健康・医療

【老化を遅らせることはできるのか?】“老化細胞”を体内から除去する薬によって、マウスの身体機能が回復 将来的にがん治療に変化をもたらす可能性も 

カメは健康寿命と平均寿命の差がほぼなく“老化しない”とされる(写真/PIXTA)
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セノリティクス薬以外に、老化を食い止める光明もあるという。

「ハーバード大学の私の研究室では、細胞が自滅するアポトーシスが起きるメカニズムと、そのスイッチを発見して、順調に薬の開発が進行中です。

うまくいけば、細胞の遺伝子レベルに働きかけて、老化細胞を抑制することができるでしょう」

人類が120才の寿命を超えることは生物学的に難しいといわれている。1963年に153人だった日本の100才以上の長寿者は、2022年に9万人を超えたが、それでも1997年に史上最高齢の122才で亡くなったフランスのジャンヌ・カルマンさんの記録は破られていない。

「とはいえ、150才、180才くらいまでは、夢物語ではなくなってきています。実際、アンチエイジングに関する学会のシンポジウムでは、教授の間で話題に出るような状況にはなってきている。研究が進めばさらに寿命が延びる可能性があります」

超高齢社会で問題になっているのが、平均寿命と健康寿命の乖離だ。男女それぞれ約9年、約12年の差があるが、これも短くなる可能性があると石渡さんは指摘する。

「老化細胞を退治することで老化を遅らせることができれば、健康寿命が延びて、人間に“老後がなくなる”時代が訪れるかもしれません。すでに動物実験では老化細胞の除去や遺伝子操作によって、筋力や造血能など一部の機能が改善する例が報告されています」

老化細胞を作らない習慣

実現するまでに自分でできることを心得ておきたい。まず大事なのは、老化細胞をできるだけ作らないようにすることだ。

「細胞にとって過度なストレスが加わると、活性酸素が発生し、老化細胞が発生しやすくなるといわれています。精神的なストレスだけでなく、紫外線もストレスのひとつで、過度に浴びると細胞のDNAが傷つき、細胞の老化が起こりやすくなる。まだメカニズムはよくわかっていませんが、マウスを対象にした研究では、摂取カロリーの制限が健康寿命を延ばし、老化を遅らせることもわかっています」(中西さん)

老化は決して老化細胞だけが要因なわけではない。健康を意識した食事、規則正しい生活、適度な運動を心がけ、フレイルを予防するといった基本的な健康習慣を意識することがなによりの老化予防になる。

老化を防ぐには健康を意識した食事が良い(写真/PIXTA)
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「高齢者は食事量や食材の種類が減って栄養不足になる傾向があるので、肉、魚、野菜、卵、大豆などの良質なたんぱく質と、ビタミン、ミネラルの多いおかずを中心とした食事をすると、フレイルを予防できます。

自分の歯で噛めなくなると栄養が摂れなくなるので、歯みがきはもちろん、入れ歯の管理や定期的な歯科受診も重要です」(石渡さん・以下同)

社会的に孤立すると刺激がなくなるので、人とかかわることも大事だ。

「社会参加をする高齢者は、3年後の障害発生や死亡リスクが低減するというデータがあります。認知症の予防にもなる。1日1回以上は外出して、週1回以上は友人や知人と交流し、月1回以上は趣味やボランティアなどに参加するといいでしょう」

根来さんはハーバード大学でブルーゾーンの研究に取り組んでいる。ブルーゾーンとは、世界的に100才以上の長寿者が多い地域で、イタリア・サルデーニャ島、日本・沖縄、アメリカ・カリフォルニア州のロマリンダ、コスタリカ・ニコヤ半島、ギリシャ・イカリア島の5か所を指す。

「ブルーゾーンの長寿者に見られる特徴的なライフスタイルを調査して、健康長寿の理由を明らかにする研究が世界的に進んでいます。彼らには、休息、睡眠がしっかりとれていて、日常生活の中で運動を行い、オリーブオイル、ナッツ類、野菜や魚介類が多い地中海的な食事を摂っているという特徴があります」(根来さん)

最期を迎えるその瞬間まで元気でいられる。あと10年、20年後の未来には、そんな社会が実現するかもしれない。

(前編を読む)

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号

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