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《三菱UFJ銀行貸金庫窃盗事件》元女性行員被告が法廷で語った空疎な犯行動機「FXで5億円以上を溶かした“重度のギャンブル依存症”」と「あふれる“UFJ愛”」 

窃盗の罪に問われた元行員の山崎由香理被告(写真/朝日新聞)
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 三菱UFJ銀行の貸金庫から顧客の金塊(約3億9000万円相当)などを盗んだとして、窃盗の罪に問われた元行員の山崎由香理被告(47才)の公判が9月18日、東京地裁で開かれた。検察側は「前代未聞の犯行」として、懲役12年を求刑し、一方の弁護側は「懲役5年が相当」と主張。判決は10月6日に言い渡される。

 8月25日、東京地裁で開かれた被告人質問で山崎被告は次のように語った。

「仕事でも営業課長という役職で重度のストレスを抱えて複数のクリニックを受診し、薬を服用していました。ギャンブル依存症で、“何かお金を賭けなくてはいけない”という強迫観念があり、平日はFX、土日は競馬にお金を賭けていました……」

 被告人の受け答えはハッキリしており、どこか憑き物が落ちたような印象さえ感じられたという──。

 ぽっちゃりとした体形の山崎被告は、上下黒のジャケットとパンツ姿。この日の裁判では、犯行の手口や長年の金銭トラブルの実態とともに、職場で強いストレスを感じていたことを赤裸々に語った。

 事件が発覚したのは昨年10月末だった。

「山崎被告が都内2支店の貸金庫から長年にわたって現金や貴金属を盗んでいたことが発覚。当初は60人余りとされた被害者は全体で100人ほどに膨れ上がりました。被害総額は約18億円ともいわれ、現役行員による前代未聞の犯行となりました。銀行ビジネスの信頼を根底から揺るがす犯行に世間は驚愕し、三菱UFJ銀行はトップの謝罪会見に追い込まれました」(全国紙社会部記者)

 勤続25年のベテラン行員である山崎被告は責任ある役職を歴任し、顧客の担当者のスケジュールを把握、金庫のスペアキーを管理する立場だった。

 犯行が行われたのは、2020年4月から2024年10月頃までの約4年半。

 2020年4月、旧江古田支店(現在は練馬支店に統合)の営業課長に昇進し、貸金庫の管理責任者となった山崎被告は、顧客用のスペアキーを悪用して貸金庫に収められた金品に手を出すようになる。

「金庫には何が入っているかわからないのでランダムに鍵を開けて物色し、金品を盗む際には、何がどう置かれていたかを再現できるようスマホで撮影していたそうです。顧客の氏名と盗んだ金品の金額は、被告自らエクセルに入力して管理していました」(捜査関係者)

名門・スリーダイヤの御三家の一角を占める、三菱UFJファイナンシャル・グループ(時事通信フォト)
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 犯行が発覚しないよう、数々の「隠蔽工作」も行っていた。

「担当者のスケジュールとともに顧客の予定を確認し、被害者が来店する際はほかの顧客から盗んだ現金などを一時的に被害者の貸金庫に戻してごまかしていた。時には『担当者が不在』と嘘をついて顧客を追い返すこともあったそうです。

 さらに業務中は管理モニターを四六時中チェックし、犯行時にはシステムの電源を落として入退室の記録が残らないようにしていました」(前出・捜査関係者)

 金品目当ての大胆な犯罪に手を染めた山崎被告だが、実は10年ほど前に“ほぼ破産”状態に陥っていた。

「山崎被告はFXや競馬にのめり込んで多額の借金を抱え、2013年頃に自己破産せず借金を大幅に減らす『小規模個人再生』という債務整理の手続きをしています。残債は当時結婚していた夫(現在は離婚)に返済してもらい、その後はギャンブルをしないという誓約書をその元夫と交わし、月3万円のお小遣いをもらって生活の立て直しを図っていました」(前出・全国紙社会部記者)

 ところが悪癖が再び頭をもたげて、2018年頃からFXと競馬を再開するようになり泥沼にはまった。当時の転落人生についても彼女は裁判で詳細を語った。

「元夫からの小遣いは居酒屋での飲み代やショッピングモールで買う洋服に消え、お金が足りなくなってFXと競馬にまた手を出すようになった。するとさらに損失が膨らみ、ついには元夫のたんす預金にまで手を出したそうです。誰にも相談できない状況に営業職のストレスが重なって、追い詰められた彼女が衝動的に目をつけた“宝の山”が、顧客の貸金庫でした」(前出・捜査関係者)

 2022年には1年間でFXに6億円を投資し、5億円以上を“溶かした”ことも裁判で明らかになった。

税務申告しづらい金品が預けられている

 母子家庭で育った山崎被告は、短大卒業後の1999年に三菱UFJ銀行に入行。テニスを共通の趣味とする資産家の元夫との結婚生活は子宝に恵まれなかったものの、金銭的には何不自由ない暮らしだったはずだが、事件発覚後に離婚を余儀なくされ、職だけでなく家族も失った。

 そんな彼女が裁判で多くを語ったのが、四半世紀にわたって勤務した銀行への愛着だった。

「被告人質問では、『私はこの銀行に関しては25年働いて好きだった』と発言。『UFJは客と社員を大事にする銀行です』とも語り、あふれる“UFJ愛”を隠しませんでした。借金苦に陥った際、個人再生を選択したのも、自己破産したら銀行で働けないからだったそうです」(前出・全国紙社会部記者)

 しかし、当初は「銀行の金には絶対に手をつけない」というポリシーがあった山崎被告も、追い詰められた末に、禁忌を破ってしまう。

謝罪する三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取(時事通信フォト)
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 背景には貸金庫特有の事情も垣間見える。

「あくまで一部の話ですが、銀行の貸金庫には、税務申告しづらい類の金品が預けられるケースもあるという実情があります。顧客としてはいちいち記録に残したくないので貸金庫を利用している面があり、銀行側も何が入っているか正確に把握しにくく、顧客の自己申告だけで中身を証明するのは難しい。そうした裏事情についても、業界に詳しい山崎被告は計算していたことでしょう」(金融業界関係者)

 顧客からの申し出があるまで山崎被告の犯行に気づかなかった三菱UFJ銀行は、事件を機に貸金庫業務からの撤退を含め検討。現状では、業務は継続するものの、現金の保管は禁止する方針を打ち出している。

「信頼回復を急ぐ三菱UFJ銀行ですが、今回の貸金庫事件が発覚したのと同時期に、新潟支店の行員が顧客から約4000万円を搾取し、今年6月に起訴されたことも明らかになりました。

 法廷では『私のような悪人ひとりのために、UFJを悪く思わないでください』という山崎被告の訴えも飛び出しましたが、大手銀行として、一度失った信頼を回復するのは容易ではないでしょう」(別の捜査関係者)

 ちなみに、顧客から盗んだ金品を山崎被告が弁済する見込みはないという。

女性セブン2025918日号 

財テクに成功する元夫の姿を見て、FXに手を出した山崎被告(写真/朝日新聞)
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