
日本人の死因の2位は心疾患、そして4位には脳血管疾患が位置し、これらを合わせると最大の死因となる。すなわち血管の健康を維持することは死を遠ざけるための必須条件となる。加齢に負けず、健やかな血管をよみがえらせるためには、どんな食事と習慣が理想なのだろうか。専門家10人にアンケートを実施し、ランキング化した。
【以下、10人の識者に血管と血液にいい「血管をよみがえらせる食品」と「血管をよみがえらせる習慣」を最大10個挙げてもらい、1位から10位までの順に10点〜1点として集計、11点以上の項目をランキング化した。
池谷敏郎さん(池谷医院院長)、市原由美江さん(日本糖尿病学会糖尿病専門医)、梅津拓史さん(循環器専門医)、佐野こころさん(医学博士)、執行秀彌さん(しぎょう循環器内科・内科・皮膚科・アレルギー科院長)、谷本哲也さん(ナビタスクリニック川崎院長)、本多釈人さん(日本産科婦人科学会専門医)、望月理恵子さん(管理栄養士/健康検定協会理事長)、山本佳奈さん(医師/医療ガバナンス研究所)、渡辺尚彦さん(日本歯科大学附属病院内科臨床教授)】
気づくのが難しい血管の老化
「人は血管とともに老いる」とは、アメリカのウィリアム・オスラー博士が残した言葉。血管と老化が密接にかかわっていることはいまや健康常識だ。
しかし、血管の老化は目に見えにくく自覚症状もないため、気づくのが難しい。加齢とともに硬くなり、弾力を失うと、血液の詰まりを起こして血管系疾患のリスクが高まるほか、体内に充分な酸素が送れず老化も進行。細胞から老廃物の回収もできなくなり、脳などあらゆる機能の低下を招く。血管の老化について日本歯科大学附属病院内科臨床教授の渡辺尚彦さんが言う。
「加齢はもちろん、日々の食生活や運動習慣によっても血管の老化は進行します。中性脂肪やコレステロールが過剰だと、それらが血管の内側に付着してプラークを作り、血管壁が厚くなると詰まりやすくなる。
猛暑が続き、残暑も長引くこの時期は水分摂取を怠ると血液の粘度が高くなり、脳梗塞や心筋梗塞のリスクがますます高まります」
血管の老化は美容にも悪影響を及ぼすと話すのは、ナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也さんだ。
「血管が硬くなり血流が悪くなると、むくみや冷え症を招きます。また栄養が行き渡らないため、肌ツヤが悪くなりやすい。血管を若く保てば、美しくなりながら健康寿命を延ばすことにつながります」(谷本さん)
健康寿命を延ばし、美も叶える血管のよみがえらせ方について10人の専門家に取材。血管と血液にいい「最強の食品」と「究極の習慣」を、ランキング化した。
スルフォラファンは高い抗酸化作用で血管を保護
血管をよみがえらせる食品の1位に輝いたのは、健康食品を代表する納豆だ。一票を投じた日本糖尿病学会糖尿病専門医の市原由美江さんが言う。
「納豆はサポニンやレシチンなど、中性脂肪やコレステロールを抑える働きや、女性ホルモン様の大豆イソフラボンが血管の柔軟性を改善し、血流をよくする働きがあります。ナットウキナーゼという血栓を予防する酵素は血液をサラサラにして血流を改善します」
大豆イソフラボンは肌の老化や抜け毛を予防し、美容にも効果的だ。
「納豆の健康効果をフルに生かすなら、夕食時に食べて」と話すのは、管理栄養士の望月理恵子さんだ。

「ナットウキナーゼの効果は食後4時間ほどで最大となり、徐々に低下しつつ12時間ほど持続します。脳梗塞は早朝にかけて起きやすいので、夕食に摂るのがベストです」(望月さん)
僅差の2位は青魚だ。
「青魚に豊富なEPAやDHAなどのオメガ3系脂肪酸は血管の細胞を守り、しなやかな血管を保つ働きがあります。オメガ3系製剤は脳梗塞の予防にも役立っていますよ」(渡辺さん)
日本で行われた臨床試験でも、EPAを投与された人の心筋梗塞や脳梗塞のリスクが約19%低下するほど効果がある。青魚以外でも大きな支持を得て、7位にランクインしたのが「魚類」だ。一票を投じた循環器専門医の梅津拓史さんが言う。

「中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やす効果があり、全体の死亡リスクも減らします」
同率5位の緑黄色野菜とブロッコリー、7位のトマトは、血管を傷つけ動脈硬化を引き起こす活性酸素の除去能力の高さが特徴だ。
「緑黄色野菜は抗酸化物質やビタミンが野菜のなかでも豊富で、活性酸素を除去して血管の強さを維持するのに貢献してくれます」(渡辺さん)
両者を共に推した、池谷医院院長の池谷敏郎さんが解説する。
「トマトのリコピンや、ブロッコリーに含まれるスルフォラファンは高い抗酸化作用があり、血管を保護して老化予防に役立ちます。
またブロッコリーには、動脈硬化の原因となるメタボリックシンドロームを引き起こす内臓脂肪を燃焼させる効果があるという研究報告もあります」
3分ごとに早歩きとゆっくり歩きを交互に行う
血管が老化すると血管全体が硬くなる動脈硬化によって、脳卒中や心筋梗塞が起こるだけでなく、体のすみずみまで栄養を運ぶ能力が低下して、全身の老化を進めてしまう。それらを防ぐ習慣として、ランキングの1位に輝いたのが有酸素運動だ。産婦人科専門医の本多釈人さんが言う。
「運動は血流を改善させるため、多くの血液が流れることで血管が広がりしなやかになります。悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やす働きもあり、肥満予防にもなるため、ウオーキングやジョギング、水泳などを習慣にしましょう」
有酸素運動で血流がよくなると、血管の内皮細胞が一酸化窒素を分泌して血管を広げることも研究から明らかになっている。
「歩くときには3分ごとに早歩きとゆっくり歩きを交互に行うことで、より血流が改善されて血管の柔軟性を効果的に高められます」(谷本さん)
1位の有酸素運動に4位の筋トレを合わせて行うと、さらに効果が高められる。
「筋トレで大きく筋肉を動かすと一酸化窒素(NO)が筋肉から放出されます。NOは血管の柔軟性を高めます。お腹や足にぐっと力を入れてふっとゆるめるだけでもNOの分泌につながります」(梅津さん)

体を休めることも必要で、「充分な睡眠をとる」が2位にランクインした。
「睡眠は副交感神経を優位にすることで血圧を下げ、血管の炎症を抑える役割があります。睡眠不足になると交感神経が活性化してしまい、血圧の上昇や炎症を促して血管に負担をかけ、動脈硬化の原因に。7時間前後の、質の高い睡眠を心がけましょう」(谷本さん)
基本的に7〜8時間、最低でも6時間以上は寝た方がいい。しぎょう循環器内科院長の執行秀彌さんが続ける。
「睡眠中は日中に受けた血管のダメージを修復する時間でもあります。アメリカの研究では1日6時間未満の睡眠だと、7〜8時間寝ている人に比べて心血管疾患リスクが20%高いという報告もあるので、睡眠の質だけでなく時間の長さも大切です」(執行さん・以下同)
寝る1時間ほど前からパソコンやスマホを見るのをやめることで、ブルーライトによる交感神経の活性化の影響を減らし、睡眠の質を高められる。
5位のストレスリセット習慣も大切だ。
「慢性的なストレスは交感神経を刺激して、血管を収縮させてしまいます。すると高血圧になり血液もドロドロになる。国際的な大規模研究では強いストレスを抱えていると心筋梗塞のリスクが2.2倍になることもわかっています。ストレスを定期的にリセットすることが大事です」
そして絶対に取り組むべきは、3位の禁煙と、6位の減塩だ。
「たばこは血管の細胞を傷つけ、動脈硬化を進行させる最大のリスク要因。禁煙を始めて1年以内に、喫煙で4倍まで高くなっていた心筋梗塞のリスクが半減することもわかっています」
減塩は1日の摂取量を1g減らすと、血圧が1mmHg下がるといわれている。日本人の平均食塩摂取量は1日9.8gで女性の目標は6.5g未満なので、平均mmHgは血圧を下げる余地がある。
「血圧が高くなると血管の細胞に負担がかかり動脈硬化が進みます。動脈硬化が進むとさらに血圧が高くなる悪循環に陥るので、血圧を下げることはとても重要。
ただ塩分摂取量を半分にすると、食事が味気なく感じてつらいので、まずは1週間を目標に減塩してください。1週間がまんすると、元の味付けが濃く感じるようになるので少し薄味にできるようになります。それをくり返して徐々に減塩していくといい」(渡辺さん)
ここで紹介した食品と習慣は何ひとつ特別なものはない。無理のない範囲で取り組んで、血管から全身を美しく若返らせよう。


※女性セブン2025年9月18日号