
「ここ、浅草公会堂は私にとっては想い出の場所なんです」と、しみじみ語り始めたのは歌手の伍代夏子。9月24日に東京・浅草公会堂で歌謡ショーが行われ、そのステージで自身の歩みを振り返った。
「私、歌手として4回名前を変えているんですよ。4回目の“伍代夏子”としてのデビュー曲が『戻り川』(1987年)で、もう“新人”じゃないのに新人賞をいただいて。3年目の1990年に『忍ぶ雨』で紅白歌合戦に初出場できました。初めてのコンサートもその年で、それがここ、浅草公会堂。当時は自分の歌が3曲しかないから時間がもたなくて、先輩の曲も歌わせていただきました。
その頃はたくさんのお客さんを呼べるわけではなかったので、『浅草おかみさん会』のご尽力で、ここをいっぱいにしてくださった。感謝です。(会場をぐるりと見渡して)だからここへ立ちますとね、もう胸がいっぱいになります」
そう語ると、会場から大きな拍手がわきおこった。そんな浅草でこの日イベントが行われたのには、理由があった。
ショーは『歌で健康、詐欺根絶!!』と銘打ち、厚生労働省「健康一番プロジェクト」と警察庁「ストップ・オレオレ詐欺47~家族の絆作戦~プロジェクト」合同で、健康と特殊詐欺撲滅を呼びかける啓発キャンペーンとして催されたもの。厚生労働省・特別健康対策監、 警察庁・特別防犯対策監として両プロジェクトで指揮を執る夫の杉良太郎と共に、伍代も厚生労働省・肝炎対策特別大使、警察庁・特別防犯支援官として長らく広報啓発に尽力してきた。
浅草では8月、『世界・日本肝炎デー』にあわせて「知って、健康デー2025 in 浅草」が開催され、地域で健康づくりをする取り組みをひとつのモデルケースとして全国へ広げていきたいと「浅草健康宣言」が行われたばかり。その縁もあって、MCで伍代は同イベントにも触れた。
「厚生労働省の『健康一番プロジェクト』ではダンスによる健康づくりを掲げ、8月4日の『知って、健康デー』では、高校生から80代までのダンスチームが元気いっぱいに踊ってくれました。ダンスチャレンジ企画では、EXILEの『Choo Choo TRAIN』に合わせて、なんと93才の方も踊ってくださったんです! ダンスで認知機能や身体機能が向上されるというデータもあります。何歳になっても生き生きと、心身共に健康でいられる秘訣が、ダンスにはたくさん詰まっているんですよね」

“歌で楽しく、元気に防犯啓発”を謳った今回のショーには伍代の他、演歌界から多岐川舞子、大石まどか、岩本公水も参加。オープニングは全員で『お祭りマンボ』を歌い、踊って、元気を届けた。また、多岐川が「伍代さんにはいつも“艶歌卓球部”でかわいがっていただいています」と明かした通り、啓発トークでは普段から仲良しの4人が息の合ったかけあいで会場を盛り上げた。
伍代が観客へ「毎日30分以上ウォーキングしている人」「食生活に気を使ってるよという人」と問いかけるとそれぞれ手が挙がったが、「お酒を控えめにしてますという人」の問いには急に挙手がまばらに。「あれ……?」と拍子抜けする伍代の横にはいつのまにか多岐川、大石、岩本が団子になっていて、「私たちは“ちびりちびり……”」と小声でぽつり。すかさず伍代が「あなたたちは大酒のみじゃないですか」と“卓球部のうわばみのメンバー”に笑顔でツッコミ、観客に「最近、食べ過ぎや飲み過ぎなど生活習慣が原因の肝炎が増えています。暴飲暴食にならないよう気をつけて。食事は腹八分目が大事ですよ」と訴えた。
4人が集い、それぞれ健康や美の秘訣も公開。「ストレスを溜めないように笑って生きる。歌で発散をする」(多岐川)「ストレスでしかめ面をしているとおでこにシワが刻まれるから、鏡を見て微笑む健康法を。笑うと脳から幸せホルモンも出てきますから。“自分、今日も頑張ったね”って、寝る前に必ずやっています」(伍代)の他、発酵ソムリエでもある岩本は発酵食品、大石は運動を挙げた。大石が日課にしているとして、手首をひねって肩をほぐすストレッチを伝授すると、観客も揃って実践。健康意識の高まりが感じられた。
4人は代表曲と新曲を順に披露し、特殊詐欺にまつわる啓発トークへ。イベントには台東区役所危機管理室の室長、下谷警察署の署長、浅草防犯協会の会長も参加した。

2018年から警察庁特別防犯支援官として活動する、伍代。最近の主流として、警察官をかたり、「あなたに逮捕状が出ている」などと脅して預金を騙し取る「ニセ警察詐欺」に触れ、「逮捕って普通は急にきてガチャッとするでしょう? わざわざ事前に通知なんてしませんよ。警察官がSNSで警察手帳や逮捕状の画像を送ることも、絶対にありません。おかしな電話がかかってきたら、地域の警察署へ連絡しましょう」と警告。台東区でも7割がこの手口だったという。
ニセ警察詐欺を含め、特殊詐欺ではその7割以上が「+(プラス)」から始まる国際電話からかかってくる。伍代は対策として、「知らない番号からの電話には出ない、常に留守番電話設定にしておく。そして最も有効なのは、そもそも海外から電話がかかってこないようにしておくこと」と語り、固定電話の国際電話利用休止を紹介。客席には「国際電話利用休止申込書」が配布されており、会場での記入を呼びかけると、多くの観客がペンで書き始めた。ロビーには記入のサポートをするため警察官も多数待機。杉の写真に『詐欺 知らない人からの電話切る勇気』と書かれた警察庁の啓発ポスターも置かれ、注目を集めていた。
また、今年に入り、犯人から携帯電話にかかってくる件数も増加中で、効果的な対策として、非通知や登録外の番号からの着信を拒否する機能も紹介された。
フィナーレは『365歩のマーチ』を全員で合唱して、活気あふれるステージが締めくくられた。歌を交えた健康と防犯の啓発は初めての試みだったと伍代は明かしたが、観客の「元気をいただいた!」「楽しかったぁ」と口々に語る高揚した表情に、“心”身健やかな様子が感じられた。







