
「ここに来なければ食べられない。この一杯からでしか得られない効能がある――。心にしみる“渾身の一杯”を出す、一店舗型のラーメン屋さん。そんなミュージシャンでありたいと思って活動してきました」
シンガーソングライターの高橋優は、自身の音楽活動をそう振り返る。『福笑い』『明日はきっといい日になる』をはじめ、高橋の楽曲には一歩前へ踏み出す勇気がわく、心に光が灯って笑顔になれる“効能”や、じわーっとしみてくる“ぬくもり”が感じられる。
1位じゃなくても悲しい気持ちにならない
「僕自身はランキングとか、1位になるとか、そこまで意識していないです。1位になるってことは1位になれない人たちがいるということを考えてしまう。いい時は褒めてくれる、良くない時は褒めないみたいな。なんかそういうちょっと穿った見方をしちゃうとこあるんですよ。
だから例えば『ランキング1位すごいね』って言われるときは単純に喜んでありがとうって言うんですけど、ランキングが低い人を卑下するつもりもないし、自分が1位じゃない時に悲しい気持ちになる必要もないのかなっていう風に思うんです。
僕は陸上やっていましたが、足が速い人は金メダル取るじゃないですか。指標がわかりやすい。でも、音楽は、時代だったりタイミングだったり、その土地柄だったりで、選んでくれるかどうかが変わる。だから、たまたま選ばれるみたいなことが多いと、勝手に思っています。
僕自身はとにかく自分のスタンスでやることが大事だと。何位でもいいし、何位じゃなきゃダメっていうことはない。比べられるところにいようがいまいが、自分自身が誰かと比べながら生きるっていう考え方はあんまりしていないかもしれないですね」(高橋、以下同)

15周年アルバムに込めた思い
2025年でメジャーデビュー15周年を迎えた。インディーズ時代から最新アルバムまでを網羅したベストアルバムを12月10日にリリース。タイトルは『自由悟然』と書いて、「じゅうごねん」と読む。
「360°見渡す限りの広い世界から、自分の心のままに手を伸ばし掴めるのは、たった一方向しかない。常にそうだとするならば、その自由を追い求める覚悟が必要だと思うんです。僕は360°から音楽という1°だけを選んで、腹をくくって唄い続けてきました。誰と比べるでもなく、自分のスタンスをただ大切に歩んできた。そんな15年に迷いがなかったのはきっと、自分が然るべく音楽を選んできたから。そこで『自由』『覚悟』『然るべく』を繋げて、この15年を『自由悟然』という言葉で表してみました。
僕のこの話を聞いてくれたあなたは、どう感じるでしょうか。“何をいっているんだよ”と思うのか、“自分もそうしているよ”、もしくは“自分のほうが自由だ”と思うのか――。アルバムに託して、いまを共に生きる皆さんへ問いかけたい」
1キロ4分半で毎日走る理由
高橋は今年の12月26日で42才。キャリアを順調に重ねてきた彼だが、話しているときの表情は若々しく新しいことに前向きだ。「今朝も7キロ走ってきました。今1キロ4分30秒のペースで、ほぼ毎日走っています」と体作りに余念がない。
「語弊があるかもですが、なんでも言い訳がきく世代に片足を突っ込んでいるというか。もういい年なんだからそろそろさ、みたいなことを言っても許してもらえる気もします。ただ僕自身の性格上の問題だと思うんですけど、まだまだそういうことに抗っていたくて。ここからでも何かを成し遂げられるんじゃないかと思っています。そのためにはやっぱ体作りとか健康管理とか、自分で絞れるところは絞っていきたいですね。
毎朝、走っていたら気持ちよくて。他を忘れられて、もう走ることだけに熱中できるペースが、1キロ4分半なんですよ」
「愛してるよ~」で盛り上がる!
15周年にリリースされた『未刊の行進』(フジテレビ系『奇跡体験!アンビリバボー』エンディングテーマ)や最新曲『黎明』には、「君を愛している」というストレートなメッセージが綴られている。
「“『愛している』と言われたい!”と胸がときめくアイドルや甘いフェイスの方が唄う素敵なラブソングは、世界中にたくさんある。正直なことをいうと、僕からはラブソングがなくてもいいなと、以前は思っていたんです。でも全国を巡っていろいろなところでライブをやらせてもらい、勢いにまかせて『愛してるよ~』なんて叫ぶと、お客さんが盛り上がってくれたりするんですよね。その顔を見て、“あぁ、こんな自分からでもこういう反応があるのか。ラーメン屋さんでも、デザートのメニューがあっていいか”って(笑)。そんな気持ちで、ラブソングやバラードに時々僕なりのエッセンスを加えようと、ストレートなメッセージも唄うようになりました。今年の2曲には、その想いが濃厚に溶けだしていますね」
渾身の一杯のラーメンに添えて、杏仁豆腐も出してもいいかな――。食になぞらえて、楽曲の変遷をユーモラスに語った。後編では高橋の“音楽と食の関係”について、深掘りする。
取材・文 渡部美也