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【世界で闘う日本の女性たち】ICC赤根智子所長、前衛芸術家・草間彌生さん、音楽評論家・湯川れい子さん…国境を越えて道を切り開いてきた女性たちの「哲学」と「信念」

“独裁者”と対峙するICC赤根智子所長(写真/共同通信社 )
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 乗り込んだ飛行機には、米兵2人と花嫁が1人乗っているだけだった──海外渡航が自由ではなかった時代に、60着の着物と描きためた2000枚の絵を携え、アメリカへ渡った草間彌生さんの旅立ちの様子だ。それから約70年。世界はボーダーレス化し、日本人女性の活躍の舞台は広がっている。国境を超えて輝く彼女たちの信念を追った。【前後編の前編】

国際司法の番人として毅然と立ち向かう姿勢を示す

 アメリカのトランプ政権は8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を資産凍結・入国禁止の対象に指定したと発表した。パレスチナ・ガザ地区の民間人を攻撃したイスラエルのネタニヤフ首相に対し、ICCが逮捕状を出したことに、トランプ政権が強い不満を持つことなどが背景にあると報じられている。

 ICCはウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑でロシアのプーチン大統領に逮捕状を出したことでもロシア政府の強い反感を買い、2025年にモスクワの裁判所は欠席裁判の末に赤根所長に実刑判決を下した。

「赤根所長はICCを敵視するトランプ氏、プーチン氏というきわめて“独裁色の強い”大統領から敵視されています」と語るのは、元ICC客員専門家で東京外国語大学教授の篠田英朗さんだ。

「例えば何者かに赤根所長の身柄が拘束されてロシア領に連行されてしまう事態になると、逮捕・投獄される可能性もある。そうした危険も充分に想定されるためICCは身辺警護を強化しています。一方、アメリカ国内では赤根所長個人の金融資産が凍結され、送金できずクレジットカードも使えません。各国の金融機関は二次制裁を恐れて通常は追従するので、生活上の不都合は大きいはずです」

 制裁は、今後家族にまで及ぶ可能性も指摘される。経済的自由を奪われ、身の安全も脅かされるなか、9月6日に都内イベントでオンライン講演を行った赤根所長は「どんなことがあっても、信念は揺らぎません。いままで通りにICCの業務を続けてまいります」と、国際司法の番人として毅然と立ち向かう姿勢を示した。大国によるこれら圧力は「法の支配の危機」だと訴え続ける赤根所長は、日本政府に法の支配を守り抜くための最大限の努力を求めている。

「あなたがやらないなら辞める」とまで言う同僚に押され所長に

 愛知県名古屋市出身の赤根所長は東京大学法学部卒業後、1982年に検察官となった。当時の司法試験合格者に占める女性の割合は、弁護士と検察官を合わせてもわずか4%。そんな時代に法曹の道を歩んだ。

 司法修習生になった年に結婚し、翌年修習中に長女を出産。当時の法曹界には、“ワーク・ライフ・バランス”などという言葉も概念もなく、育児休業制度もない。産後のみわずか1か月休みをとって復帰した。その後、離婚して単身となってからも、長女は実家に預け2、3年ごとに各地に転勤しながら男社会に食らいつき、キャリアを積んだ。2018年に日本人女性3人目となるICC判事に就任した。

ロシアから指名手配された当時、赤根所長はメディアの取材に対し、「裁判官は1人が死んだとしても替えがきくもの」と語った(写真/共同通信社 )
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「当時、日本の法曹界は女性が少なく、“マイナーであることが当然”だという偏見もあった。実際、かつての勤務先には女性用トイレすらなく、赤根所長が異動希望を出しても女性であることを理由に出身地近くにしか配置されないなど、女性ゆえの障壁と言わざるを得ない状況がありました。

 対する国際機関は総じて女性が働きやすい環境が整いつつあり、ICCの裁判官は男女がほぼ同数。赤根所長は出身地から脱しようという意図もあってアメリカへ私費で留学した経験があり、英語で裁判官業務を担えることが評価されて、上司からICC判事への転身を打診されました。迷いや不安もあったそうですが、国際的な舞台で自身の能力を発揮することが、後に続く女性にとっても意味を持つと感じ、決意したのではないでしょうか」(篠田さん・以下同)

 経験と能力があっても、国際司法に身を投じるのは大きなチャレンジだった。それでも、英語やフランス語で記された大量の法律書類を読み込み、猛勉強して判事としての実績を積んだ。「法の支配」を貫徹している日本への信頼と、赤根所長のこれまでのがまん強さや粘り強い仕事ぶりが評価され、ICCの同僚から所長選挙への立候補を求められた。リーダー気質を持っていないと自らは前向きではなかったが、「あなたがやらないなら辞める」とまで言う同僚が現れ、その熱意によって立候補を決め、所長に就任した。

「ものの考え方や文化、精神風土が大きく異なる外国に飛び込んで仕事をするのは非常に難しく、特に日本の泥臭い検察組織で働いていた赤根所長は大きな文化的差異を感じたはずです。それでも彼女が信念を持って職務に邁進し、ICCの所長に推薦されるまで上り詰めたのは日本社会にとって有意義なことです」

 法の支配の貫徹を唱え、“独裁者”と対峙する赤根所長。彼女のように、世界で闘う日本人女性はほかにもいる──。

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