健康・医療

《1万歩では健康に害?》「1日7000歩」歩くだけで死亡リスクが減少との研究結果 医師が健康効果を解説「歩くことはマルチタスク。認知症予防にも役立つ」

「1日7000歩」歩くだけで死亡リスクが減少
「1日7000歩」歩くだけで死亡リスクが減少(写真/PIXTA)
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「1日1万歩」は健康増進のためのわかりやすい指標として、多くの人が目安としている数字かもしれない。しかしこのたび発表された海外の研究成果によると、心血管・脳血管疾患、がん、認知症など多くの疾病リスクを軽減する健康効果の高い歩数は「1日7000歩」だという。達成のハードルが低くなるのは朗報。さっそく街に出よう。

1日に7000歩歩く習慣をつけるだけで死亡するリスクが減少

毎日のウオーキングを習慣にしている人は多いが、「どのくらい歩けばいいか」を正しく知る人はどれほどいるだろうか。7月23日、豪シドニー大学などの研究チームは、公衆衛生専門誌『ランセット・パブリック・ヘルス』にて“理想の歩数”を示す研究成果を発表した。

1日に7000歩歩く習慣をつけるだけで、2000歩しか歩かない場合に比べて、病気などで死亡するリスクが約47%減少したというのである。ほかにも、うつ症状が約22%、2型糖尿病が約14%改善されただけでなく、がん発症リスクは約6%、転倒のリスクが約28%、がんによる死亡リスクが約37%、認知症の発症リスクが約38%低下したという。

これまでは厚労省をはじめ、1日1万歩を指標にすることが“常識”だった。ところが、研究チームが1万歩と7000歩を比較したところ、多くの病気の予防において大差がないことが判明したのだ。

群馬県在住のAさん(56才)が話す。

「ひざや腰の痛みをとるために体重を減らしたいと考え、この春からウオーキングを始めました。歩数計を買って、1日1万歩を目指していましたが、8000歩、9000歩までは頑張れても1万歩は意外と難しくて…。こんなんじゃ歩いている意味がないかもしれないと落ち込んでしまって、もう歩くのをやめようかなと思ったこともありました。

でも7000歩で健康効果を得られて、死亡リスクが下がるならこれまでのウオーキングにも意味があるということですよね。単純ですが、すごくうれしいです(笑い)。明日からも歩こうと思います」

歩きすぎると免疫機能が低下

長尾クリニック元院長の長尾和宏さんは今回の研究で、改めて歩行の有用性が医学的に立証されたと話す。

「私は経験上、病気の9割は歩くことで改善できると考えています。今回判明した歩行の効能はそれを裏付けるものです。私の患者さんで、歩くだけで血圧が10~20mmHg下がった人は珍しくありません。認知機能やアレルギー疾患が改善した人や、末期がんを宣告されたのちに、腫瘍マーカーが約10分の1に下がった人もいます」

歩行は日常生活に取り入れやすいうえ、特別な機器も不要で、サプリメントを買う必要もない。もっともコスパがよい優れた健康法なのだ。

山名さんのように1万歩を目標にしていると、日頃から運動に慣れていない人は筋肉疲労やけがなどのリスクがあり、義務感にとらわれてストレスになることもある。

実際、いくつかの研究では「7000歩以上歩いても、健康効果は頭打ち」であることや、「高齢者にとって、1日あたり約5000~7000歩で死亡リスクの減少効果が底を打つ」ことも明らかになっている。そればかりか、1万歩のウオーキングで体に疲労が蓄積すると免疫力が低下し、病気になりやすくなるという指摘もある。

高齢者にとって7000歩は過度な負担をかけない現実的な指標。さらに、成人が1万歩を歩くためには約90分かかるが、7000歩なら約60分ですむ。7000歩は、運動が苦手な人も目標にできる歩数といえるのだ。

7000歩の歩行習慣が精神面に与えるメリットも

歩くだけで死亡リスクが軽減するメカニズムを、湘南東部総合病院の医師・中山祐次郎さんが解説する。

「歩くことを習慣づければ、肥満が解消されるだけでなく、高血圧や糖尿病などといった生活習慣病の予防につながるといえます。

私はがんの専門医ですが、がんの多くは生活習慣と関連があり、糖尿病や高血圧などと同様に予防可能な側面もあります。したがって、生活習慣を改善することで、がん、心筋梗塞、脳卒中のリスクを減らせます。なお、日頃から歩く習慣があったかたは、がんの手術後に高齢であっても回復が早く、合併症などのトラブルもほとんどみられません」

うつ症状の改善など、7000歩の歩行習慣が精神面に与えるメリットも大きい。長尾さんが話す。

「幸福感を感じさせる働きをもつセロトニンという幸せホルモンは、リズムよく歩くことで分泌されやすくなります。また、感情調整や自律神経のバランスを整えるセロトニン神経は、朝の太陽光が目の網膜に入った刺激によって活性化しやすいため、うつ病の予防になるといえます」

まつだ整形外科クリニック院長の松田芳和さんは、歩行が体に与える刺激の効能に注目する。

「近年、立ち上がったり、座ったりできる移動機能が衰え、日常生活で介助が必要になってしまうロコモティブシンドロームの患者が増加しています。歩行によって筋肉や骨に与えられる適度な刺激が、その予防に効果があると考えられています」

長尾さんもこう続ける。

「歩くことは、筋トレをしているのと等しい効果が得られるため、年齢とともに体の機能が弱まるフレイルや、骨の強度が低下して起こる骨粗しょう症の予防にも役立ちます」

7000歩歩けばこんな効果が!
7000歩歩けばこんな効果が!
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脳を刺激するマルチタスク

感染症や不眠など、現代人を悩ませる病気の予防にも歩行が有効と話すのは、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんだ。

「軽度の運動は免疫力を高めるため、ウオーキング習慣は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクを下げることがわかっています。また、ダイエット効果で首まわりの気道を圧迫する脂肪を落とすことで、睡眠時無呼吸症候群のリスクが下がる効果も見逃せません。悩まされるかたが多い不眠の予防にこそ、歩行が最適といえるでしょう」

歩くことは認知機能向上にも役立つ。

「そもそも人間にとって歩くことはマルチタスクであり、頭を使う行動なのです。何気なく歩いているときでも、坂道ではつま先の角度を変えたり、縁石などの障害物を避けている。つまり、歩行は脳を刺激する行動で、認知症の予防に役立つともいえます」(大谷さん)

ランニングよりウォーキング

健康のためにランニングを実践している人も多いはず。しかし、医学的にはランニングよりも、ウオーキングが推奨されている。松田さんがこう解説する。

「走ることでひざや足関節に加わる衝撃は体重の2〜3倍にもなるため、体を傷めかねません。歩行は関節や筋肉への負担が少ないうえ、安全性が高いのが最大の利点で、変形性膝関節症や腰痛などのリスクを抑えることができます。

また、一定時間以上の有酸素運動を継続することで、脂肪の燃焼や血糖値のコントロール効果が高まる点においても、歩行の優位性が注目されています」

長尾さんも付け加える。

「基本的に適度な有酸素運動は体にいいのですが、走ることは急激に心拍数が増え、心臓にかける負担が大きい。

ランニングを続けると活性酸素が増え、かえって老化が早まるといわれます」

歩き始めようと思い立ったとき、何から始めればいいのだろうか。そもそも日本人は座っている時間が長い、世界有数の“歩かない”国民である。まず、家を出ることから始めてほしいと、大谷さんが話す。

「1日2000歩という歩数は、ほぼ家から出ない状態に近い。運動習慣がないのと一緒で、生活習慣病のリスクが高まるのは当然です。まずは外に出て1000歩でも2000歩でも歩く習慣をつけましょう」

長尾さんがこうアドバイスする。

「歩数や速度や時間にこだわらず、こまめに歩く習慣をつけることから始めましょう。時間があったら散歩する、ウロウロする、階段を上る、そんな気軽な感覚でかまいません。

今回の研究で、心血管疾患の死亡リスクは歩数が増えるほど減っていき、5400歩を超えたあたりから減少が緩やかになることがわかりました。7000歩は目標にすべき歩数ですが、5000歩でも相応の効果があるといえるでしょう」

ウオーキングシューズなどの本格的な装備を買いそろえる必要はなく、普段着のままでかまわない。また、7000歩を一度に歩く必要はない。通勤や買い物の隙間時間を活用し、トータルの歩数で達成すれば問題ないと、中山さんが言う。

「電車通勤の人は一駅前で降りて歩く、車通勤の人はあえて遠くに駐車場を借りる。会社員ならランチのついでに職場のまわりを散歩するのもいいですし、専業主婦なら朝夕に散歩するのをおすすめします。夏場の昼は気温が高く、熱中症のリスクもあります。涼しい朝や夕方、夜に散歩するのがいいでしょう」

将来の自分への「投資」として歩く

大谷さんは診察の合間や食後にクリニックや自宅の周囲を歩くようにしている。

「同じコースの繰り返しでもかまいませんが、街歩きを楽しみながらさまざまなコースを歩いた方が継続できると思います。ただ、車の多い幹線道路沿いを歩くと、PM2・5を吸い込んでしまいますし、交通事故に遭うリスクも高くなる。公園など、緑が多く空気がきれいなところを歩くのがおすすめです」

スマホのアプリを使って、歩数を管理するのも効果的だ。松田さんが言う。

「歩数の目安は、歩数計やスマホのアプリで確認できます。通勤の際にエスカレーターではなく階段を使うなど、日常生活に歩行を組み込めば、7000歩は容易に達成できます」

歩数計やアプリを活用すれば、7000歩の達成が容易になる(写真/PIXTA)
歩数計やアプリを活用すれば、7000歩の達成が容易になる(写真/PIXTA)
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ペットを飼う人が増えているが、たとえば犬と過ごすことは歩行習慣の継続にメリットが大きい。

「犬の飼い主は必然的に散歩をしなければいけないので、歩行が習慣になります。犬の体調を考え、朝の5~6時台の涼しいうちに歩きましょう」(中山さん)

犬の散歩はウオーキング習慣につながる(写真/PIXTA)
犬の散歩はウオーキング習慣につながる(写真/PIXTA)
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歩行は、楽しく続けることが長続きするコツである。松田さんがこう話す。

「歩くことは将来の自分のためになる“投資”のような健康習慣。パートナーや友人を巻き込みながら、継続してほしいと思います」

千里の道も一歩から。7000歩を達成するためには、まず第一歩を踏み出すことが大切だ。歩行を日課にして、健康な体と充実した毎日を手に入れたい。

※女性セブン2025年8月21・28日号