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《看取りの専門家が解説する「死の直前に起こること」》食欲や呼吸、顔に現れる兆候、家族を驚かせる「お迎え現象」「中治り」の謎に迫る 

「お迎え現象」があったというケースは20% 

 終末期にある人は、ただ静かに死に向かって衰えていくわけではない。時には家族を驚かせるような、不思議な現象を起こすことがある。そのひとつが「中治(なかなお)り」だ。 

「昏睡状態のようになっていた人が突然目覚めて、家族とおしゃべりしたり、まったく食べられなかった人が、『○○が食べたい』と言い出して、食事をするなど、まるで死期が遠ざかったかのような現象です。私も幾度も目にしてきましたが、実際には死期が近づいているのです」(西さん・以下同) 

 西さんがこう話す通り、家族は「このままよくなっていくのかも」と希望を持つが、中治りは長くは続かない。 

「その時間は一瞬だったり、半日くらいだったり。長くても1日くらいの経過で、また元の昏睡状態に戻ってしまうことが多い。このときに医師がうっかり期待を持たせるようなことを言うと、後から家族に“なぜまた急にこんなに悪くなったのか”と責められてしまうこともあります」 

 こうした現象は世界共通で、欧米では「last rally」(最後の回復)と呼ばれている。その医学的根拠はまだ明確にされていないが、少しでも命が永らえるように脳が最後まで頑張ろうとして「脳内麻薬」と呼ばれる物質を分泌するからではないか、という説もある。 

死の直前に起こる主なこと
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 日本では昔から、死ぬ間際の様子について「ろうそくの火が燃え尽きるように」と語られてきた。消えそうになったろうそくの火が、最後にパッと明るい光を放って、その直後に消える……これは中治りのことを言い表したものなのかもしれない。 

 もうひとつ、専門医たちが目の当たりにするのが「お迎え現象」だ。宮下さんが実際に聞いた話を教えてくれる。 

「患者さんが亡くなる直前に、死んだお母さんやお兄さんなど家族、知人が“迎えに来た”と話すことを、一般的に『お迎え現象』と呼びます。 

 実際に“昨日の夜、お迎えが来た”と話す人は少なくありません。家族がいる前で“ほら、そこに来てる”という人もいます」(宮下さん) 

 広い意味では「三途の川」や「死後の世界」を見たという、いわゆる臨死体験も、お迎え現象に近いものかもしれない。高柳さんが続ける。 

「三途の川に行っておじいちゃんに会い、“おいで”と言われたけど、行かなかったから死なずに戻ってこられたという患者さんも何人もいらっしゃいました」 

 宮下さんらが行った遺族調査では、遺族が「お迎え現象があった」というケースは約20%。男女比では女性の方が男性に比べて3割多かった。また、「中治り」についても、約10%が「あった」と回答したという。 

 なぜお迎え現象が起こるのか。高柳さんは医師の立場からこう話す。 

「脳に酸素がいかなくなり、脳内エンドルフィンが出ることが原因だと考えられます。例えば柔道の絞め技で“落ちる”、つまり意識がなくなるのも、一時的に脳が酸素不足に陥るから。柔道ではすぐに活を入れるので見たものを忘れてしまうことが多いようですが、実際に柔道で落ちた間に“お花畑を見て、気持ちよかった”という人も半分くらいいるそうです。また終末期になると、臓器が弱るだけでなく脳にも大きなダメージが加わります」