
がんの治療中も治療後も生活は続く。女性特有のがんなら、なおさら「治ればいい」というわけではない。乳房を残したい、出産を諦めたくない――。その思いに耳を傾ける病院を、名医たちは知っている。ジャーナリスト・鳥集徹氏と女性セブン取材班が取材した。
難度の高いがんでも患者に寄り添い根治を目指して併走してくれる“いい病院”の見つけ方
「頼れる病院」といっても、どんな病気の治療を受けるかによって意味合いは異なる。同じ「がん」でも、高難度手術の評価が高い病院もあれば、女性特有のがん治療に力を入れている病院もある。ほかの持病を抱える場合には、その治療にも対応できる専門医が在籍している総合病院が“頼り”になる。
このように、間違いのない病院選びをするには、その病院の得手・不得手を理解し、病状に合った施設を選ぶことが重要だ。しかし、一般の人がそれを見極め、選択するのは簡単なことではない。
そこで、過去に本誌に登場した名医を中心に「もし自分や家族が自分の専門とする病気になったら、どの病院で治療を受けたいか」についてのアンケートを実施し、疾患別にリスト化した。加えて、最新治療や頼れる病院の選び方を教えてもらった。
今回は「乳がん」「婦人科がん」を取り上げる。いずれも治療の高度化が進んでいる。この記事を参考に、後悔のない病院選びをしてほしい。
乳がん:「針を刺すだけ」で乳房を温存できる
女性特有のがんで、まず思い浮かぶのが「乳がん」だ。女性のがん部位別罹患者数は1位。9人に1人が生涯のうちに罹患するとされており、気になる人は多いのではないだろうか。
乳がんは検診のみならず、自分でしこりに気づいて、見つかるケースが多い。ほかにも乳房の皮膚の引きつれ(皮膚や組織が引っぱられて、つっぱったり波打ったりすること)や、乳頭から血が混じったような分泌物が出ることなども乳がんに起因しているケースがある。気になる人は早めに「日本乳癌学会」がホームページで公開している乳腺認定医・専門医のいる施設を探そう。
また、遺伝的に乳がんや卵巣がんになりやすい人がいる。血縁者に乳がんや卵巣がんを発症した人が多い場合は、「遺伝カウンセリング」の体制がある病院を受診してほしい。「日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構」が遺伝カウンセリングのできる基幹施設を認定しており、こちらもホームページに全国のリストが公開されている。
乳がんと診断された人がまず気になるのが「乳房を残せるかどうか」だろう。一般的に腫瘍が小さく、単発で広範な広がりがない場合には、乳房温存手術が検討される。多くは腫瘍を含めた外科的な切除がなされるが、2023年からは切除を行わず、腫瘍を高周波で焼く「ラジオ波焼灼療法」が保険適用となった。四国がんセンター乳腺外科・がんゲノム医療センター部長の高畠大典医師が解説する。

「1.5cm以下の早期乳がん(原発性乳管がん)で、リンパ節や他臓器への転移がなく、前治療として薬物療法を受けていない人が対象となります。日本乳癌学会の承認施設であれば保険診療下で実施可能です。適応を厳守し、認定術者が行えば乳房温存手術と再発率が変わらないことも臨床試験で確認済みです。乳房に針を刺すだけなので傷も目立ちません。
ただし、術後検査で焼灼不全が疑われた場合、再手術を要する場合もあります。ラジオ波焼灼療法を選択する場合には、この点も留意が必要です」
かつては乳房温存を希望する患者が多く、温存率が全国的に8割近くまで達したことがあった。
しかし無理な温存によって乳房が変形し、整容性が損なわれることも多く、現在は温存率が下がっている。その代わりに、乳房全摘後の「乳房再建術」を希望する患者が増加。北海道大学病院乳腺外科長で教授の高橋將人医師が話す。

「かつては乳房再建は形成外科医に任せっぱなしでした。しかし、がん治療と再建術のどちらにも精通していなければ、患者さんに適切な情報提供ができない。そこで2008年に乳腺専門医と形成外科医が情報共有する場として、一般社団法人『日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会』が設立され、当院でも積極的に参加しています」
現在、同学会が認定した実施施設において、ティッシュエキスパンダー(皮膚拡張器)やインプラント(人工乳房)を使った『人工物再建術』を保険適用で受けることが可能となった。また、お腹などの脂肪や筋肉を移植する『自家移植』も保険適用だ。
乳がんは、手術以外にも薬物療法が効果的なことが多い。一方、ホルモン受容体やHER2タンパクの発現状況(陽性/陰性)によって主に5つの「サブタイプ」に分かれ、それによって薬の組み合わせや効き方が異なる。さらに近年は、従来のホルモン療法薬や化学療法薬に加え、新たな分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が続々と登場している。高畠医師が話す。
「近年は、がん細胞のゲノム解析を行い、効果が期待できる薬物の手がかりを見つける『がん遺伝子パネル検査』が行われるようになり、標準治療の選択肢がない転移再発乳がんの患者さんは、保険適用で検査が受けられるようになりました。
乳がんの薬物療法はますます複雑化しており、専門医以外が適切な乳がんの治療を行うのは困難です。治療に習熟するためにもある程度の症例数が重要ですから、年間100例以上は乳がん治療を行っている施設が望ましいでしょう」



子宮・卵巣がん:子宮の一部切除で妊娠の可能性を残す
もう1つ、女性にとって無縁でいられないのが「子宮体がん」「子宮頸がん」「卵巣がん」だ。これらを総称して「婦人科がん」と呼ぶ。ほかのがんに比べると罹患数、死亡数ともに多くはないが、生殖やホルモン分泌に影響があるだけに、治療にあたっては難しい選択を迫られる場合もある。
大腸がんや胃がんと同様、婦人科がんでも小さな傷で済む腹腔鏡手術が普及している。特に、早期の子宮体がん(単純子宮全摘術)と早期の子宮頸がん(広汎子宮全摘術)の手術は、一定の施設基準を満たした病院で保険適用となっている。なお、卵巣がんの腹腔鏡手術は「先進医療」の枠組みのため、臨床試験として一部施設で実施しているのに限られる。
「これらの手術を腹腔鏡で実施するメリットは大きい」と話すのは、岩手医科大学附属病院産婦人科教授の馬場長医師だ。

「開腹手術は傷が大きくて目立つだけでなく、腹痛や腸閉塞を起こしやすい。それに婦人科の患者は比較的若い世代が多く、子育てがあったり、仕事に復帰する人がほとんどです。がんは治ったけれど、体の自由が利かなくなったら困る―そうした人をなるべく減らすためにも、腹腔鏡手術は有用です」
2018年からは早期の子宮体がんへのロボット手術も保険適用となった。鹿児島大学病院産科・婦人科部門科長で教授の小林裕明医師は、日本でもっとも早く国産ロボットを試験導入するなど、婦人科がんのロボット手術に取り組んできた。

「子宮頸がんは横に広がる性質があるので、上皮内に留まるごく初期でない限り、子宮を全摘せざるを得ません。しかし私は、妊孕性(妊娠出産する能力)を残すために、子宮頸部だけ切除する『広汎子宮頸部摘出術』をいち早く始めました。
周囲の組織やリンパ節と一緒に子宮頸部を切除した後、子宮体部と腟をつなげる必要がありますが、ロボットの方が動きが繊細なため、腹腔鏡より安全性の高い手術ができる。子宮体がんや卵巣がんで大動脈周囲のリンパ節を切除する場合も、ロボットが向いています。いずれも患者自己負担での臨床試験中ですが、早く保険が適用されるよう国に働きかけています」
開腹手術だと退院まで2週間かかったのが、腹腔鏡やロボットなら4日~1週間で退院できるようになった。ただし、闇雲に新しい術式を選べばいいというものではない。小林医師が続ける。
「頻度は多くないとはいえ、手術にリスクはつきものです。出血が止まらない場合などには、開腹に切り替える必要もある。開腹手術の経験が豊富だからこそ、安全に腹腔鏡やロボットが扱えるのです。当院では進行がんも多く、約半分が開腹手術。自分の症例に適した治療が行われているのかどうかも、病院選びには重要です」
また、乳がんと同様に婦人科がんも、患者の気持ちを尊重する医師を選ぶことが大切だという。女性ならではの思いもあると馬場医師が語る。
「“子宮を失っても卵巣は残したい”という人や、“卵巣を残せるから手術を頑張れる”という人もいます。年齢にかかわらず子宮や乳房を切除することに抵抗があるかたは多いです。
卵巣を残せば、再発リスクが1%上がるかもしれない。でも、私たちは施設の成績のために手術をしているわけではありません。根治性を損なわないように配慮しながらも、患者さんの話に耳を傾けて、ご本人の気持ちを尊重してくれる病院を選ぶことも大切だと思います」


◆ジャーナリスト・鳥集徹
とりだまり・とおる 同志社大学大学院修士課程修了(新聞学)。新著『妻を罵るな』が2025年12月に発売。
※女性セブン2026年1月8・15日号