
夫や親を亡くした後、悲しみに暮れる間もなく押し寄せる「死後の手続き」。そのなかで、近しい人が亡くなった後の最大の仕事は、「相続」だ。膨大な手間と気力がかかる相続の“最短ルート”を辿るための便利な制度や、手続きの効率を最大化させるテクニックを専門家に取材した。【前後編の前編】
最初にすべきは「財産総額チェック」
相続放棄は3か月以内、相続税の申告と納税は10か月以内、相続登記は3年以内と、相続には手続きごとに期限が設けられている。締め切りが近いものから順に終わらせていけるよう準備を進めていくことが「最短相続」の何よりのポイントだ。
まず着手すべきは「財産総額のチェック」と「法定相続人の把握」で、これができなければどの手続きも進めることができない。ベリーベスト法律事務所の弁護士・佐久間一樹さんによれば、この2つのうち特に優先しなければいけないのが「財産総額のチェック」。
「法定相続人の把握は、のちに必要な戸籍謄本を集める段階でわかります。一方で、どこにどんな財産があるのかは、調べるのに時間がかかる。もし借金が残っていれば3か月以内に相続放棄の手続きに進む可能性もあるので、真っ先に財産総額を確認しましょう」
さまざまな財産の中でも最初に確認すべきなのは「通帳」だ。税理士でマネージャーナリストの板倉京さんが言う。
「亡くなったことが銀行に伝わると口座が凍結されるので、その前にまずは記帳しておきましょう」
どの銀行に口座を持っているかわからなくても、今年4月に始まった「預貯金口座付番制度」を使えば簡単に確認できる。行政書士で相続・終活コンサルタントの明石久美さんが話す。
「マイナンバーとひもづけて、どの銀行に口座を持っているか照会できる制度です。ただし、口座名義人がマイナンバーとすべての銀行口座をひもづける手続きをしておく必要があるので、終活の一環として手続きを検討してもらいましょう」

ほかにも、株式なら「証券保管振替機構(ほふり)」に「登録済加入者情報の開示請求」をし、生命保険なら生命保険協会に「生命保険契約照会制度」で照会したい旨を問い合わせればいい。必要に応じて、借金の調査も忘れずにしておこう。
「クレジットカードなどの借入の履歴は一定期間、信用情報機関に残ります。弁護士に依頼もできますが、一般の人でも郵送やインターネットで開示請求できます」(佐久間さん)
その後、財産把握の最たるもの、不動産をチェックしよう。場所や評価額を調べるのには手間がかかるが、だからといって慌てて手をつける必要はない。
不動産関係の手続きは比較的時間がかかるものが多いため、戸籍謄本などの必要書類を提出すると、手続きが完了して書類が返却されるまで、次の手続きに進めなくなる可能性もある。
不動産の所在地を調べるには、市区町村の「名寄帳(なよせちょう)」を確認しよう。市区町村役場の固定資産税課などに問い合わせれば、共有名義の不動産もわかる。
「名寄帳ではその市区町村にある不動産だけが記載されていますが、2026年2月からは、全国区で所有不動産が確認できる『所有不動産記録証明制度』が始まる予定です」(板倉さん)
所有していた不動産がわかれば、あとは評価額を調べるだけ。名寄帳と一緒に評価証明書を取り寄せるか、毎年春に届く固定資産税の納税通知書があれば、それを確認すればいい。