「糖質オフ」を謳う飲食料品がスーパーの棚を席巻している。外食チェーンも「米抜き」メニューを次々提供しており、2016年の「糖質オフ・ゼロ市場」は3000億円超と拡大の一途をたどる。老若男女がこのダイエットブームに乗り、食卓の隅にお米を追いやるなか、衝撃の研究結果が発表された。糖質制限で、毛が、肌が、脳が、どんどん老化していく──。
提示された2匹のマウスの写真がすべてを物語っていた。片方は体毛がボサボサで顔もしわだらけ。もう片方は皮膚に張りがあり、毛並みもきれいにそろっている。
「見た目だけではありません。毛並みの悪い方のマウスは背骨が曲がり、学習記憶能力が低下していた。体全体が炎症状態であり、皮膚も薄くなっていました」
こう語るのは東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授。3月17日、都築准教授の研究チームは、「糖質制限食を摂取し続けると体が老化する恐れがある」という研究成果を発表した。
「1年間にわたり、マウスに通常飼育食を与えた場合と、糖質制限食を与えた場合を比較しました。ビタミンやミネラルは同じ量を与えています。通常飼育食を与えたマウスの多くが平均寿命よりも長生きでしたが、糖質制限食のマウスは平均寿命より20~25%ほど短命でした。また、糖質制限食を与えたマウスは脱毛がひどく、老化の進度が30%ほど速いことがわかりました」(都築准教授)
なぜこのような違いが生じたのか。都築准教授がメカニズムを解説する。
「生物の体内は完璧ではなく、年を重ねるごとに“不良品”の異常たんぱく質が製造される。人間も同じで、若いうちは1万個に1個だったものが、50代には1000個に1個、60代では100個に1個といった確率で不良品は必ず出てきます。
この異常たんぱく質を分解、除去することが老化の防止につながる。しかし、糖質を制限し、たんぱく質の摂取比率が多くなると、たんぱく質を構成するバリン、ロイシン、イソロイシンといった分岐鎖アミノ酸の効果で異常たんぱく質が分解されず、体内に溜まりやすい状態になることがわかりました。
とりわけ異常たんぱく質は皮膚や腸管など細胞分裂が活発な部分で発生しやすく、肌は劣化し、腸管での栄養素の吸収率も低下して、老化が促進されたと考えられます」
「栄養の偏り」は生物にとってプラスにならない
近年、米やパンなどの炭水化物(糖質)を抜く「糖質制限ダイエット」は、議論の的になってきた。
人間が摂取した糖質は体内でエネルギーに使われ、残った分が脂肪に変わり、内臓や皮下に蓄積される。当然、糖質を減らせば脂肪も減る。
この明快な理屈に加え、「肉や魚などのたんぱく質は食べ放題」という手軽な食事法が受け、2000年代初頭から“夢のダイエット”として大ブームになる一方、栄養の偏りを危惧する声が噴出し、日本糖尿病学会も「勧められない」と声明を発表。
その後、「カロリー制限ダイエットの方が危険」「むしろ糖質制限で健康になる」と反論する医師らが登場し、双方が侃々諤々の議論を繰り広げてきた。
2010年には米ハーバード大学などの研究チームが、17万人の男女を対象にした大規模調査で、糖質制限を続けると死亡率が2割も高くなるという結果を公表。2013年には日本の国立国際医療研究センターも「死亡リスクが増加する」という調査結果を発表している。
「糖質制限ダイエット危険派」が攻勢を強める中で発表された、今回の東北大の研究結果。都築准教授が言う。
「われわれは世界一の長寿国を支える『和食』を研究しています。稲作が伝来した3000年程前から日本人はお米を食べてきたわけです。そうして世界有数の長寿国になった。極端な話、稲作が普及する以前は現在でいう糖質制限に近い食事をしていたはずですが、その頃の日本人は寿命も20才に届かず、健康的だったという資料はありません。われわれの研究から見えてきたのは、やはり糖質を過剰に制限することで起こる“栄養の偏り”が生物の体にとってプラスにはならないという事実でした」
都内在住の専業主婦Aさん(48才)は、今回の研究結果のニュースを見てハッとしたと言う。
「半年前から糖質制限ダイエットをしています。大好きなお米を食べられないのはつらいですが、最初の1週間で2キロも減量できたのでうれしくなって続けていました。
ところが最近、娘に“肌が荒れているね”って言われるようになったんです。そういえば朝もなかなか起きられなくて、疲れやすくなった。シャンプーしたときの抜け毛も以前より増えた気がします。
今回の調査結果を知って、もしかして糖質制限のせいかもしれないと思い、慌てて断っていたお米を食べるようにしたんです。すると、つきものが落ちたように不調の症状が改善されました。やはり糖質を抜くことは、体に合っていなかったのだと実感しました」
※女性セブン2018年4月12日号
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