、尿意を感じやすくなります。
女性に特徴的なのが腟内環境の変化です。閉経前後の女性ホルモンの減少で、腟内や尿道の粘膜が薄くなると乳酸菌などの菌がいなくなり、腟内の感染や萎縮、乾燥が起こります。これらが尿道を刺激し、尿漏れや頻尿につながるのです」
こうした体質の変化によって起こるのが、夜間頻尿の原因の1つである、過活動膀胱だ。
「尿がたっぷりたまると膀胱が膨らみ、収縮することによって尿を排出することができます。ところが、過活動膀胱になると尿が充分にたまっていない状態で膀胱が収縮するため、頻繁に尿意を催してしまいます。
過活動膀胱は女性が患いやすい病気で、日中に8回以上トイレに行ってしまう人や、常にトイレを意識して電車やバスに乗れない人、旅行中も常にトイレを探して回る時間が多いなどの項目に5つ以上当てはまる人は要注意です。過活動膀胱、ひいては夜間頻尿の予備群である可能性が高いので、医師に相談することをおすすめします」(平澤さん)

飲水、飲酒習慣を変えるだけで劇的改善
睡眠を妨げ、死を招くことすらある夜間頻尿。「老化現象」と放置せず、生活習慣の改善が欠かせない。もっとも手軽にできるのが、飲み物の利尿作用を理解することだと、斎藤さんがアドバイスする。
「お茶や水の利尿作用は飲んでから2時間後に現れます。就寝2時間前の水分は控え、うがいで口の中を潤すか、1口、2口程度に抑えましょう。一方、アルコールの利尿作用が効き始めるのは4時間後。20時に晩酌を終えて22時に就寝すると、0時頃から尿が大量に作られ始め、深夜2時頃にトイレに行ってしまうのです。これらの習慣を改善し、朝食をしっかりとるだけで、夜間頻尿に悩まされなくなった患者さんは大勢います」
飲水、飲酒の習慣を見直すためには、夜間にトイレに行った回数や時間を表にすることも効果的だ。都田泌尿器科医院院長の都田慶一さんが言う。
「トイレに起きた回数や時間を記録しておくと、『この日は水やお酒をたくさん飲んだか、もしくは運動が足りなかったから、夜中にトイレに起きてしまったな』と、その日の生活を振り返ることができます。私のクリニックでは患者が取った記録をもとに、2~3回トイレに起きるかたであれば、飲水、飲酒の習慣を見直すことで1回までで済むようにアドバイスします」
都田さんは、体の内側、特に内臓などの重要な臓器の温度、いわゆる深部体温の乱れが夜間頻尿につながるとも指摘し、寝室の環境改善も効果があると続ける。
「私たちの体は、外の気温や体の表面の温度とは別に、深部体温をほぼ一定に保つようにできています。深部体温は日中に高く、夜にかけて下がるリズムがありますが、夜に下がりすぎると睡眠が浅くなり、夜間頻尿になるケースがあります。
就寝中の深部体温を調節すれば心地よい眠りにつながり、睡眠障害改善が期待できます。冷えても暑すぎても目が覚めるため、寝具や衣服で布団の中の温度を32~34℃、湿度を40~60%に保つとよいでしょう」
斎藤さんによると、深部体温の調節には就寝前の入浴も効果が高いという。
「ベッドに入る30分前に入浴するか、もしくはシャワーを浴びるだけでも構いません。入浴で深部体温を上げたのち、涼しい部屋に入って体温が下がると、眠気を誘発するメラトニンというホルモンの分泌量が増えるので、睡眠を深くすることができるのです」(斎藤さん・以下同)
適切な運動で夜間多尿を克服
適度な運動は心地よい疲労感をもたらし、安眠につながる。また、日中に体内の水分を排出できるのもメリットといえるだろう。
「夕方のウオーキングや青竹踏み、足裏のマッサージも効果的です。起きているうちに余分な水分を汗や尿に変えてしまえば、夜間多尿の原因を断つことができるでしょう」
平澤さんも、運動によって夜間多尿を予防できると話す。なかでもおすすめなのが、骨盤底筋を鍛える骨盤底筋体操である。
「膀胱を支える骨盤底筋の緩みが頻尿の原因になるので、これを鍛える筋力トレーニングを行います。やり方は簡単。仰向けになって両足を肩幅くらいに開き、両ひざを立てて尿を止める動作を行います。これを3秒キープした後、緩めるだけ。1日2~3回、3セット続けるだけで、尿漏れの症状は改善されます。肥満の予防にもなるので、現時点で頻尿に悩まされていない人も取り組んでみてください」(平澤さん・以下同)
尿意を催してもトイレをがまんし、排尿の間隔を延ばす膀胱訓練も有効だ。
「最初は1~2分がまんすることから始め、15~60分単位でがまんできるようになればかなりの改善です。これを繰り返すことで膀胱の容量を増やし、2~3時間がまんできれば目標達成です。膀胱炎の人は行ってはいけませんが、日中の頻尿に悩まされているかたにも有効です。トイレの不安が解消されるだけでも、ストレスの軽減になることでしょう」
生活習慣の見直しや運動の継続で、夜間頻尿は改善できる。

※女性セブン2025年6月5・12日号