
「ビタミンCを摂ると風邪の予防になる」という話を聞いたことはありませんか? 実はそれ、“間違い”かもしれません。健康や美肌のためにと、ビタミンを意識的に摂っている人も多いようですが、科学的根拠に乏しく、踊らされていることも少なくないのだとか。そこで、知っているようで知らないビタミンの基礎知識について、改めて紹介します。
ビタミンは全部で13種類ある
ビタミンは、3大栄養素である糖質・脂質・たんぱく質などの代謝や吸収を助けたり、体の機能を維持したりと、健康維持に欠かせない栄養素だ。
「ビタミンは、体内ではほとんど作られず、作れても微量のため、食べ物から摂取しなければなりません」
と話すのは、大妻女子大学家政学部食物学科教授の小林実夏さんだ。ビタミンは13種類あり、水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンに大別される。


「水溶性ビタミンは、ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、B6、ビオチン、葉酸、B12)やビタミンCを指し、水に溶ける性質を持っています。たくさん摂っても不要な分は尿として排出されるため、体内には蓄積されにくい。一方、脂溶性ビタミンは、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKを指し、脂質に溶ける性質を持っています。肝臓や脂肪組織に蓄えられるため、摂りすぎると不調を招く恐れもあります」(小林さん・以下同)
ここからは、各ビタミンの役割について詳述する。
50代以上の女性はビタミンDとKが大切
風邪を予防し、肌を美しくするなど、50代以上の女性が摂るべきなのはビタミンCと思われがちだが…。

「閉経後の女性は骨密度が急激に低下するので、カルシウムの吸収を促したり、骨にカルシウムが沈着するのを助けたりするビタミンDとビタミンKが大切になります」
特にビタミンDは認知症予防においても注目されているという。
「2023年にイギリスで行われた調査によると、ビタミンDのサプリメントを摂取していた高齢者は、摂取していなかった高齢者に比べて認知症発症率が40%低かったとの報告があります」
にもかかわらず、日本人の98%がビタミンD不足だという(※)。
「ビタミンDは食事や紫外線を浴びることで生成されます。日光に当たる時間は、春や夏なら1日15分程度、秋や冬なら1日30分程度で、朝がおすすめです」
ビタミン摂取はバランスが大切。食事からの摂取を心がけよう。
※2023年、東京慈恵会医科大学が発表。
令和の新常識「ビタミン」の上手な摂り方ガイド
ビタミンにまつわる誤解を専門家が一刀両断。ビタミンに関する間違った情報がこれだけ巷に広がっていた。正しく知れば、もっと効率よく摂取できるはず。
【間違い】サラダを1日350g摂れば1日のビタミンが賄える
野菜に含まれないビタミンもあるので肉や魚もバランスよく!
「造血作用のあるビタミンB12は野菜に含まれていません。1日に必要なビタミンを摂るなら、肉や魚などバランスよく食べることが大切」(東京慈恵会医科大学附属病院栄養部・赤石定典さん)
【間違い】ダイエット中は脂質を控えてもサラダなどでビタミンを摂ればいい
脂質が足りないと栄養を摂りこぼす。

「ブロッコリーなどに含まれる脂溶性ビタミンは、油と摂ると効率よく吸収されるので脂質も適度に摂って」(赤石さん)
【間違い】水溶性ビタミンは水に溶けるのでゆでると栄養が失われる
溶け出た栄養素は汁ごと食べれば問題なし。
「確かに、ゆでるとゆで汁に流れ出ます。ただし、栄養素が溶けて消えるわけではないので、スープやみそ汁などにして、汁ごと飲めば無駄なく摂取できます」(赤石さん)
【間違い】レンチン調理は食材のビタミンを壊す
電磁波がビタミンを壊すことはない。ゆでるより栄養を保てる。
「ゆでるよりも電子レンジで加熱したり、蒸したりする方が、水を使わないので水溶性ビタミンの損失を防げます。下ごしらえに利用すれば、時短や省エネにもつながります」(赤石さん)
【間違い】野菜を冷凍すると鮮度が落ちてビタミンも失われる
冷凍することで食材の鮮度&栄養価をWでキープできる。
「野菜は新鮮なうちに冷凍することで鮮度を保て、野菜本来が持つ栄養価も維持できます。そのうえ、冷凍すると細胞が壊れるので火の通りが早くなり、調理も時短に」(赤石さん)
【間違い】ビタミンはサプリメントで積極的に摂る
摂取過多は健康被害を招く恐れあり!
「たとえばビタミンAは脂溶性ビタミンのため、体に蓄積されやすい。サプリメントで長期間摂取したことによる健康被害も報告されています。ビタミンAは通常の食事で充分に賄えます」(小林さん)
【間違い】にんじんは生で食べた方がビタミンAをたくさん摂れる
生で食べるより油で炒めた方が吸収率アップ。
「にんじんに含まれるβ-カロテンはビタミンAに変換されて吸収されます。脂溶性なので油で炒めた方が◎」(赤石さん)
【間違い】がん予防には強い抗酸化力を持つビタミンEを
がん予防の観点でいま最も注目されているのはビタミンD。
「ビタミンEは抗酸化力が高いですが、がん予防効果を裏づける明確な結論は出ていません。一方ビタミンDは、大腸がんの発症リスクを低減する可能性が示唆されています」(小林さん)
【間違い】ビタミンB1が豊富な豚肉と一緒に食べるならトマトがいい
玉ねぎ、にんにく、にらの方がビタミンB1の吸収率は上がる。

「豚肉とトマトは旨み成分の相乗効果でおいしくなるのは間違いありませんが、ビタミンB1は玉ねぎやにんにく、にらなどに含まれる辛み成分・アリシンと摂ると吸収率が高まります」(赤石さん)
【間違い】ガラス越しの日光浴でもビタミンDは作られる
残念ながらガラス越しでは作れません!
「ビタミンDは紫外線B波(UVB)によって生成されますが、ガラス越しでは遮断され、効果はありません」(小林さん)
【間違い】葉酸を必要とするのは妊娠中や授乳中の人だけ
すべての男女に必要な栄養素!
「葉酸は自律神経に作用する大切な栄養素。妊娠を希望する人や妊娠初期の人以外は量を必要としないので、食事からの摂取で充分です」(小林さん)
【間違い】夜に果物を食べた方がビタミン効果が得られやすい
“朝の果物は金”とされ朝が◎!
「紫外線を浴びる前の朝に摂取することで、シミ予防が期待できます」(赤石さん)
【間違い】ビタミンCはたくさん摂ると体内に貯められる
ビタミンCは体内に貯めておけない。
「ビタミンCは1回の摂取量が1000mgを超えると50%まで吸収率が低下して、自然に体外に排出されてしまいます。より効率的に取り込むために複数回に分けて摂取することをおすすめします」(東京医療センター形成外科科長・落合博子さん)
【間違い】ビタミンCをたっぷり含むレモンの輪切りをパックとして使うと美白効果あり
肌にダメージ!シミになる恐れも。
「レモンの酸は刺激が強く、含まれる成分・ソラレンは、紫外線の感受性を高めるため、かえってシミになる恐れがあります」(落合さん)
【間違い】ビタミンC誘導体配合の化粧品はシミに効果的
肌の若返り効果は期待されている。
「ビタミンC誘導体は、肌の中でビタミンCと似た働きをすることは証明されていますが、“シミが消える”というエビデンスはありません」(落合さん)
【間違い】ビタミンCで風邪が予防できる
免疫力は強化できても風邪予防には効果なし
「ビタミンCが風邪の予防や治療に有効という科学的根拠はありません。ただし、免疫力を強化する働きがあるのは事実です」(小林さん)
【間違い】ビタミンC配合の化粧品は朝使うとシミやしわの原因になる
朝に使用してもシミができることはない
「紫外線に反応して肌に影響を与えるのはレモンなどに含まれるソラレンという物質で、ビタミンCとは無関係です」(落合さん)
【間違い】ビタミンKが豊富な納豆や青汁は毎日摂るとよい
抗凝固薬を服用している人はダメ!

「心筋梗塞や脳血栓症の予防や治療用の抗凝固薬をのんでいる人は、ビタミンKが豊富な納豆や青汁は薬効が薄れるので禁止されています」(小林さん)
【間違い】ビタミンCを摂りたいならやっぱりレモン
レモンよりピーマンやパプリカがおすすめ。
「レモンよりブロッコリー、ほうれん草、黄色いキウイフルーツの方が豊富。ビタミンCは毎食摂るのが理想。食べやすい食材で摂って」(赤石さん)
【間違い】加齢とともにビタミンの吸収率は下がる
ビタミンB12だけ注意して摂ろう!
「基本的には変わりませんが、ビタミンB12は吸収率が低下すると指摘されています。欠乏すると認知症の発症リスクを高めるので要注意」(小林さん)
【間違い】花粉症対策といえば“乳酸菌”!ビタミンは関係ない
ビタミンA・C・Eが花粉症に克つ。
「免疫力低下でアレルギーを発症しやすい。ビタミンA・C・Eで予防を」(小林さん)
【間違い】レチノール(ビタミンAの主成分)配合の化粧品でしわが目立たなくなる
トレチノイン(※)ほど効果なし。
(※)レチノールの誘導体で、レチノールの100倍の効果がある。アメリカではしわやニキビの治療薬として認可されており、皮膚の若返り薬として使用されている。
「ただし、手軽にケアするなら副作用が少ないレチノールも◎」(落合さん)
【間違い】美容に最適なビタミンAはサプリメントで毎日摂りたい
適切な食事で充分サプリメントは不要
「ビタミンAの主要成分はレチノール。これは肌のターンオーバーを促すなど美容効果が注目されていますが、脂溶性なので摂りすぎはNG」(落合さん)
この時期おすすめの食べるビタミンサプリメントは“鍋”
「バランスのよい食事というのは、主食・たんぱく質・野菜が揃っているものを指します。鍋は、食材の種類も豊富で、これらの食材が全部入っています。ゆで汁に流れた栄養も、最後におじやでシメれば、無駄なく摂れます。
ただし、鍋だと緑黄色野菜だけ不足しがち。小松菜、ほうれん草、春菊、ブロッコリーなどを意識して入れましょう。また、トマトを入れると栄養バランスが整うだけでなく旨みが増すのでおすすめです」(赤石さん)
◆教えてくれたのは:大妻女子大学家政学部食物学科教授・小林実夏さん
管理栄養士・博士(医学)。専門は栄養疫学。食事評価法に関する研究、食習慣や栄養摂取と慢性疲労、周産期のメンタルヘルス、がん予防との関連に関する疫学研究を行っている。共著に『よくわかる栄養学【マンガと図解で身につく】』(自由国民社)など。
◆教えてくれたのは:東京慈恵会医科大学附属病院栄養部・赤石定典さん
管理栄養士。食生活を通して、生活習慣病予防や栄養の摂り方などの指導を行う。著書・監修本に『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます!』(世界文化社)など多数。
◆教えてくれたのは:東京医療センター形成外科科長・落合博子さん
再生医療研究室室長。日本抗加齢医学会専門医。約30年以上にわたって多くの患者の肌の悩みを解決。著書に『美容常識の9割はウソ』(PHP研究所)。
取材・文/鳥居優美
※女性セブン2025年1月1日号