「長持ちする脳」を実現するための“予備脳”の強化 「新聞・雑誌の音読」「会話」「できるだけ最近の話」が有効 「会話の中で1回でも頭を使って質問」で脳をアップデート

シミ、しわなど外形的なアンチエイジングを意識する人は多いが、目に見えない臓器もまた、老化することを忘れてはならない。人生100年時代のいま、必要なのは脳や腸、骨をメンテナンスし、いつまでも若々しい体を手に入れること。第1回では脳のエイジングケア方法を解説する。【全3回の第1回】
脳を長持ちさせるには「予備脳」を鍛える
日本人の寿命はどんどん延びている。厚労省のデータでは100才以上の長寿者は9万人を超え、55年連続で増加中だ。
だが寿命が長くなる一方で、加齢とともに体が老化して衰え、健康に過ごすことが次第に難しくなっているのが現実。せっかく長く生きられるなら、最期まで元気に過ごしてピンピンコロリを叶えたい。
人生100年時代、長持ちする体をつくって健康的に生き切るために、いまからできることとはなんだろうか。
心身の働きをコントロールする脳は、健康長寿に欠かせない重要な器官だ。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳血管疾患はがん、心疾患、肺炎に次ぐ日本人の死因の4位。脳血管疾患は心筋梗塞と並んで突然死の原因にもなる。
脳血管疾患は寝たきりになる原因のトップであり、また加齢とともに脳の機能が衰えて認知症になると、体は元気でも自分らしく生きられなくなる。
これまで1万人以上の脳を診てきた国際医療福祉大学三田病院の脳神経外科医の石川久さんが「長持ちする脳」の重要性を説明する。
「年齢を重ねると動脈硬化が進んで脳の血流が悪くなり、脳血管疾患のリスクが増します。突然死や寝たきり、認知症などを防いで健康長寿で生きるには脳の血管を健康に維持することがとても大切です。そのためには病気を乗り越える基礎となる体づくりにより代謝を高め、動脈硬化を防ぐことが必須です」
脳の老化が進むのは一般に70代とされる。いのくちファミリークリニック院長で認知症専門医の遠藤英俊さんが指摘する。
「加齢とともに脳を構成する神経細胞や神経回路が少なくなり、MRIでみると75才くらいから脳が全体的に萎縮して老化が進んでいるのがわかります。その結果、脳血管障害などの病気が生じやすくなる。認知症の原因となるアミロイドβやタウというたんぱく質が脳内にたまり始めるのは55才くらいから。早めの対策が重要です」

脳の老化は、性格や行動の変化を引き起こす。
「脳が老化すると生活の実行機能が落ち、テレビのチャンネルが押せない、スマホを上手に扱えないといった生活上の不具合が生じます。性格が怒りっぽくなったり不安になったり、動作が怠慢になってモノにすぐぶつかったりするのも老化のサイン。こうした変化は脳のどの部位が衰えるかによって異なり、人によって『偏り』があることが特徴です」(遠藤さん・以下同)
脳は人間にとって重要な器官であるため老化が進むのは人生の終盤だが、ひとたび脳が萎縮するとさまざまな困難が生じやすくなる。それでも、いくつになっても脳は回復できると遠藤さんは主張する。
「以前は一度衰えた脳細胞は再生しないとされましたが、近年の研究によって、何才になっても新しい刺激や勉強などで脳細胞が増えたり脳のネットワークが強化されたりすることがわかりました。
こうした“可塑性”があるゆえ、たとえ80才になっても脳を鍛えて若返らせることは充分可能です」
脳の鍛え方のなかで、遠藤さんが注目するのが「予備脳」の強化だ。
「加齢によって脳細胞の一部が衰えても、脳全体にはりめぐらされた神経ネットワークがその衰えをカバーできることがわかっており、それが予備脳と呼ばれるものです。この予備脳は後天的に得られるものなので、日頃から脳をたくさん使っておくことが重要となる。
さまざまな脳の部位に少しずつ負荷をかけることで脳のネットワークを増やし、予備脳を鍛えることができます」
新聞や雑誌などを「音読」することも効果がある。
「声を出して読むと頭頂葉にある運動野や、側頭葉にある聴覚野など脳のさまざまな部分に刺激を与えます。
音読を続けた高齢者の脳は前頭前野の血流が増え、記憶力や注意力がアップしたという研究もあります」