健康・医療

50才以上は要注意!知らない間に蓄積…血管病のリスクを高め、心疾患や糖尿病も招く“第3の脂肪”「心臓脂肪」とは?

白背景で動悸を感じる中年女性 顔無し
心疾患や糖尿病も招く“第3の脂肪”「心臓脂肪」とは?(写真/イメージマート)
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心臓にも脂肪がつくということをご存じだろうか。知らない間に蓄積し、健康を徐々に蝕むため「エイリアン脂肪」の別名もある。心臓脂肪の正体を知り、回避する生活習慣を身につけたい。

心疾患リスクを高める「異所性脂肪」

昨日までは元気だったのに翌朝、突然死──。その原因は、気づかないうちに心臓の周辺についた“心臓脂肪”が原因かもしれない。脂肪といえば、皮下脂肪や内臓脂肪などが肥満や病気のリスクとしてあげられるが、いま心臓脂肪に悩む人が増えているという。医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋理事長で循環器専門医の寺島正浩さんが言う。

「お腹の内側や内臓に脂肪がついてメタボリックシンドローム(メタボ)になると、生活習慣病を引き起こすのと同じメカニズムで、心臓に脂肪がつくと、心臓や周囲の血管を傷つけて健康を害します。

内臓脂肪は腹囲が増加するなど、見た目に変化が現れることが多く気づきやすいですが、心臓の場合は自覚症状がないまま、突然死につながることがあります。発見するには、心臓MRIや心臓CTを用いた心臓ドックで検査することをおすすめします」

左は22才女性、やせ型の健常者の心臓MRI画像。右は49才男性、メタボリックシンドローム患者の心臓。全体に脂肪がこびりついているのが見える(画像提供/医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋)
左は22才女性、やせ型の健常者の心臓MRI画像。右は49才男性、メタボリックシンドローム患者の心臓。全体に脂肪がこびりついているのが見える(画像提供/医療法人社団CVIC心臓画像クリニック飯田橋)
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そもそも“心臓脂肪”とは何なのか。福島県立医科大学糖尿病内分泌代謝内科学講座教授の島袋充生さんが解説する。

「よく知られている皮下脂肪や内臓脂肪は、健康なかたでもたまる場所の脂肪なので『正所性脂肪』と呼ばれます。皮下脂肪はお腹の皮膚の下にあって手でつまめる場所にあり、内臓脂肪は腸周辺の手でつまめない深い場所にあります。

一方、“本来健康なかたではみられない場所にたまった脂肪”を『異所性脂肪』と呼びます。異所性脂肪の代表は、肝臓に脂肪がついた脂肪肝。心臓の周囲、血管、心筋細胞に脂肪がついたら心臓脂肪です。腎臓や筋肉にも異所性脂肪は蓄積します」

異所性脂肪の原因は体重増加だという。

「皮下脂肪は健康に悪い影響はほとんどなく、善玉脂肪と呼ばれます。成人女性は8〜11㎏、男性で6〜7㎏ほど皮下に脂肪がためられますが、それ以上の脂肪は悪玉と呼ばれる内臓脂肪にたまり、さらにそれ以上の脂肪は異所性脂肪にたまります。異所性は“第3の脂肪”ともいわれ、肝臓や筋肉に脂肪がつくと、インスリンが効きにくくなり糖尿病を誘発します」(島袋さん・以下同)

心臓の周囲に脂肪が蓄積されると、命にかかわる心疾患のリスクも高くなる。

「心臓のまわりに脂肪が過剰に蓄積すると、慢性炎症を起こすサイトカインが分泌され、心臓まわりの血管や筋肉に影響を与え、狭心症や心筋梗塞、心不全につながります。加えて心臓を動かす回路にも影響して、不整脈のひとつである心房細動が起こりやすくなります」

女性は閉経後に注意が必要

ではどのような人に、異所性脂肪がつきやすいのか。

「20才時の体重から男性で7㎏以上、女性で11㎏以上増えたかたは異所性脂肪がつきやすく、循環器系の病気に罹患しやすい」と島袋さんは指摘する。

「女性は男性より皮下脂肪が多く、内臓脂肪や異所性脂肪がたまりにくいため、心疾患のリスクは低い。若い頃からぽっちゃりタイプで体重が変わらない人は皮下脂肪型で、内臓脂肪や異所性脂肪がつきにくいと考えられます。一方、若い頃はやせていても、40~50代以降に体重が増えた人は、要注意です。女性の場合、20代よりも20㎏増えていたら、心臓に脂肪がついている可能性が高い。

血液検査の項目である『γ-GTP』(基準値は30U/L以下)が31を超えて脂肪肝の疑いがある人や、メタボの人も、心臓に脂肪がたまっている可能性があります。しかし、健診では心臓脂肪を測定しないため気づかない人がほとんどです」

イラスト/喜多啓介
イラスト/喜多啓介
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寺島さんは、女性は閉経後が危険だと続ける。

「閉経すると女性ホルモンが減少して代謝バランスが変わるため動脈硬化のリスクが増加します。また、年を重ねると皮下脂肪より内臓脂肪がつきやすくなるので、出産などを経て若い頃から体重が増加し、閉経を迎えたときに戻っていない人は注意が必要です。運動は重要ファクターで、運動量が少ない人は内臓脂肪や異所性脂肪がたまりやすい傾向にあります」

心臓脂肪のリスクを遠ざけるために有効なのは、まず第一に運動習慣をつけることだ。

「1日30分程度の有酸素運動がおすすめ。歩く・走る・泳ぐ・自転車など何でもかまいませんが、ある程度の心拍数まで負荷をかけて行うのがポイントです。スマートウォッチなどで計測できるなら、脈拍が110~120程度。少し息が上がるくらいが目安です。おしゃべりする余裕がないくらいの負荷がちょうどいい。

とはいえ、これまで運動習慣がなかった人は、ウォーキングから始めるといいでしょう。散歩だけでも、脂肪を落とすことは可能です」(寺島さん)

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