
現在、65才以上女性の約5人に1人がひとり暮らしで、その数は年々増加中(内閣府調べ。統計は2020年のもの)。2050年には約3人に1人がひとり暮らしになると見込まれている。結婚していても、子供がいても、誰しも「老後ひとり」になる可能性がある。だからこそ知っておくべき“使える”システムを専門家が解説する。
未婚・子供なし・親族と疎遠
交通事故で入院した70代女性。頼れる親族がいない中、要介護になった。

《対策》
事故や病気で救急搬送された場合、医師の判断により誰もが適切な治療を受けられるが、入院・手術には身元保証人が必要になる。
「通常は家族が身元保証人になりますが、頼れる家族や親族がいないこの女性は、幸いサポートしてくれる団体と事前に契約していました。おかげで要介護認定申請等もしてもらえ、退院後の生活もスムーズでした」(司法書士の太田垣章子さん・以下同)
ひとり暮らしで在宅介護、かつ認知症となって財産管理能力が失われた場合は、身元保証人の権限では何もできなくなるため、さらに任意後見人も選んでおく必要がある。
夫と死別・子供あり・孫なし
高齢者施設に暮らす90代女性。面倒を見てくれていた一人息子が急死。

《対策》
90代の母親の介護をしていた70代の一人息子(妻と死別・子供なし)が、がんで急死したこのケースは―
「息子さんががんを発症された時点で、母親と自分のための身元保証人や任意後見人を決め、さらに死後の手続きを取り仕切ってくれる団体と死後事務委任契約を結んでおいたので、お母さまは息子さん亡き後も施設での生活を続けられ、息子さんの葬儀も無事に行われました」
子供がいても安心ではない。親子間の老老介護問題も深刻だ。各種契約は、病気などにより自分で判断ができなくなると締結できない。親子ともに元気なうちに手続きを。
既婚・子供なし
夫(80代)が認知症を発症。その後、介護していた妻(80代)も脳梗塞に。

《対策》
この夫婦の場合、夫が認知症を発症したのをきっかけに自宅を処分し、夫婦で高齢者施設へ入所した。さらに子供がいなかったため、60代で任意後見契約を結んでいたため、事なきを得たという。
「こうしたケースでは、夫婦それぞれの任意後見人が財産管理や介護などの各種手続きを行います。一方が先に亡くなっても、その財産を配偶者に相続させる旨の公正証書遺言を残しておくと、法定相続人となる兄弟姉妹等に遺産を分配せずに済みます。遺言を残すなら、証拠能力が高い公正証書遺言にするのがおすすめです」
夫と死別・子供あり
急病で意識不明になった70代女性。子供は海外におり、手続きができない。

《対策》
「手術を受ける際は患者本人の同意書が必要。病状によってそれができない場合は、家族の同意でも構いませんが、子供が海外にいるなどしてすぐに連絡が取れないときは、身元保証人が代理で同意書に記入することもあります」
この場合、緊急であり子供の帰国が約束されたので、電話での同意を認め、帰国時に正式な手続きをしたという。
「緩和ケア(苦痛を和らげるためのケア)を選びたい、胃ろうをしたくないといった希望は、公益財団法人日本尊厳死協会に登録して治療の範囲を決めておくと、本人に意識がなくても希望を叶えてくれやすくなります」
離婚・子供あり
交際相手と暮らす80代男性が他界。親族全員、遺体の引き取りを拒否。

《対策》
子供がいても、疎遠などで死後の手続きを拒否される可能性がある。なお、交際相手には原則として遺体を引き取る権利や義務がない。この男性の場合、自治体が遺体を引き取り火葬。無縁仏として合同墓に納骨された。
「生前に死後事務委任契約を結んでおくべきでした。この男性は要介護認定を受ける前に他界しましたが、おひとりさまの場合、介護が必要になっても、自分で申請するのが難しいケースがほとんど。元気なうちに地域包括支援センターへ相談に行ったり、地域住民の福祉を支援する民生委員と連絡を取っておいたりするのも大切です」
未婚・子供なし
墓を継いだ60代女性に継承者がおらず、墓の処理に困る。

《対策》
日本は世界有数の少子高齢社会。家ごとに墓を継いでいく古い慣習に無理が出てきている。両親が眠る墓でも、跡継ぎがいない人は基本、墓には入れない。そのため、事前に霊園への手続きが必要だ。
「たとえば、『二十三回忌までの永代供養をしたら、その後は墓じまい(墓を撤去し、管理者へ返還する)をして合同墓に移してください』といった契約をしておきます。この場合、墓石の撤去費、遺骨の整理費なども、契約時に支払う必要があるので、請求額によっては、死後事務委任契約を専門とする会社や司法書士、弁護士などに相談し、交渉してもらうのもおすすめです」
未婚・子供なし
急病で運ばれた70代女性。ペットの世話ができないと入院拒否。

《対策》
短期入院ならペットホテルに預けたり、友人に頼んだりすることもできるが、完治の難しい病気にかかって長期入院となる可能性も考え、おひとりさまに限らず、ペットを飼うすべての人が対策しておく必要がある。
「任意後見契約や死後事務委任契約を結ぶ際に、自分が病気になったり亡くなったりした際のペットの世話の引き継ぎを頼んでおくこと。里親を探す団体に依頼しておくのも手です」
この場合は知人が預かることで事なきを得たが、65才以上の人や、体調不良や軽い認知症状を自覚した人は、早めにペットの引き取り手を決めておこう。
離婚・子供なし
葬儀や納骨について、親友と口約束した70代女性。

《対策》
家族ではなく信頼できる友人にも葬儀や納骨といった死後の手続きを依頼できる。しかし口約束では効力がなく、このケースでは結局、遠縁が各種手続きをすることになった。
「友人に依頼するなら、死後事務委任契約を正式に締結しておくこと。公正証書で締結しておけば安心です。口約束では、友人が手続きする際、依頼証明ができない場合があります」
同じ年代の友人は、自分より早く他界する可能性も。
「できれば、自分より20才以上若い年代の友人にお願いするのがいいでしょう。そして、LINEなどを活用し、朝起きたらスタンプを送るなど、お互いに生存確認するのも手」
◆教えてくれたのはこの人:司法書士・太田垣章子さん
「合同会社あなたの隣り」代表。人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活を支援。頼るべき親族がいない、頼りたくない高齢者のサポートにも注力。講演会も積極的に行う。著書に『あなたが独りで倒れて困ること30』(ポプラ社)など。
取材・文/上村久留美
※女性セブン2025年12月4日号