今、最強のエビデンス(科学的根拠)のある食事法について説いた本が大きな注目を浴びている。医師でUCLA助教授の津川友介さんの著書『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)で、確実に健康に良いと裏付けされた「本当に体に良い食べ物」と「体に悪い食べ物」が紹介されている。
「健康的な食事」は「痩せる食事」としても有効だという。そして、ダイエットにはNGとされる食べ物が実は、体にとって良かったり、その逆も。そこで、同書に紹介されている健康食事術の中から、ダイエットに有効な食品について津川さんに聞いた。
まず、現在、数多くの信頼できる研究に裏付けされた食品は以下の通り。
【本当に健康に良い食品5つ】
○魚
○野菜と果物(フルーツジュースとじゃがいもは含まず)
○茶色い炭水化物(玄米、蕎麦粉の含有量が多い蕎麦、全粒粉を使った黒いパンやパスタ)
○オリーブオイル
○ナッツ類
【本当に体に悪い食品3つ】
×赤い肉(牛肉や豚肉など。白い肉の鶏肉は含まない。ハムやソーセージなどの加工肉は特に体に悪い)
×白い炭水化物(白米、うどん、パスタ、小麦粉)
×バターなどの飽和脂肪酸
「糖質は太るが、果物は太らない」は証明
糖質制限ダイエットの中には、果物は果糖を多く含み太るため、避けることを推奨しているケースもあるが、実は、果物そのものは健康に良い食品だというエビデンスがあるという。
「観察研究の結果、果物自体の摂取量が多い人ほど、むしろ体重が減っていたことがわかっています。果物に含まれる『果糖』は血糖値を上げる点では健康に良いとは言えませんが、2013年、大規模な観察研究の論文によって、果物を丸ごと食べている人ほど糖尿病のリスクが低いことがわかりました。それは、血糖値の上昇を抑える食物繊維も同時に摂っているからだろうと考えられています。
ただし、果物の中の果糖を抽出して摂取すると、血糖値はすごく上がってしまうので注意が必要です。実際、1週間あたりコップ3杯のフルーツジュースを摂取している人は、糖尿病のリスクが8%高かったというエビデンスがあります」(津川さん、以下「」内同)
オリーブオイルやナッツと同様、体にメリットがあるという野菜や果物。ただし、ジュースやピューレなどの加工品ではダメ。じゃがいもも、「白い炭水化物」に分類され、糖尿病や肥満のリスクと関連があることが研究で示されているのでNG。
「じゃがいも、加糖飲料、赤い肉、フルーツジュースなどをとっていた人ほど体重が増えていたが、逆に、野菜や果物、ヨーグルトを食べていた人は体重が減っていたとの調査結果があります。野菜は生野菜である必要はなく、ゆで野菜でも蒸し野菜でもOKです」
ナッツは高カロリーでも太らない
ナッツに関する複数のランダム化比較研究試験では、ナッツを食べたグループは食べていないグループに比べ、どちらかというと体重が減る傾向にあったものの、2つの集団の間には大きな差は認められなかった。このことから、高カロリーであるナッツを食べても実はそれほど太らない可能性が示唆されている。ナッツは動脈硬化を防ぐ効果があることが報告されているので、むしろ積極的に摂取することが推奨される食品である。
チョコレートはダイエット中のおやつ向き?
チョコレートに関して、複数の研究結果で認められ、科学的に支持されているのは、高血圧の患者の血圧を下げる作用があるということ。それよりもエビデンスは弱まるが、インスリンが効きにくく、血糖値が上がってしまう病態を改善することも、観察研究によって示されている。
チョコレートには体に良い成分も含まれるが、体に悪い砂糖も多く含まれる。ダークチョコレートとホワイトチョコレートでは、健康への影響が違うという研究結果もある。
「ただし、製造過程でカカオの苦味をとるために加えられる炭酸カリウムが、チョコレートの色をより黒くしていることもあるので注意が必要です。『ダークチョコレート』の判別は、色ではなく、含まれるココアパウダーや砂糖の量で見分けてください。カカオ含有の割合が高く、砂糖の含有量が少ないものを選ぶことをおすすめします」
チョコレートは健康に良い効果が認められている数少ないお菓子。白い炭水化物、砂糖、バターなどの体に悪く太るものが大量に含まれているデザートを食べるなら、砂糖の量が少ないダークチョコレートをデザートに選びたい。
ちなみに、話題のバターコーヒーは「良い」との説もあるが、バターは体に悪い油であることが数多くの研究からわかっている。グラスフェッドバターが通常のバターと違って健康に良いという研究結果はない。
グルテンフリーのダイエット効果は?
アメリカでは、グルテンを摂ると下痢を起こすセリアック病ではないのにグルテンフリーにしている人が、ここ4年で3倍以上に増加しているという。
「セリアック病を持っていない人にとって、グルテンフリーが健康に良いというエビデンスは今のところありません。茶色い炭水化物の多くにグルテンが含まれているので、グルテンを避けるために代わりに米粉などが使われたりします。その結果として、体に良くない『白い炭水化物』(米粉は白い炭水化物であると考えられる)の摂取量が増えてしまう可能性があります。また、グルテンフリーにすることでダイエット効果がうたわれていますが、その根拠は乏しいです」
「ダイエット飲料」の摂取量と体重の関連はナシ
砂糖の代わりにアスパルテームやスクラロースなどのカロリーの少ない人工甘味料を使ったダイエット飲料も続々と登場している。
「2014年に行われた『ランダム化比較試験』をとりまとめた研究手法“メタアナリシス”によると、観察研究では人工甘味料の摂取量と体重やBMIとの間に関連は認められませんでしたが、ランダム化比較試験の結果では、糖分を人工甘味料に置き換えることで減量できるとされました。人工甘味料の健康への害は十分に証明されていませんが、最近の研究結果で、ダイエット飲料の摂取によって、脳卒中や認知症になるリスクがダイエット飲料を飲まない人と比べ、1日1回飲む人で約3倍も高かったという報告もあります。
砂糖の数百倍も甘いのに血糖値が上がらないので、脳が混乱し、その後、血糖値が上がるようなものを食べたくなったり、なかなか満腹感が得られない状態になってしまうという仮説や、腸内細菌が悪く変化してしまうという説も。人工甘味料そのものに害がなくても、それによって引き起こされる脳の混乱と食習慣が、長期的に健康に悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。砂糖入りの炭酸飲料よりはダイエット飲料の方が健康への害は少ないと考えられていますが、たとえダイエット飲料であってもできるだけ控え目にした方が良いと考えられています」
「今日の食事」の積み重ねが、未来の自分の体を作る。それだけに食事は重要だが、痩せるためには食事だけ変えるのでは不十分。食事だけでなく、運動量、睡眠、ストレスのレベルも体重に影響を与えていることが研究でもわかっている。これらを全て最適化するのが、痩せるための第一歩だ。
著者・津川友介さん
つがわ・ゆうすけ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)内科学助教授。東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)および博士号(PhD)を取得。聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。ブログ『医療政策学×医療経済学』で最新の医療情報を発信。著書に、共著『「原因と結果」の経済学:データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)などがある。
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