
人々が忙しくする師走。街行く人々を見ると、世の中の流れも見えてくる──。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、交通機関から感じる時代の変化について綴る。
止まる気配がない都内のタクシー
年末年始恒例の民族大移動。まぁ、これだけは21世紀が4分の1過ぎたって変わらないんだね。
新宿、銀座、渋谷、上野、浅草──都内の繁華街はどこもかしこも人だらけで、パッと見には「外国人だらけ!」に見えるけど、実際のところ、お正月のライブで上京してきたり、ふだんより人口密度の低い東京を目指して来る地方の人も多いんだよね。
実際、地方に住む友人たちは、「“東京遊び”はいったん覚えると、こんなに楽しいことはない」と口を揃えて言う。
先日、そんな友達のひとりと東京のタクシー事情の話になったの。
公務員の彼女は、東京に来るたび、「東京のタクシーほど便利なものはない」と言うんだわ。手を挙げるとスーッと近寄ってきて、目的地を告げるとスムーズに連れて行ってくれる。「タクシーなんか走っていない田舎とは大違い」って言うんだわ。私は思わず、「でも、それは’24年までだよ」と言葉をさえぎったね。
私の実感からしたら、2、3か月前からだ。極端にタクシーがつかまりにくくなったのよ。タクシーは走っているけど、止まる気配がない。みんな、「回送」か「迎車」と表示しているんだわ。スマホ操作でタクシーを呼ぶ「GO」とか「S.RIDE」といったアプリを利用する人がいよいよ増えてきたの。もちろん大きな駅前のタクシー乗り場には何台か止まっているけれど、その数が前と比べると断然少ない。

先日タクシーに乗ったら、江戸言葉のドライバーがいきなり、「ヤンなっちゃうよ」とボヤきだした。「来る日も来る日も乗ってくるのは外国人ばっかりでさ。いきなり外国語でベラベラ話されたってわかんねーって」と。
以前は、行きたい地名を告げた後、話しかけてくることは少なかったそうだけど、最近は容赦なく話しかけてくるんだって。しかも、英語や中国語などそれなりに聞いたことのある言語だったら対応できるけど、最近はまったくなじみのない言語で話しかけてくるんだって。
「まぁ、日本人は日本語を話すって基本的なことを知らない人が、外国から押し寄せているってことだよ」というのが“べらんめえドライバー”の結論だ。
いずれにしても、2026年から“タクシーの乗り方改革”が始まるのは間違いなさそうだ。なのに、じゃあ私がタクシーのアプリを登録しているかというと、一日延ばし。寒さの中、15分もタクシー待ちをしていると、「今度こそは」と思うけれど、そう頻繁に使うわけでもないから、乗車すれば忘れちゃう。かと思えば、80代の知り合いは器用にアプリを使いこなしている。このあたりは必要性の違いだ。
午後3時から4時に山手線に乗っている人々
そうそう。時代が変わったといえば、午後3時から4時の山手線や地下鉄に乗っている人の顔ぶれよ。
前は営業回りの会社員や子育てママ、それから観光客が多かったんだけど、昨今は私と同世代や上の男女が目立つのよ。
私がそうだからわかるんだけど、その疲れ具合からして、肉体労働系のパート帰りとみた。70代、80代の働き手はこれからますます増えてくるね。
高齢化は働き手ばかりじゃない。ここのところ、「母(父)が他界しました」という通知を受け取って、年齢を見ると、どうしたことか「92才」「93才」が多いの。私の母親も92才だったから、健康な人の寿命が尽きる年齢なのかしら。と思っていたら、私の周辺に100才超えの親がいる人も珍しくなくなってきたんだわ。大相撲を見て手を叩いている人から寝たきりの人まで、健康状態はさまざまだけど、とにかく生きている。
「ええっ、そんな長寿のお母さんがいたなんて聞いてない」と言うと、「だって言うほどのことが起きないんだもの」だって。
思えば、何も起きないのが幸せなんだね──なんてことを言いかけたら、戦争末期に「いいことも悪いことも経験して死ぬのが人の幸せなんだよ」と言った人の言葉を思い出した。それを私に聞かせてくれたのは、2024年に92才で亡くなった最年長のボーイフレンド。発言の主は彼にとって“お隣に住んでいるおばちゃん”で、なんと作家の林芙美子さんだった。
みなさまもよいお年を。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2026年1月8・15日号