
誰もが迎える人生の最期。後悔なく、理想的で、最高の大往生を迎えたいと願うのは当然だろう。臨床の現場で「命のともしびが消える瞬間」に向き合ってきた名医に自身はどのような「極上の最期」を思うのか聞いた。
高齢者専門の精神科医として30年以上、高齢者医療の現場に携わってきた和田秀樹さん(65才)は、「できればがんで死にたい」と語る。
「結局、人間は死ぬときは死にます。私は車を運転するから交通事故で亡くなるかもしれないし、心筋梗塞や脳梗塞になって突然家の中で孤独死するかもしれない。できればそういう突然死は避け、がんで死ぬのがいちばんいいと思っています」(和田さん・以下同)
がんを望むのは死期を把握しやすく、最期が近づくときが来るまで通常の生活を送りやすいからだという。
「がんで命のタイムリミットがわかったら、生きている時間をいかに充実させるかに心血を注ぎます。お金を借りられるだけ借りてライフワークの映画を撮りまくり、高価なワインをバンバン飲むでしょうね」
がんになったら最期を迎えるまで生きたいように生きる一方で、治療は一切受けないと断言する。
「抗がん剤や放射線治療などは延命効果が不明なうえ、治療を受ければ受けるほど体力が弱ってQOL(生活の質)が確実に下がります。残された生を充実させるのにいちばん邪魔になるのが医師なので、私はがん治療は一切受けません」

そう言い切るのは、がんの治療で苦しむ高齢者を見てきたからだ。
「私が診た高齢患者のうち、がんになって治療を受けた人と受けなかった人がおよそ半々います。そのうち治療を受けた患者の方が明らかに具合が悪くなっていた。
私はがんの専門医ではありませんが、そうしたがん患者を何十人も見てきて、がんの治療は受けない方がいいと思うようになりました。特に高齢者はがんの進行が遅いので、つらい治療を受けるメリットが少ないんです」
そう語る和田さんにとって死とは、「眠りの延長線」にあるものだ。
「病院勤務で看取った限りでは、寝たまま起きてこなくなるのが死です。眠りの延長線上にあり、意識がボーっとしてきて死に至るので、不必要な治療さえしなければのたうち回って死ぬことは少ないはずです」
今日やりたいことは今日やる
人間はいつ死ぬかわからない。だからこそ終活に時間を割いたり何かをがまんしたりするのではなく、今日やりたいことがあれば今日やるべきだと訴える。
「医師は“血糖値と体重を落とせ”とか“薬をたくさんのめ”など勝手なことを言うけど、食べたいものをがまんして薬でボーっとした状態で生きていて本当に幸せなのかと問いたい。
私の知る肺がんの高齢者は好きなたばこを禁じられてうつ状態になったけど、死期が迫り開き直ってたばこを吸ったら逆にストレスが消えて食欲が戻って元気になりました。その人の人生なのだから、体が動くうちに好きなことやるべきで、終活は不要です」
老後資産に不安を抱いて節約に励む人も目立つが、幸せな死に方をするためにも思い切ってお金を使うことも選択肢となる。
「高齢者には『消費寿命』があり、年を取るほど体力や気力が衰えてお金を使えなくなります。もちろん財政的な余裕にもよりますが、ほしいものを買い、食べたいものを食べ、行きたいところに行く方が幸せな最期を迎えられるはずです」
【プロフィール】
和田秀樹/東京大学医学部卒業。現在は和田秀樹こころと体クリニック院長。1987年『受験は要領』がベストセラー。映画監督として『受験のシンデレラ』『東京ワイン会ピープル』などを手がける。
※女性セブン2026年6月4日号