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《哀悼秘話》内館牧子さん 13年間 OL勤めの“暗黒時代”を経て、40才で脚本家デビュー 女性初の横綱審議委員に就任…挑戦者として闘い続けた人生

昨年12月17日に死去した脚本家・内館牧子さん
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 時に厳しく、時に滑稽に人間の業を描いてきた内館牧子さん(享年77)の原点は、世間の理不尽さを存分に味わったという暗黒のOL時代にあった。挑戦者としてさまざまなフィールドで闘い続けた彼女の人生を振り返る。

 ペン一本で突然の転身を遂げた女性──内館牧子さんはまさにそんな存在だった。

「男性社員のアシスタントで終わるなんて!」と大企業のOLを辞めて40才にして脚本家デビュー。約35年間、第一線で活躍した彼女の生きざまとは。

 昨年12月17日、内館さんは急性左心不全のため都内の病院で死去した。喪主は弟の均さんが務め、今春お別れの会が開かれる予定だ。

 NHK連続テレビ小説『ひらり』(1992年)や大河ドラマ『毛利元就』(1997年)などの脚本を手がけ、『終わった人』『すぐ死ぬんだから』などの高齢者小説シリーズも話題を呼んだ内館さん。彼女の作風にはひとつの特徴がある。

 結婚を間近に控えた姉とその妹の揺れる胸中を描く『想い出にかわるまで』、何不自由なく暮らす主婦が夫の浮気を機に若返りをめざす『エイジハラスメント』など、内館さんの作品にはありふれた日常を生きる女性が多く登場する。

「私の書くドラマには、女性の医者も弁護士もキャスターも出てこないの。普通のOLが主人公。現実的な設定をして、非現実的な夢を見てほしいんです」──内館さんが過去のインタビューでそう語った通り、作品の登場人物は、現実的な設定のなかで女性という“役割”を社会からさまざまなかたちで押しつけられ、悩み、もがき、どこかに救いを見出そうとする。それは彼女自身が経験したことだった。

「内館さんは大学卒業後の1970年、大手企業に入社し、総務課で働き始めました。当時のOLは結婚までの“腰かけ”とみなされ、コピーやお茶出しなど男性社員のサポートが主な業務。男性は同期はもちろん後輩までもがキャリアアップしていくなか、自分は仕事の成果を求められず結婚の機会もなく、宙ぶらりんで鬱々とした日々を過ごすばかり。そんな状況に納得しなかった内館さんは、OL勤めの13年間を『暗黒時代』と公言していました」(内館さんの知人)

 暗闇に光を見出そうと、子供の頃から大好きだった大相撲の記者になるべく、雑誌社や新聞社に片っ端から電話したが、「女の相撲記者などいない」と門前払いされ、自分は社会に必要とされてないという絶望感に苦しんだ。窮地に陥った内館さんを救ったのが、29才のときに新聞で偶然見つけたシナリオ学校の広告だった。

脚本家・内館牧子さん
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「文章を書くことが速かった内館さんは現状から脱出したい一心で、シナリオ学校の夜間部に通い始めました。会社帰りに週一度通学して映画を年間260本見て研究したそう。会社勤めを経験したからこそ書ける普通のOLのエピソードが彼女の最大の武器でした」(前出・内館さんの知人)

 31才のときにドラマ脚本の雑誌『月刊ドラマ』の一般公募で佳作になり、35才で勤め先を退社。ライターやマンガ原作などの仕事で食いつないで40才で脚本家デビューした。

 当時は、10年間のOL生活ののち『海色の午後』でベストセラー作家になった唯川恵さん、広告代理店勤務を経て人気脚本家になった中園ミホさんなど、OLから転身する作家が活躍し始めた時代で、彼女らに触発されペンを執り始めた女性が少なくなかった。

 放送作家・コラムニストの山田美保子さん(68才)もそのひとりだ。「私も物書きとしてのデビューが遅いんです」と話す山田さんはもともと内館さんの大ファンで、駆け出しの雑誌ライターの仕事で初めて対面したという。

「お仕事でご一緒した後、内館さんのトークショーに観客として訪れたら、『私も現場主義だけど、あなたもそうなのね!』とすごく感激してくれました。現場に足を運んで見聞きすることが全てと思っていますが、その姿勢を内館さんがしっかり見てくれたことに身が引き締まる思いでした。

 また、OL時代、内館さんは仕事がどれだけ忙しくてもシナリオ学校の課題を必ずこなしていたと聞きます。私はいま放送作家スクールの講師をやっていて、生徒にそのエピソードを必ず話すんです」(山田さん)

 一昨年、体調を崩した山田さんは空いた時間を利用して、内館さんが特別選考委員を務める朝日新聞の「Reライフ文学賞」に応募したが落選した。すると内館さんからこんなメールが届いた。

《私もたくさん応募して何度も落選しています。こんなことで落ち込まないで》

 山田さんが感謝する。

「この年齢になっての私の挑戦を心から応援してくださったのです。温かい言葉が励みになりました」

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