健康・医療

《放置するとがんや認知症、心疾患、脳卒中を招くことも》「頻尿」「尿漏れ」「痔」「便秘」の最新治療&改善メソッドを名医が伝授「尿漏れには骨盤底筋トレーニングと腹式呼吸を」

便秘の女性
便秘や尿漏れを放置すると、がんや認知症、心疾患、脳卒中を招くことも(写真/PIXTA)
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頻尿で旅行中もトイレを探してしまう、長年の便秘でついに痔に――。寒い冬は特に悪化しがちなこれらの症状は、恥ずかしくてなかなか相談しづらいもの。だからといって放置すると、QOLが下がるばかりか、腸閉塞を引き起こしたり、認知症や心疾患、脳卒中など命にかかわる事態を招くことも。最新治療とトレーニング術をこっそり教えます。

尿漏れと便秘は相互に関係している

加齢とともに増える“下半身の悩み”は、特に寒さが厳しくなるとトラブルが増加する。女性医療クリニックLUNAグループ理事長で泌尿器科専門医の関口由紀さんが言う。

「体が冷えると膀胱の排尿筋の収縮が誘発され、急にトイレに行きたくなる過活動膀胱の症状が悪化しやすくなります。がまんできずに漏れてしまう『切迫性尿失禁』も起こりやすくなる。乾燥するため、水分を必要以上に摂ってしまうことも、尿漏れを誘発する原因の1つです」

尿漏れする女性
水分を必要以上に摂ってしまうことも、尿漏れを誘発する原因の1つ(写真/PIXTA)
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腹筋が弱く、女性ホルモンの影響を受けやすい女性は便秘に悩みがち。冷えは便秘の大敵でもあると語るのは、平田肛門科医院院長で大腸肛門病学会指導医の平田悠悟さんだ。

「お尻には大きな筋肉が集まっているため、体が冷えると筋肉がこわばり、排便時に肛門が広がりにくく、切れ痔になりやすい。寒さで血流が悪くなると、いぼ痔も悪化します」

また、尿漏れと便秘は相互に関係しているという。

「脳内の排尿中枢と排便中枢は近くにあって影響し合っているので、排便の調子が悪い人は排尿の調子も悪くなるというふうに負のスパイラルに陥りやすい。膀胱や尿道、腸、肛門などの臓器も隣り合っているので、下半身の血流が悪化すれば同時に不調が起こりやすくもなります」(関口さん)

尿漏れや頻尿は直接命にかかわる病気ではないが、ひどくなると外出がおっくうになり、生活の質(QOL)が低下するばかりか認知症リスクを高めることもある。

たかが便秘と甘く見て放置していると、便が腸に詰まって腸閉塞になる可能性もあるという。

「腸閉塞が悪化すると腸に穴があく消化管穿孔になり、手術が必要になることもあるし、直腸に潰瘍ができて、命にかかわることもあります。便秘で腸の有毒ガスが血液にのって全身を巡ると、認知症、虚血系心疾患、脳卒中のリスクも高くなる。実際に、便秘の人はそうでない人に比べて死亡率が12%高いというデータもあります」(平田さん)

指を膣に入れてキュッと締める

取り返しのつかない事態を避けるため、そして日常を快適に過ごすため下半身の悩みを解消するにはどうすればいいのか。頻尿や尿漏れの症状を改善するために関口さんが推奨するのは、骨盤底筋トレーニングと腹式呼吸だ。

骨盤底筋と尿道
骨盤底筋の筋力が低下すると、膀胱や尿道を支えきれず尿漏れや頻尿が起こる
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「加齢とともに骨盤底筋の筋力が低下すると、膀胱や尿道を支えきれず尿漏れや頻尿が起こってしまいます。お腹をふくらませて5秒かけて息を吸い込み、お腹をへこませながら10~15秒で息を吐ききります。吐くときは骨盤底筋を引き上げるように締めて、吸うときは緩めましょう」

いますぐできる! 尿漏れ改善「骨盤底筋」トレーニング

尿道、腟、肛門の順番で同じように「締める→緩める」を5回を1セットで行う。1日の目標は各5セットを1日3回(合計75回)。無理せずに、できる回数から始める。

●あお向けのトレーニング

あお向けのトレーニング
あお向けのトレーニング(イラスト/勝山英幸)
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【1】ひざを立てて手を下腹部に置く

【2】ゆっくり息を吸いながら緩める

【3】やさしく息を吐きながら、おしっこをがまんするイメージで骨盤底筋を引き込み、尿道を締める

●四つんばいのトレーニング

四つんばいのトレーニング
四つんばいのトレーニング(イラスト/勝山英幸)
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【1】ひじの上に肩、ひざの上に股関節がくる姿勢に調整する

【2】ゆっくり息を吸いながら緩める

【3】やさしく息を吐きながら、おしっこをがまんするイメージで骨盤底筋を引き込み、尿道を締める

最近は新しいトレーニング法も登場しているという。

「骨盤底筋トレーニングにプラスして、“自分の腟は自分で触って鍛える時代”になってきています。お風呂の後にフェムゾーン(腟・外陰部まわり)を専用のオイルやローションで保湿して、指を腟の中に軽く第二関節くらいまで入れて、その指をギュっと締めるように骨盤底筋を締め上げてください」(関口さん)

尿漏れ改善には食生活の見直しも必要だ。管理栄養士の麻生れいみさんがアドバイスする。

「骨盤底筋を鍛えるには、筋肉の材料となるたんぱく質が必須です。肉、魚、卵をしっかり摂るといいでしましょう。いまの季節にぴったりの食材はぎんなん。筋肉の収縮をサポートするマグネシウムが豊富なので、排尿関連の筋肉強化にいい。くるみ、アーモンドなどのナッツ類も、マグネシウムが豊富です。かぼちゃの種に含まれるリグナンには排尿障害を改善する働きがあります」

必要に応じて、病院で治療を受けるのも手だ。

「過活動膀胱による切迫性尿失禁なら、服薬治療と膀胱にボトックスを注射して緊張・収縮した筋肉を緩める『ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法』が標準的な治療です」(関口さん・以下同)

咳や重い物を持ち上げるなど、お腹に力が入ったときに起きる「腹圧性尿失禁」なら、手術という選択肢も。

「医療用のテープで尿道を支えて尿漏れを防ぐ方法が昔から行われていますが、最近はレーザーで腟壁を引き締める方法が増えている。保険適用外になりますが、糸を腟の中に挿入して緩んだ腟壁を引き締める『腟スレッド』という治療もあり、尿漏れだけでなく、骨盤痛の改善にも有効です。磁気で骨盤底筋を鍛える医療用機器は、週に数回、合計10~15回椅子に座るだけという治療もあります」

関口さんによれば、尿漏れに限らず、頻尿、外陰部のかゆみ、性交痛など女性特有の不調は、閉経の前後から増えるという。

「総じて閉経関連尿路性器症候群(GSM)と呼びますが、GSMは早めに病院にかかった方が治りやすい。また、尿漏れだと思っていたら、おりものに血が混じっていて子宮がんだったということもあるので、心配な症状があれば一度は病院を受診してください」

足の裏を刺激すると腸が動く

便秘や痔の対策は、どうすればいいのか。

「いぼ痔や切れ痔は便秘が主な原因なので、まずは快便を目指してほしい。便秘でいきむと肛門周辺の静脈がうっ血し、支持組織も破壊されていぼ痔になりやすく、便が硬くなると切れ痔になる。いちばんの対処法は、食物繊維を摂って便を出しやすくすること。日本人の平均の食物繊維摂取量は約14gですが、1日に20gが理想です」(平田さん)

麻生さんは、腸内細菌がえさにしやすい「発酵性食物繊維」を意識して食べるといいと話す。

「腸内細菌が発酵性食物繊維を分解するときに短鎖脂肪酸を産生することで、腸内環境が改善されます。発酵性食物繊維が含まれる代表的な食材は海藻類、オートミール、熟したバナナ、ごぼう、玉ねぎ、長ねぎなど。発酵食品の納豆やみそも腸活にいい。朝はオートミールとバナナとヨーグルト、昼はみそ汁に海藻とねぎを入れ、夜は納豆と切り干し大根をあえると、1日でしっかり発酵性食物繊維を取り込めます」

腸のぜん動運動を促すために、適度な運動で腸に刺激を与えるのも効果的だ。

「冬は脱水もあるが運動不足からくる便秘にも注意すべき。足の裏を刺激すると腸が動きやすくなるので、1日7000歩から1万歩のウオーキングを習慣にするといいでしょう。便意をがまんせずに便意があればすぐにトイレに行くことも忘れずに。朝はぜん動運動が起きやすいので、起き抜けに常温の水をコップ1杯飲むと、出やすくなります」(平田さん・以下同)

「のの字マッサージ」もおすすめだ。おへその下あたりから、手のひらで優しく、ひらがなの「の」の字を描くようにマッサージしよう。

「副交感神経が優位になり、体がリラックスするので便意が起きやすくなります。腹筋があると腸が押されて便が出やすくなるので、腹筋を鍛えるのもいい。姿勢が悪くて猫背になるだけでも便秘になるので、姿勢も大切。お腹に力を入れ、姿勢よく立つだけでも、変わってきます。あお向けに寝て、ひじで反対側のひざをタッチするツイストクランチもいいでしょう」

泌尿器の症状と同じく、つらい症状があれば、一度は病院を受診しよう。

「一般的に、排便回数が週2回以下か、4回に1回を超えてコロコロの硬い便なら、便秘です。痔の症状がある人も、痛みや出血が続くなら治療を受けて。

切れ痔による出血だと思っていたら、大腸がんだったということもあるし、痔も進行すれば治りにくくなる。40才を過ぎたら、がん検診の大腸内視鏡検査も必須です」

一方で、刺激性下剤を常用するのは避けた方がいい。

「市販の刺激性下剤をのんでいると、次第に腸が自分の力で動かなくなってしまいます。病院では、まず善玉菌を配合した整腸剤をのんで、効果がなければ便を軟らかくするタイプの酸化マグネシウムやモビコールを服用します」

便秘と同じく、痔も生活習慣の見直しや投薬で治療することが多いが、症状が進んだ場合は手術となる。

「いぼ痔は薬剤を注射して小さくする『ALTA療法』が一時期流行しましたが、最近は再発率が高いと指摘され、下火になりつつあります。一般的なのは、患部を手術で切除する『LE(結紮切除術)』ですが、当院では自費診療でメスを使わないレーザー治療も行っています。女性は恥ずかしさからがまんしやすいが、痛みがあれば専門医の治療を早めに受けることが大事です」

下半身のトラブルにがまんは禁物。改善術に取り組み、頼れる病院を探してみよう。

「頻尿」「尿漏れ」最新治療
「頻尿」「尿漏れ」最新治療
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「痔」「便秘」最新治療
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※女性セブン2025年12月18日号