「薄毛は遺伝だから仕方ない」──その考えは大きな間違いだ。特に女性の薄毛は“自己責任”によるものが多いという。食事や睡眠、洗髪などの生活習慣が、毛髪の寿命を奪っているのだ。危険な生活習慣を専門家が警告する。
コロナ禍で髪に悩む女性が増加
大手製薬会社の小林製薬が、50~60代の女性に〈女友達への外見チェックに関する意識調査〉をしたところ、普段から同年代の女友達の見た目をチェックしている女性は、8割以上。なかでも7割近い女性が、髪の毛を気にしているという。
実際に、髪の悩みを抱える女性は増えている。女性向けの薄毛治療を行うDクリニック東京の医師・浜中聡子さんはこう語る。
「例年の同じ時期と比べて、薄毛に悩んで来院する女性が増えています。おそらく、新型コロナウイルスの不安によるストレスも関係しているのでしょう」
女性の薄毛は、一般的な男性の薄毛とは異なり、「びまん性脱毛症」が多いという。
「男性の場合、つむじや生え際など特定の部分が集中して薄くなります。女性に多い『びまん性脱毛症』の場合は、はじめに髪が細くなったり、ハリやコシがなくなったりして、次第に頭皮が透けて見えるようになる。その後、薄毛が頭頂部全体に広がっていくのが特徴です」(AGAスキンクリニック新宿駅前院院長の西垣匠さん)
◆女性の薄毛の原因は?
女性の薄毛の原因はさまざまだが、年齢とともに女性ホルモンが減るのが一因とされている。髪の太さは35才をピークに衰えていき、40代に突入するあたりから急に薄毛に悩む人が増え始めるという。
「女性の毛髪は、4~6年サイクルで生え変わるといわれています。しかし、ホルモンバランスの乱れによってサイクルが狂うと、充分に毛髪が成長していないうちに抜けてしまい、まだ細くて短い毛ばかりに。次第に薄毛が進行してしまうのです」(毛髪診断士で国際毛髪皮膚科学研究所代表理事の本山典子さん)
◆「薄毛は遺伝」というのは誤解
薄毛に関する話題でありがちなのが「薄毛は遺伝だから仕方ない」という認識。これは大きな誤解だという。
「たしかに遺伝の影響も多少はありますが、薄毛の7~8割は生活習慣が原因なんです。つまり、自己責任の要素の方が圧倒的に大きいということ。『お母さんも薄かったから、私が薄毛なのは仕方ない』などと、あきらめる必要はないのです」(前出・浜中さん)
浜中さんによれば、薄毛の症状が出やすいのは、一般的に秋口なのだそうだ。
「秋は夏に受けたダメージの影響が出ます。そのため、夏にこれまでの生活習慣を見直し、しっかりと薄毛対策を行うことが重要なんです」(前出・浜中さん)
では、薄毛を招く生活習慣を具体的に見ていこう。
【食事】過度なダイエットで体より髪がやせる
まずは、食事に関する注意点だ。夏の到来を前に、ダイエットに励んでいる人も多いだろう。しかし、カロリーやコレステロール値を気にして肉や卵を極端に避け、野菜中心の生活を送っているのだとしたら、体がやせる前に髪がやせ細ってしまう。
「良質なたんぱく質は毛髪の栄養源。肉や魚、卵をしっかり食べるべきです。亜鉛やビタミンBなどのほか、レバーやピーナッツに含まれるビオチンも毛髪の生成に欠かせません」(前出・浜中さん)
◆ラーメンの糖質、脂質、塩分は危険
反対に、髪に悪い食べ物もある。それが、パン、ご飯、麺類など高糖質の食べ物だ。糖質を摂りすぎると、余った糖が体内のたんぱく質と結合し「糖化」が起き、これにより細胞の働きが鈍るのだという。なかでも特に危険なのが、ラーメンだ。
「麺は糖質で、スープには脂質と塩分がたっぷりと含まれています。髪の栄養源は具以外にはほぼなく、リスクばかり。間違いなく髪に悪影響なので、できるだけ食べる頻度を減らしてほしいです」(松倉クリニックの医師・田路めぐみさん)
◆早食いは髪にとってNG
食事にかける時間も重要だ。家事や仕事に追われて、15分足らずで食事を終えていないだろうか。早食いも髪にとってはNGだ。
「ゆっくりと、よくかんで食べることで消化がよくなり、胃腸で栄養素が吸収されやすくなります。全身の細胞はもちろん、髪にも栄養がいきわたりやすくなるのです。せっかく栄養のある食事を摂っていても、早食いをしていて消化吸収が悪ければ、意味がありません」(前出・浜中さん)
自粛生活下で、ついお酒を飲みすぎてしまうという人も要注意だ。
「アルコールを分解するため、ビタミンBの1つであるナイアシンという物質が使われます。ナイアシンは髪の主成分であるケラチンを生成するために重要な物質。過剰なアルコール摂取によりナイアシンが不足すると、髪質の悪化を引き起こしてしまうのです」(前出・浜中さん)
【睡眠】深夜12時までには布団に入るべし
食事と並んで、睡眠も髪に大きな影響を与える要素だ。睡眠の質が悪いと、髪の発育を促す成長ホルモンの分泌が不安定になるからだ。
成長ホルモンの分泌には、3時間以上の良質な深い睡眠が必要とされ、睡眠の質を高めることが必須。そのためには、体内時計を調整し、眠りに導くメラトニンというホルモンを分泌させることが大切だという。そのため、部屋の電気を消した後にスマホ画面を見るのはご法度だ。スマホ画面が発するブルーライトの強い光を浴びることで、脳が朝だと勘違いしてしまう。
「眠りに導くメラトニンが分泌されなくなり、不眠や寝つきの悪さに直結します。また、寝る前にお酒を飲むのも、寝つきがよくなっていいかと思いきや、実は眠りが浅くなっています」(前出・浜中さん)
◆枕カバーを週1回しか交換しない人は注意
同様の理由で、枕の高さが合っていなかったり、日常的にいびきをかく、呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群も、睡眠の質を下げるため薄毛の原因になる。しっかり眠っているのに、日中に眠気を覚える人は薄毛のリスクを孕んでいるといえる。
忙しいとどうしても寝る時間が遅くなりがちだ。布団に入るのが深夜12時以降になっている人は、それだけで髪が成長するチャンスが減っているのだという。
「夜10時からは、“毛髪のゴールデンタイム”といって、細胞分裂がスタートし、髪の成長が促される時間なので、可能なら10時までに寝ることをおすすめします。難しい場合でも入眠しやすいように、照明を暗くするなど工夫をし、12時までには布団に入りましょう」(前出・本山さん)
盲点なのが、枕カバーだ。梅雨時で洗濯が大変なこともあり、週1回しか交換しない人も多いだろう。
「頭皮は体の中でいちばん新陳代謝が激しい場所。汗や皮脂が枕カバーに付着することで菌が繁殖し、頭皮環境が悪化すると、毛髪が充分に育たなくなり薄毛が進行します。特にこの季節は週2回以上のペースで交換するのが理想的です」(前出・本山さん)
【洗髪】“朝シャン”はNG!必ず夜に洗うべし
シャンプーの際は、頭皮や髪の汚れを落とすことが重要だ。しかし、しっかり落としたい一心で頭皮ブラシを使ってゴシゴシとこすると逆効果になってしまう。
「頭皮を傷つけてしまい抜け毛の原因になるので、あまり神経質にならず、指の腹でやさしく洗いましょう」(前出・浜中さん)
また、シャンプーをする時間帯も髪に影響を与える。「夜は忙しいから“朝シャン派”」という人がショックを受ける情報がある。
「髪は、寝ている間に細胞分裂を行い、午前3時から朝方にかけて伸びます。つまり、夜中に頑張って動いているので、朝は毛穴が緩んでおり、朝シャンによって毛が抜けやすくなってしまいます。朝シャン派の男性は脱毛率が高いというデータもあるほどです」(前出・本山さん)
◆自然乾燥で髪が痛む理由
「ドライヤーの熱で髪が傷むのがイヤで、自然乾燥させている」という“ナチュラル派”もいるかもしれない。ただ、毛先は乾いていても頭皮は湿ったままの可能性がある上、乾くまでずっと頭皮が蒸れていることになる。
「濡れたままだと、頭皮に細菌が繁殖し、抜け毛はもちろん、においやかゆみの原因になります」(前出・浜中さん)
◆ドライヤーの当て方に注意
洗髪後は必ずドライヤーで乾かすべきだが、ドライヤーの当て方にもポイントがある。温風のみを当てている人が大半ではないだろうか。実は、これも髪にダメージを与える原因になるという。
「ドライヤーの温度は15~80℃が理想的です。なぜ、こんなに範囲が広いかというと、濡れているときと乾いているときでは、同じようにドライヤーを当てても髪の温度が異なるからです。毛髪は100℃以上の加熱の繰り返しで、毛髪内部のたんぱく質が部分的に変性し、空洞ができてしまいます。これが『空洞化』という現象。
この空洞化が進むと、髪のハリやコシがなくなってきます。濡れているときに1200ワットのドライヤーで10cmほど離して温風を当てても、髪の温度は60~70℃程度までしか上がりません。一方、乾いているときは、90℃以上になることも。つまり、同じ温度の温風で乾かし続けていると、乾くにつれて髪が熱のダメージを受けるのです。髪の短い人は2~3分、長い人は3~5分ほど温風を当て、その後、冷風と温風を30秒ごとに切り替えながら乾かしましょう。髪から熱を逃がすことが重要です」(前出・本山さん)
【健康】パサパサの原因は4か月前のストレス
体の不調が髪の状態につながっていることもある。たとえば、貧血気味だったり、冷え症を放置している人は、すでに髪に影響が表れているかもしれない。
「頭頂部の血流をエコーで測定したところ、加齢に伴って血流量が低下していることがわかりました。髪の毛は血液と同じ成分でできているので、貧血気味や血行が悪いと、毛髪の生成に必要な栄養素がいきわたらないのです」(前出・浜中さん)
◆運動することで成長ホルモンが分泌
運動不足も薄毛の原因に。歩くのが面倒で、少しの距離でも車に乗ったりしていないだろうか。しかし、運動をすると成長ホルモンが分泌されるため、大きな育毛効果が期待できるという。新陳代謝が活発になることで、頭皮の健康も保てるそうだ。
体だけでなく精神面も毛髪に多大な影響を及ぼす。言いたいことをがまんしてしまうなど、ストレスをため込みやすい性格の人は要注意だ。毛髪を作る場所である毛母細胞は、自律神経と密接に結びついている。そのため、ストレスの影響で自律神経が乱れると、毛髪に影響してしまうのだ。
「ストレスの影響は、だいたい4か月後に髪に表れます。普段より髪がパサパサしていると感じたら、4か月前の生活を思い出してみてください。いまだと、ちょうど新型コロナへの不安や自粛でのストレスが髪に表れ始めている時期だと思います」(前出・本山さん)
【ファッション】サイズの合わない帽子はキケン
ヘアスタイルやファッションも薄毛対策には重要だ。若い頃からずっと同じ髪形の人は、それだけで薄毛を促進させてしまっているという。
「ポニーテールのように髪を引っ張って結ぶと髪には負荷がかかります。長い間、同じ方向に負荷がかかり続けていると、『牽引型脱毛症』という女性特有の薄毛の原因になることもあります。また前髪の分け目が長年変わっていない人も、分け目の部分から、薄毛になるリスクが高い。意識して、定期的に分け目の位置を変えてください」(前出・西垣さん)
◆帽子はUV効果あるものを、白髪染めは回数減らす
気温が上がるにつれ、頭が蒸れるのを嫌がり、あえて帽子をかぶらないという人もいるだろう。だが、肌と同様、頭皮も紫外線によって日焼けをする。
「日焼けをすると、頭皮の老化を早めてしまいます。窮屈な帽子をかぶっていると蒸れやすくなるので、大きめのサイズで、風通しがよく、UV効果があるものを選びましょう。帽子を脱いだ後、ブラッシングをして、髪に風を通すようにしてください」(前出・本山さん)
見た目を気にして、頻繁に白髪染めをしている場合も、本末転倒になりかねない。
「薬剤が髪の毛にダメージを与えるため、薄毛の原因になります。10日に1回染めている人は、2週間に1回にするなど、少しずつ頻度を減らしていきましょう。それでも白髪を染めたい場合は、毛根にダメージのない白髪染め用のヘアマニキュアやスプレーと併用するのもよいでしょう」(前出・本山さん)
よかれと思ってやっていたことや、何気なく習慣になっていたことが薄毛を助長する可能性がある。若々しい印象をキープするために、今日からさっそく対策してみよう。
※女性セブン2020年7月23日号
●正しいヘアケア術|シャンプーとトリートメントの順番、自宅でできる薄毛対策を伝授!
●薄毛に悩む人が食べるべきは小松菜&ほたて!おすすめ”最強レシピ”も紹介
●老化防止に役立つ”若返り食材”|白髪、薄毛、老眼などお悩み別に紹介!おすすめレシピも
●髪の毛がペタンコになるのを直すには?など「ペタ&パサ老け髪」8つの悩みを解決!
●髪&肌の紫外線対策(アフターケア)|頭皮マッサージやビタミンC等の摂取を