
日本では加熱式たばこが普及している。厚生労働省の調査によれば、喫煙者の約4割が利用しているという。紙巻たばこに比べて、健康への影響が小さいというメリットも知られているが、喫煙者はどんなことに注意するといいのだろうか。獣医師の鳥海早紀さんに解説してもらった。
犬や猫といるときに加熱式たばこは?
加熱式たばこが日本に上陸したのは2014年11月。フィリップモリスジャパン(東京・千代田)が加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」を名古屋でテスト販売し、2016年4月には全国に展開した。歴史は10年ほどと浅いが、一般社団法人日本たばこ協会の統計によれば、2024年の販売数量は前年比12.6%増の659億本にも上るという。紙巻たばこは同5.8%減の828億本なので、逆転する日も近いかもしれない。
加熱式たばこは、紙巻たばこに比べて煙や臭いが少ない、火を使わない、灰が出ない、健康への影響が小さい、といった点が喫煙者の心をつかんでいるようだ。ならば、愛犬や愛猫を撫でながら加熱式たばこを吸うようなスタイルもアリなのだろうか。
鳥海さんは、「加熱式たばこは紙巻たばこに比べると健康への影響が小さいことで知られていますが、『全く影響がない』わけではないので、その点は意識していただきたいです」と話す。
加熱式たばこでは、たばこ葉の入ったスティックを加熱して蒸気を吸う。燃やさないので煙や灰は出ないが、吸った人が吐くエアロゾル(蒸気状の粒子)には微量ながらニコチンやアセトアルデヒド・ホルムアルデヒドなどが含まれる。東京都では加熱式たばこも受動喫煙防止条例の規制対象であり、決められた場所以外では喫煙できないことになっている。

人気犬種や人気猫種の多くは平均体重が5~6kg未満で、人間の大人にとっては少しのことにも大きな影響を受ける可能性がある。犬や猫といる時間は、加熱式たばこであっても喫煙を控えたほうがよさそうだ。
たばこは換気扇の近くで
とはいえ、たばこを吸うときに毎回、犬や猫のいる部屋から出るのは面倒という人も多い。犬や猫と暮らしている喫煙者のうち、およそ4割が犬や猫のいる部屋で吸っていて、同じく4割程度が部屋は同じでも換気扇のそばで吸っているのが実態だという(アニコム損害保険「どうぶつkokusei調査 2016」)。約10年前の調査結果なので、このときは紙巻たばこを吸っている人の回答が多かったはずだが、加熱式たばこでも実態は大きく変わらないものと思われる。
「紙巻たばこの副流煙や加熱式たばこのエアロゾルに含まれる有害物質は空気より重いので、低いところに溜まっていくはずです。特に、煙が出る紙巻たばこを吸う場合には、愛犬や愛猫の健康のために、少なくとも立って換気扇のそばまで行くことはしてもらいたいなと思います」(鳥海さん・以下同じ)
紙巻たばこの副流煙を犬や猫が吸った場合、アレルギー性皮膚炎を発症したり、せきやくしゃみが出たりすることがある。また、一過性のせきやくしゃみにとどまらず、ぜんそくや気管支炎になったり、鼻腔がん、肺がんのリスクが高まったりするとも言われている。
「動物病院に連れられて来た犬や猫のうち、感染症ではなく、かゆみなどの皮膚症状が出ている場合、せきやくしゃみがどうも止まらないという場合には、飼い主さんにたばこを吸ったかどうか質問しますね。吸ったかたには『この子の前ではなるべく吸わないでください』とお伝えしています」
誤飲に注意…加熱式たばこもしっかり管理を

紙巻たばこの副流煙や、加熱式たばこのエアロゾル以上に、犬や猫の健康にとって深刻なのが、誤飲だ。犬や猫が紙巻たばこやその吸い殻を誤って飲み込むと、数分でニコチンの中毒症状が現れることも。ニコチン中毒になると興奮して活動的になったり、よだれを流したり、下痢や嘔吐の症状が出たりする。重篤になると、震えやけいれんが出て立てなくなり、昏睡状態になって、悪くすれば命を落としてしまう。
最近は、紙巻たばこの誤飲よりも、加熱式たばこのスティックを誤飲したという事故が増えているそうだ。たばこスティックの誤飲は容器が消化器官を傷つける恐れがあるし、容器が壊れると中に入ったたばこ葉を摂取することになってしまい、やはりニコチン中毒の危険性がある。
「加熱式たばこに切り替えた愛煙家の方に、少し油断があるような気がして、心配しています。紙巻たばこほど健康に害があるものではないんだという意識があるために、取り扱いが無頓着になりがちなのかもしれません。例えば、低いテーブルの上に置きっぱなしにしてしまうとか、紙巻たばこだとあまりなかったようなケアレスミスも散見されます。加熱式たばこも気を抜かずに管理して、事故が起きないように努めたいですね」
◆教えてくれたのは:獣医師・鳥海早紀さん

獣医師。山口大学卒業(獣医解剖学研究室)。一般診療で経験を積み、院長も経験。現在は獣医麻酔科担当としてアニコムグループの動物病院で手術麻酔を担当している。
取材・文/赤坂麻実