《“閉経から5年後”に要注意》 [「第二の更年期」の乗り越え術　ほてりやのぼせ、不眠、倦怠感…「60才は過ぎたのに」不調の原因と対策

汗を拭く女性 — 更年期もやっと落ち着いたと思った頃に現れる不調“第二の更年期”について解説（写真／PIXTA）

閉経してからかれこれ数年、更年期もやっと落ち着いたと思ったら「またあの不調」が…。その不調、もしかしたら“第二の更年期”かも！真相と正しい対処法を探った。

更年期の体に起こるホルモンの「揺らぎ」

そもそも更年期とは「閉経の前後5年ずつの約10年」を指す。産婦人科専門医の高尾美穂さんは「女性の体は更年期の前後で大きく変わります」と話す。

日本人の平均閉経年齢は50才頃なので、45〜55才が一般的な「更年期」の目安となる。

「閉経年齢は個人差があるため、更年期の期間もそれぞれ違います。それを考慮すると、40〜60才頃のほぼすべての女性が更年期を迎えているといえます」（高尾さん・以下同）

更年期に不調が出る人は全体の約5〜6割。そのうちほてりやめまい、不眠などの「更年期症状」を経験した人は約3割で、日常生活に支障を来すほど重症化する「更年期障害」は3割弱だという（『教えて美穂先生！ 50歳からのこころとからだ』（高尾美穂著／ビジネス社）より）。更年期の体には何が起きるのか。

「最大の変化は、これまで女性の健康を守ってきた女性ホルモン『エストロゲン』の分泌量が急激に減少することです。『エストロゲンのある40年（10才頃〜50才頃）』と、『エストロゲンのない40年（50才〜）』に分けられるほど、女性の体はエストロゲンの影響を受けています」（エストロゲンには3種類ある【1】エストロン（E1）：脂肪組織や副腎などで作られ、閉経後のエストロゲンはこれのみになる。【2】エストラジオール（E2）：全身に作用する強力なホルモン。エストロゲンというとこれを指すことが多い。【3】エストリオール（E3）：妊娠中だけ作られる）

その境目にある更年期は、エストロゲンが「ある」状態から「ない」状態に変化していく揺らぎの時期だ。エストロゲンの分泌量が乱高下し、それによって自律神経のバランスが乱れて動悸やほてり、めまい、不眠といった不調が起こり、白髪やシミ、しわなど見た目の老化も進んでいく。

更年期の不調は200種類以上

多くの人は、更年期を終えると「エストロゲンかなり低め」で安定し、不調が改善される。一方で、更年期がとっくに終わったのに「ほてりが治まらない」「新たに更年期症状のような不調が現れた」という声もある。これはなぜなのか。

「更年期の不調は200種類以上もあるといわれ、その中には、エストロゲンのおかげで防げていたものがたくさんあります。ですから、エストロゲンが減少した影響がことのほか大きく、更年期後も不調が長引くかたもいるのでしょう。

つまり、“第二の更年期”ではなく、エストロゲンが減少することに伴う不調が次々と起こっているということです。

また、更年期の不調がひどかったり、子供の独立や家族、ペットとの別れなどの喪失体験も不調を引きずる要因になりますから、『更年期が続く』と感じるのも無理はありません」

あらゆる不調について「まだこれも更年期かも」と思い込むのは危険かもしれない。

卵巣から分泌されるエストロゲンは、子宮や乳腺だけでなく、骨、筋肉、血管、皮膚の弾力性、肝臓のコレステロールの代謝調節、すい臓のインスリン分泌調節、脳の認知機能など全身に作用する重要なホルモン。加齢で分泌量が減少することでこれらの働きも低下し、新たな疾病リスクが起こるという。

「しわが増えた」「髪の毛が細くなってきた」と見た目の老化を嘆いている間に、今度は生活習慣病や骨粗しょう症など、健康寿命をおびやかす症状が押し寄せてくるのだ。

エストロゲンの減少とともに骨量も確実に減少し、コレステロール値や血圧がぐんと上がる傾向にある。

「閉経したら、一度は整形外科で骨粗しょう症の検診を受けてください。簡易的な検査ではなく、X線を照射して腰椎や股関節、前腕などの骨密度を測る『デキサ法』がより正確です。

骨折して初めて骨がもろくなっていたことに気づく人が多いのですが、それは本当にもったいない。『最近顔がげっそりしてきた』と感じる人は、要注意のサインかもしれません」

さらに年に一度の健診で、血圧や悪玉のLDLコレステロール値を測ること。数値に異常がある場合は、内科医などで定期的な診察を受けよう。

アフター更年期は「骨と血管」が重要！

では、エストロゲンを作ることができない“アフター更年期”は、どう対処したらいいのだろうか？

閉経後ものぼせやめまい、生殖器トラブルなどが起きている場合は、エストロゲンを補う方法があるという。

「対策は2つ。1つ目は『ホルモン補充療法（以下、HRT）』で、少量のエストロゲンを足す方法。HRTは閉経前後すぐ、または更年期の間に始めるのが効果的で、遅くとも閉経後10年以内には始めた方がいいでしょう。それ以上になると血栓症のリスクが上がるなど、いろいろな制限が生じるからです。

そして2つ目が、エストロゲンに似た働きをするエクオールサプリメントを摂取する方法です。こちらは閉経後10年以上経っていても、摂取は可能。年齢制限もありません」

エクオールは摂取することで、数か月で汗やほてりの改善が見られたとの報告もある。（大塚製薬のHP「更年期ラボ」https://ko-nenkilab.jp/equol/about01.htmlより）

「エストロゲンを補うと、深いしわが浅くなり、肌や髪の毛にもハリが出る。こうした美容的な効果ももちろん重要ですが、更年期を過ぎた女性が元気に生きるには、何より『骨と血管』の健康が重要。そして、そのどちらにもエストロゲンが深く関係しています」

骨密度検査の機械 — 血圧は常に測り、年に一度は写真下のような、X線を用いた本格的な骨密度検査を（写真／PIXTA）

更年期後の不調を整え、健康でいるために、HRTやサプリメントなりでエストロゲンを少量でも補充することは重要なのだ。

「人間の体は、もしかすると“50年寿命”用にできているのかもしれません。閉経して卵巣機能が終わるのも50才頃ですよね。しかし、人間の寿命はそれよりはるかに長くなっています。エストロゲンが担ってくれていた働きを享受できない後半期の40年を健やかに過ごしたいなら、できることは積極的にやった方がいいと私は考えます。
婦人科医にかかるタイミングは早いに越したことはありませんが、閉経後数年過ぎているかたも、気になるなら一度相談してみるといいと思います。信頼できるかかりつけ医が見つけられたら最高ですね」

セルフケアで生活習慣を見直す

閉経以降は生活習慣が不調に直結するというから、私たちにとって充分な栄養や睡眠、運動は必須事項だ。

「生活習慣病予防には適正体重の維持が重要ですが、体重重視の無理なダイエットではなく、骨量や筋肉を落とさないバランスの取れた食生活を心がけるべき。

『あまり食べていないのにやせない』という人は、昼は麺類で簡単にすませ、合間に甘いものをつまんでいませんか？間食を含めた自分の食生活を、きちんと見直してみましょう」

見た目や体力の衰えを諦め、嘆くより「エストロゲンのないこれからをよりよく過ごすには何をしよう？」と、気持ちを切り替えることも必要だ。

「嘆く必要はないんです。そもそも、エストロゲンに守られていた10〜50才の前半期が『ボーナス』みたいなもの（笑い）。だって、エストロゲンの分泌が少ない男性は、20代、30代からコレステロール値の上昇に悩まされていたのですから」

エストロゲンのないこれからの人生がデフォルト（標準）と捉えれば、やるべきことはたくさんある。

「たとえば、運動習慣のない人がスマートウォッチを買って7000歩歩く、美容に無頓着だった人がスキンケアに力を入れるなど、何か少しでも行動を変えることも大事。『私はまだOK』と自信が持てると、前向きな思考でいられます」

更年期以降は、ホルモンに振り回されない自由な体を得て、後半期の自分を見つめ直すチャンス。「現状維持」の殻を破り、新しいステージを切り開くタイミングでもある。

そう思うと、後半の人生も楽しく思えてくるのではないだろうか。

3つのセルフケア

「アフター更年期」を生き生きと過ごすためのポイントを紹介。

食事を見直す

たんぱく質、脂質、食物繊維やビタミン・ミネラルなどの栄養素を3食でバランスよく食べる。

「骨粗しょう症予防のためのカルシウムと、カルシウムを骨に吸収させるビタミンD、Kを積極的に摂りましょう。ビタミンDが豊富な鮭や卵、ビタミンKが豊富な納豆を取り入れた和朝食はおすすめ。これにコップ1杯の牛乳を加えたらベスト。また、大豆製品からつくられるエクオールは、エストロゲンに似た働きを持つので、積極的に摂りたいですね」（高尾さん・以下同）