
すべての人に訪れる“死”。その最期の瞬間を理想的なものにしたいと願う人も多いだろう。しかし本来の理想の最期は、死に至る一連のプロセスを指すのではないか──。
そう語るのは『大切な人が亡くなる前にあなたができる10のこと』(かんき出版)の著者で在宅医の安井佑さん(45才)。
「死に至るプロセスは具体的には、亡くなる半年前からの時間が当てはまります。その半年間、自分と、家族を中心として一緒に過ごしてくれる人たちが“よい時間”だったと思える時間を過ごして、その末に最期を迎えたい。場所はなるべく家で過ごして、いままでの仕事や家族でかかわった大切な人たちと、自身の人生を振り返りながら。そして、自分が死んだ後も生きていく人たちに思いを伝えられれば、それが私にとっての理想の最期です」(安井さん・以下同)
安井さんは東大医学部を卒業後、ミャンマーで国際医療支援活動に従事し、33才で在宅医療の「やまと診療所」を開業した。現在は在宅医療を中心とした医療グループ「TEAM BLUE」の代表も務める。彼の原点は、17才のときに経験した父親の病死だという。
「当時は、そう遠くない未来に父が亡くなることはわかっていたけどその事実を直視するのが怖くて、残された時間をどう有意義に過ごすかはまったく考えられませんでした。亡くならないでほしいと願ううちに時が過ぎ、父と過ごす“よい時間”をつくれなかったことを後悔しています。だからこそ私は、亡くなる人とその周囲にいる人が最期までのプロセスでよい時間を過ごせる世の中にしたくて、いまの仕事をしています」
多くの人にとって死は怖く、身構えるものだ。一方で平均寿命が長くなり、死はいつかはやって来るものという認識も広がった。
そうした状況で理想の死に方をするには、死に至るまでのプロセスを「人生という物語の最終章」と捉えること、と安井さんは語る。
「人生の最後の章に必要なのは自分らしく過ごすこと。そのためには人生の舵を本人がしっかり握って前に進むことが重要です。人生の舵を医療者に預けっぱなしにしたまま最期の時間を迎えると、本人も家族も後悔するケースが多いので、自分の希望を具体的に医療者や周りの人に伝えることが欠かせません」
私らしく死ぬための医療を選ぶ
その上で、人生の最終章によい時間を過ごすには、「場所」も重要なポイントになる。
「自分らしい最期を迎えるなら、病院ではなく自宅を選ぶ」と安井さんは話す。
「病気になって寿命が近づいた際、病院に入って医療者の指示に従いながら過ごすことと、最期まで自分らしい時間を過ごすことは必ずしも一致しません。
在宅医としてはこれまでの経験から、病院で医療的な正しさに基づく治療を施されるより、自宅に戻って痛みを和らげる緩和ケアを受けながら毎日を送る方が、最期まで自分らしい人生を過ごせると思います」

実際に安井さんが看取る患者も、自宅で最期を迎えることを望む人が少なくないという。
「お墓参りに行きたい、生まれ育った故郷で死にたいという人のほかに、近所の町内会でカラオケを歌うのが自分にとってすごく大事な時間だから一時的にでも家に帰りたい、死ぬ前に子供たちのためにとことんお弁当を作ってあげたいという人がいました。やはり病院より自宅の方が死ぬまでの時間を自分らしく生きられるという人が多い。私もそういった“自分ならではのよい時間”を過ごした先で、最期を迎えたいですね」
【プロフィール】
安井佑/東京大学医学部を卒業後、ミャンマーにて国際医療支援に従事。2013年に東京都板橋区に在宅医療専門クリニック「やまと診療所」を開業。また在宅医療グループTEAM BLUEの代表も務める。
※女性セブン2026年6月4日号