
人生100年時代のいま、晩年に“寝たきり”になる可能性も否定できない。寝たきりになると活動範囲が狭くなり生活の質(QOL)が下がり、それまでの日常が一変する。ただ、仮に寝たきりになったとしても、幸福度を上げる方法は存在するという──。【全3回の第3回】
たとえ病気になり骨折したとしても「幸せな寝たきり」になればいい
いろいろな対策を講じてもなお老化には抗えず、寝たきりになるケースは現実に少なくない。だからといって、「寝たきりだから不幸」と決まったわけではない。いまの日本には、家にリハビリ専門職が来る訪問リハビリ、家に看護師が来る訪問看護、家にヘルパーが来る訪問介護、家から出かける通所リハビリやデイサービスなど、多様な介護保険サービスがある。国際医療福祉大学医学部教授(リハビリテーション医学)の角田亘さんが解説する。
「こうしたサービスを味方につければ、寝たきりになっても幸せに生きることができます。ずっと健康でいられる健康長寿ではなく、仮に脳卒中などで寝たきりになったとしても、余生を幸せに、長く生きられる“幸福長寿”は可能なんです」(角田さん)
もちろん、寝たきりになっても幸せに生きるには、家族をはじめとした周囲のサポートが欠かせない。医師で作家の鎌田實さんが言う。
「特に介護保険を上手に使うにはケアマネジャーの協力が必須です。理学療法士や作業療法士など専門家がリハビリを行うデイケアや介護老人保健施設など、どのようなサービスや施設を利用するかは、幸せな寝たきり生活を送るためのカギを握ります。じっくりケアマネと相談し、自分自身がこれからどう過ごしたいかを反映したケアプランを組み立てることを心がけてほしい」(鎌田さん)
寝たきりでもすべてを他人任せにするのではなく、自分でできることは自分で行うことは、自尊心を持ち「自分は不幸だ」と思い詰めないことにつながる。幸町歯科口腔外科医院院長の宮本日出さんが言う。
「最低限、トイレに歩いて行くためにたんぱく質を摂取することが大事です。そのためにも、歯がなければ入れ歯などの口腔ケアを施し、口腔機能を回復することが欠かせません。口から栄養が摂れるようになったら、筋肉も自然と元気になります。
また、脳と腸は『脳腸相関』といって相互に影響するので、食物繊維を多めに摂るなどの“腸活”をして腸の調子をあげると、幸せホルモンが分泌され脳の状態がよくなります。心と体が健康になれば、幸せな寝たきりに近づけるはずです」(宮本さん)

大切なのは健康に直結する器官だけではない。他者とコミュニケーションを取り続けるには「視覚」と「聴覚」も重要になる。二本松眼科病院副院長、医学博士でもある平松類さんが言う。
「寝たきりになって楽しめるのはテレビやラジオを視聴したり、家族の顔を見て話を聞いたりすること。つまり目と耳を使う行為がほとんどです。聴覚なら補聴器、視覚なら眼鏡を使ったり、白内障治療を早めに進めておくなど、目と耳の機能を回復することは、QOLを維持して不幸な寝たきりを防ぐため必要不可欠です」(平松さん)
終末期医療についても考えておきたい。日本に寝たきりが多いのは国民皆保険で医療制度が充実し、長期に入院して終末期医療を受けることが可能だからという指摘もある。
「終末期医療を望まない場合、事前に家族にその意思を表明しておくことが望ましい。その際、尊厳死協会のフォーマットにのっとって心臓マッサージや人工呼吸、胃ろうなど具体的な医療措置の必要・不必要についての意思を表明しておくと、いざというときに混乱が生じにくい。
ゆっくり悪くなる末期がんと異なり、寝たきりはいつなるかわからないケースが多いため、ある程度の年齢になったり、何らかの病気や障害が生じた段階で、人生の最期について考えておくことをすすめます」(平松さん)
鎌田さんも寝たきりになる前に、「いざというときにどうしたいか」を考えておくべきだと語る。
「自分自身で決めておくことは、残された家族への最大のプレゼントです。命には限りがあると考え、家族を苦しめないためにも、終末期にどんな医療を受けるかは自分で決めてほしい。
できればノートに書き残し、難しければ家族で食事をする際に“私は絶対いらないからね”と伝えておけば、仮に本人が意思を伝えることが難しい状態になっても、家族が決断してくれるはずです」
人生100年、寝たきりにならず自分で動ける健康な心身をつくるため、今日の行動が大切になる。




※女性セブン2025年9月11日号