
毎度の金さん人気に、これまでの会場では杉から撮影の裏話が飛び出すこともあった。
「あの桜吹雪を描くのにどれだけ苦労をしたか。5人がかりで3時間ほど、かかるんです。その間はジッとしてなきゃいけない。朝早くからですよ。描くのが大変なんだけど、描かれるほうも大変なんだ。落とすのも大変でねぇ。ベンジンで拭きとって、コールドクリームで落として、クレンザーでゴシゴシやってさ。それからシャンプー。それでも全然取れない。最後は熱いタオルで蒸してね。すごい手間なの。だから金さんをやめたんですよ(笑い)。
桜吹雪の形に日焼け跡が残っちゃったこともありました。周りの肌が焼けているから、消せやしない。その姿でサウナへ入ろうとしたら、刺青と間違われて断られたりしてね」
若い頃からテレビで見てきたスターが目の前にいて、歌い、自分たちひとりひとりと目を合わせて語りかけてくる。その光景に心が躍らないはずがない。今回の松丘保養園では「本当は舞台の『遠山の金さん』をやりたいけど、年も年なので……」と笑ってみせた杉だが、歌唱には張りがあった。
普段からカラオケ大会などで歌手の似顔絵をうちわにして、皆で楽しんでいるという同園。この日も客席では、杉、伍代、瀬川の3人のうちわが揺れた。観客は各々がうちわや造花など手作りの“応援グッズ”を手にし、夢のひとときを満喫した。
最後列の職員たちが掲げていたのは、3人の姿が描かれた横断幕。数日がかりで完成させたという大きな幕には、津軽弁で《よぐ来でけだのー(よく来てくれたね)》とメッセージが添えられ、杉たちの来訪をどれだけ心待ちにしていたかが、伝わってきた。
会場へは入所者や介護の職員だけでなく、医師や事務方など、各部署から人が集まってくる。杉はぐるりと客席を見渡し、「職員の皆様、本当にいつもありがとうございます」と、深々と頭を下げた。
「私も日々の朝から晩まで、入所者の皆さんに寄り添いたい。ですが心苦しいことに、それができません。私たちができないことを代わりにやってくださっている。その感謝も歌に込めました」(杉)
約1時間の慰問コンサートを終えると、3人揃って舞台から降り、客席へ歩み寄った。杉が近づけば黄色い歓声が上がる。伍代が杉と自分のうちわをペアにして手に取ると、喜びで歓声の色まで変わった。にこにこ笑顔の瀬川は、いつのまにかステージ衣装のハイヒールからスニーカーに履き替えている。客席と安全に触れ合うための気配りだった。三者三様の交流だが、その根底には杉の真心が共有されている。
入所者だけではなく、集まった全員と言葉を重ね、ハイタッチや握手を交わした3人。「まさか私たちにまで……」と、職員たちも感激の面持ちだった。杉らが退場した後の会場には、幸せの余韻が長く残り、明日への生気がみなぎっていた。
37年前、コンサートで訪れたベトナムで、路上に倒れたハンセン病患者と出会った。それ以来の学びと交流を通じて「私はハンセン病の患者さんに育てられた。“真心”を教えていただいた」と、杉は語る。受けた恩を真心として携え、杉は全国を縦断する。