
健康にまつわる情報は巷に数あれど、どれを信じたらよいのか疑心暗鬼になりがち。私たちが知りたいのは、実際に“効果があった”習慣だ。そこでいま注目されているデータがある。1万人を60年間追跡調査した世界最長の統計研究が明らかにした、日本人の普遍的な健康法則を公開する。
世の中にあふれる「健康になる方法」や「長生きするための術」。なかには根拠に乏しいと思える“ニセ情報”もある。
そんななか、話題になっているのが、1万人を60年間追跡調査したことで導かれた「健康習慣」だ。
『10000人を60年間追跡調査してわかった健康な人の小さな習慣』の著者で、福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授の大平哲也さんが言う。
「健康寿命を延ばすために必要なのは、医学と統計学をかけ合わせた『疫学調査』です。データが示す確かな真実に基づいた健康知識は“当たり前”と思われることも多いですが、それをいかに続けるか考えることもまた健康長寿への一歩となります」
新潟大学名誉教授の岡田正彦さんも、疫学調査の有用性を高く評価する。
「さまざまな研究方法のなかで最も信ぴょう性のある調査手法が“疫学調査”です。これ以上に優れた調査法は現状存在しないといってもいい。健康情報を知りたいならば、疫学調査の結果を真っ先に見てほしい」(岡田さん)
朝食を食べると肥満リスクが減る
体によい食べ物、悪い食べ物に関して、疫学調査で導かれたのは「魚と野菜は否定する要素がほぼない最強食材」だということ。
「魚に含まれるDHAやEPAといった良質な脂肪は、中性脂肪を下げ血管の健康を保ち、脳梗塞や心筋梗塞などの心血管疾患を予防します。
また、野菜は摂取量が最も多いグループでは少ないグループより全死亡率が7~8%低い結果です。野菜はカロリーが低いので、カロリー過多の現代では特に積極的に食べるといいでしょう」(大平さん・以下同)
朝食を食べている人ほど、肥満や糖尿病のリスクが減ることも明らかになった。
「1日2食に比べて、3食では食べる総量は多くなりますが、1食当たりの量は少なくなる。日本人は血糖値を下げるインスリンが出にくいので、分けて食べることが有効。栄養バランスを整えることで循環器疾患リスクが下がります」
近年、野菜や果物、魚や豆類を積極的に食べる「地中海食」の健康効果に注目が集まっているが、大平さんは日本人にはやはり「和食こそが最強」だと言う。
「もともと、野菜や魚を中心とした地中海食は和食と類似しており、心筋梗塞リスクが低いことや、認知症リスクが最大61%下がることが研究で明らかになっています。循環器疾患を減らすことも複数の疫学研究で証明されています。
ただし、地中海食はあくまで海外の食文化ですから、日本人にはなじまない部分もある。無理に地中海食を取り入れるより、ご飯、みそ汁、海藻、魚介類、緑茶などの和食の方が食べやすいはず」

ただし、一方で問題もあり、和食は塩分過多とカルシウム不足になりやすい。
「塩分を減らし、カルシウムを増やせば和食は最強の食事となります。みそ汁はだしを入れて塩分を調整し、具だくさんにして汁の量を減らすといいです。
具に適した海藻類や大豆製品などはカリウムを含み、塩分の影響も減らせます。カルシウムは中性脂肪を増やしにくい『低脂肪乳』もしくは、ヨーグルトをプラスすると補えます」
デザートには果物がおすすめ。果物を頻繁に食べている人は、食べていない人に比べうつ病リスクが最大66%低くなっていた。
興味深いのは日本人と飲酒の関係だ。
「海外では飲む量に比例して体に悪影響を及ぼすとされる酒ですが、日本人のデータでは1日1合まではお酒を飲む人の方が少し長生きだったりします。1合までであれば善玉コレステロールが増え脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げるという研究もある。
ただし2合を超えると逆効果で善玉コレステロールが減り、翌朝の血圧が上がるので循環器疾患リスクが増加します」
あらゆるデータで最も寿命を縮めるものがたばこだ。日本人の死因1位のがん、2位の心疾患、4位の脳血管疾患とトップ要因のリスクを押し上げてしまう。
運動の健康効果は「治療」に匹敵する
いまや医師の間では、「運動は治療と同じぐらいの効果が見込める」というコンセンサスが、定着しているほどだ。日本の研究機関やWHO(世界保健機関)も週に150分以上の有酸素運動が健康寿命を延ばすと推奨している。
医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは、日本人の運動習慣のなさを嘆く。
「運動はがんを含めた20種類以上の慢性疾患を予防することがわかっています。運動習慣がある人は2~4割ほど骨折が予防でき、高齢者の死亡要因になっている要介護の予防につながります」(上さん・以下同)

ではどのような運動が有効なのか。
「階段を上る、少し速く歩くという程度でも充分な効果があります。重要なのは脈拍が安静時より少し上がることで、目安は『200-年齢』を超えない範囲です」
WHOの試算では運動の機会が多いほど全死亡リスクを2~3割減らし、寿命が3~4年延びるとされる。だが何事も限度がある。
「激しい運動は体内で炎症が起こり、細胞を傷つけてがん化の要因になると指摘されています。運動をするほど筋肉を増やす『グロースファクター』と呼ばれるたんぱく質が増え、これが多すぎるとがんを増やす可能性があります」
大事なのは生活の中で自然に運動できる環境を作ることだ。
「歩くことによる健康効果は複数の研究で明らかになっています。駅まで15分ほどの距離に住めば、駅の往復だけで30分の運動に、犬を飼えば朝晩の散歩で自然と必要量の運動ができます。
日常での工夫では、買い物を商店街で行えば、店を見て回ることでスーパーより運動になる。エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使うことも有効です」(大平さん・以下同)
こうまで運動が健康に有効なのは、日本人が肥満に弱い民族という背景がある。
「欧米人に比べて日本人はそれほど重度な肥満でなくても高血圧、高血糖、脂質異常症が起こりやすい。
一方で体重が増加してもこれらの異常が出なければ、BMI27・5までは日本人でも寿命が長くなります」
多少のストレスががんと認知症を遠ざける
「ストレスが健康によくない」ことは周知の事実だが、人生のストレスは40代をピークにして60代では半減することがわかっている。
理由は子育てが終わり、仕事をリタイアして人間関係もシンプルになるなどが考えられるが、人間関係が希薄になる方が健康には悪いので注意したい。
「配偶者がいる高齢者は男性で10年、女性で4年寿命が長くなります。これはストレスの解消法で『家族や友人と話す』と回答した人の高血圧が4割少ないのと同じ傾向です」
岡田さんは「多少のストレスは体に必要」と言う。
「ストレスがほぼない人は認知症になりやすいという研究もあります。またストレスが多い人ほど、がんのリスクが下がることもわかっています」

解消法として「笑う」ことは重要だ。作り笑いで声を出すだけでも血糖値や血圧が下がるという。
「人がいちばん自然に笑えるのは会話をしているときです。笑いに関する疫学調査では、ほとんど笑わない人はよく笑う人と比較して要介護リスクが2倍になりました。
そのほか、糖尿病リスクが上がることもわかっています。笑うために外出すると運動にもなり、うつ病対策にもなります」(大平さん・以下同)
積極的に「ありがとう」と感謝を口にするのもいい。
「感謝されるよりも、感謝する方がQOL(生活の質)の上がり方が大きいことが、多数の研究から判明しています。人のQOLを上げて幸せにしながら自分も健康になれるのが“ありがとう”という言葉なのです」
健康の大正解は「知る」だけでなく、「実践」し「続ける」ことで寿命が延びる。
※女性セブン2025年7月31日・8月7日号