
脱水症状を起こしやすいこの季節。怖いのは熱中症だけではない。水分が不足して血液がドロドロになると、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞などを発症しやすくなる。それを防ぐには、どうしたらいいのか――。専門医に緊急取材した。

血管は若返らないが、血液は変えられる!
血液はこの時期、水分不足でドロドロになりやすいが、そもそも中高年以上は血管がボロボロだという。
「血管が劣化すると詰まったり破れたりして血液が流れなくなり、心筋梗塞や脳梗塞などを発症。死に至ることも少なくありません」
とは、心臓ロボット手術執刀数が世界一の心臓血管外科医・渡邊剛さんだ(「」内、以下同)。血管の劣化は主に加齢と生活習慣によるもので、一度ボロボロになると元に戻らないという。
「血管は若返りませんが、血液は変えられます。きれいな血液が流れるようになれば、ボロボロになった血管を長持ちさせられます」
病気を遠ざける【善玉血液】、血管をボロボロにする【悪玉血液】
健康のために改善すべきは、血管よりも「血液」だった! まずは、健康診断の数値やチェックリストを参考に、自分の血液の状態を把握しておこう!!
約6人に1人に悪玉血液が流れている
「血液は、ゴムホースを流れる水のようなもの。水が濁っていれば、ゴムホースの内部も汚れ、詰まったり破れたりします。でも血液がきれいなら、血管の劣化速度をゆるやかにできて、ひいては高血圧、脂質異常症、糖尿病、腎不全などの予防にも役立つのです」
きれいな血液を、渡邊さんは「善玉血液」と呼び、コレステロール値・空腹時血糖(血糖値)・尿酸値・血圧の値が正常なら、この血液に該当するという。逆に、これらの数値が基準値をオーバーしている場合は、血液がドロドロの「悪玉血液」なのだという。

「血管の状態は健康診断ではわかりませんが、血液の状態はわかります。悪玉血液は水分量が少なく、余分な脂質や糖質、炎症性物質がたくさん含まれています。
脂質の一種であるLDL(悪玉)コレステロールが過剰に増えると、血管壁に付着し、動脈硬化の原因になりますし、血糖値が高ければ、糖尿病になりやすくなります」
高血糖状態が長く続くと、血管の壁が傷つきやすくなり、傷の部分にコレステロールが蓄積。すると血管が狭くなり、血液の流れが悪くなる。この状態が動脈硬化だ。糖尿病患者は特に進行しやすいとされている。
「悪玉血液の中の炎症性物質も厄介です。炎症が続くと鉄分の利用が制限され、酸素を運ぶ赤血球(ヘモグロビン)がつくられにくくなり、赤血球が減ります。結果、貧血となり、全身に充分な酸素が届けられなくなるのです。
また、免疫システムを担う白血球が炎症を抑えようとがんばりすぎると、白血球をつくる骨髄が疲弊し、白血球がつくられなくなり免疫力が低下。さらに、炎症による出血を防ぐため血小板が増えると、血栓ができやすくなります」
このような悪循環のため、悪玉血液の所有者は、糖尿病、高血圧、肥満など、複数の生活習慣病を併発しているケースが多い。日本循環器学会が発行する専門誌『サーキュレーションジャーナル』によると、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満が重なると、危険因子を持たない人と比べて心筋梗塞や狭心症になる確率が32倍に増えるという。
「血糖値やヘモグロビンの量を測るヘモグロビンA1cの数値が基準を超えると、血糖異常と判断されますが、国民の約6人に1人がこれに該当します。つまり、それだけ悪玉血液の人が多い、というわけです」

善玉血液づくりは食生活の見直しから
では、悪玉を善玉につくり変えるにはどうすべきか。
「まず取り組んでほしいのは、運動よりも何よりも、食生活の見直しです。特に控えたいのは、4つの白い粉(小麦粉、砂糖、塩、プロテイン)です。小麦粉や砂糖は血糖値を急上昇させ、肥満や高血圧、糖尿病の原因に。塩分は血圧を上げ、血管にダメージを与えます。プロテインは腎臓に負担をかけます。腎機能が低下して慢性腎臓病になると、高血圧になり心血管疾患を合併しやすくなるのです」
アルコールの摂りすぎも高血圧を引き起こすため、血管に悪影響を及ぼす。そのほか食生活や生活習慣で気をつけるべきことを次から詳述する。早速今日から参考にしよう。
100才まで血管をもたせるためにすべきこと【善玉血液をつくるメソッド】
血管年齢は19才をピークに劣化の一途を辿るという。そのスピードをいかに遅らせるかは食事と生活習慣にかかっている。「いまがいちばん若い」と思って、ひとつでも多くのメソッドを実践してみて。
【気をつけるべき食品&食事方法】
●白い食べ物を控える・やめる

小麦粉、砂糖、塩を控えるのは前述の通り。「食べることに罪悪感を持つと減らしやすいですが、がまんのしすぎはストレスになるので、週に一度は食べてよい日を設けるのがおすすめ」。
●エナジードリンクは飲まない

「疲れているときに飲むと確かに元気になりますが、これは覚醒作用や疲労軽減作用のあるカフェインが豊富なことに加え、糖分の多い高血糖飲料だからです。血糖値を急上昇させるため、控えた方が賢明です」
●ジュースは果汁100%でもNG

「100%でも濃縮還元でもジュースには果糖が多く、血糖値を急激に上げ、肝臓にも負荷をかけるので控えた方がいいでしょう。スムージーも同様。果物の糖分はそのまま食べた方が比較的ゆっくり吸収されます」
●プロテインの摂りすぎは禁物

「プロテインは効率よくたんぱく質が摂れますが、肉や魚に比べて吸収率がよい分、過剰に摂取すると腎臓に負担がかかり、血管を傷つけます。基本は食事から摂取し、足りないときのみ良質なものを取り入れて」
●水をしっかり飲む

「水分は血流を促し、循環を助けてくれます。善玉血液づくりには不可欠なので食事に含まれる分を含まず、1日約1.5lを目安に摂って。1回200ml(コップ1杯)を、1日に7〜8回に分けて飲むのが理想的」
●野菜ファーストで食べる

「食物繊維は血糖値の急上昇を抑え、LDLコレステロールを減少させる働きがあります。特に水溶性食物繊維を多く含むオクラやごぼうなどの野菜、わかめなどの海藻類を食事の最初に摂るよう心がけましょう」
【善玉血液をつくる生活習慣】
●健診結果の数値を把握する

「健康診断は定期的に受け、数値が少しでも悪化した時点で食事や生活習慣を見直すこと。そうすれば大事に至る前に予防できます。やせていても実は脂肪肝というケースがあるので、見た目ではなく必ず数値で判断を」
●憧れの人やロールモデルをつくる

目標や憧れがあると何事も続けやすいもの。「私は俳優のトム・クルーズ(63才)の食習慣を参考にしています。パンやパスタ、揚げ物は食べず、甘いものはスタッフに譲り、ナッツを常食しているそうです」。
●できるなら運動もする

「運動には血圧の上昇を抑え、血糖値を下げる効果があります。続けるのが難しければ、パーソナルトレーニングの活用も手。ただし費用がかかるため、なるべく階段を使うなど続けやすいことから始めましょう」
●体重管理はアプリを活用

「自分を“客観視”するため、体重や食事の内容を毎日記録することが大切。手間なので、簡単に入力できるスマホのアプリを活用するのがおすすめ。体重の変化がグラフ化されてわかりやすいので意識も高まります」
●受診は大切だが薬に頼らない

「薬で血糖値をコントロールするのは悪いことではありませんが、遺伝的にコレステロール値が高い人でも服薬は最終手段。まずは食事や運動で改善を試みて。どうしても数値が下がらない場合は医師に相談を」
●プチ断食で体内環境を整える

「プチ断食も手。食べない間は血糖値が上がらず、脂肪もたまりません。胃腸が休まり腸内環境が整います。おすすめは比較的続けやすい14時間ファスティング。18時に夕食を済ませ、翌8時に朝食をとるイメージです」
◆教えてくれたのは:ニューハート・ワタナベ国際病院総長・渡邊剛さん
同院理事長。心臓血管外科医。医学博士。2005年に日本で初めて外科手術用ロボットを導入し、心臓手術を行ってきたロボット手術のパイオニア。近著に『世界一の心臓血管外科医が教える善玉血液のつくり方』(あさ出版)。
取材・文/番匠郁
※女性セブン2025年8月14日号