マスク生活が定着しつつあるが、鼻と口を覆うマスクは私たちをウイルスから守ってくれる心強い存在である一方、新たな悩みも生んでいる。
なぜ口が臭くなるのか?
第一三共ヘルスケアが今年6月に行った調査によると、マスク着用時に「口臭が気になる」と答えた人が6割近くにのぼっているのだ。歯学博士の照山裕子さんが言う。
「マスクを着用することによって口呼吸が習慣になると、口の中が乾燥し、唾液によって汚れが流れなくなるので、たしかに口臭は強くなりやすい。虫歯や歯周病のリスクも上がるので、それらが原因で口臭がさらに悪化してしまう可能性もあります」
◆リモートワークや外出自粛も原因に
リモートワークや外出自粛で人と会う機会が減り、エチケットとしてのケアを怠りがちになってしまうなども、口臭の悩みの一因になっているようだ。
口臭対策に!「あいうべ体操」
唾液の量が減り、口の中が乾くと口臭が強くなりやすい。そこで銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック81院長の坂本紗有見さんが推奨するのが「あいうべ体操」だ。口臭が強くなりやすい“口呼吸”を改善するために有効だという。
まず最初に口を大きく開いて「あー」、次にしっかりと唇を横に引いて「いー」、唇を突き出して「うー」、最後に舌を前方に力いっぱい突き出して「べー」。
「ゆっくりと、声を出しながら行うことで、唇を閉じる筋肉がつき、鼻呼吸がしやすくなります。鼻呼吸に移行できれば、口の中が乾燥しにくくなり、口臭の予防につながります」(坂本さん)
《「あいうべ体操」のやり方》
【1】「あー」と声を出し、口を大きく開く。
【2】「いー」と声を出しながら、口を大きく横に開く。
【3】「うー」と声を出しながら、口を大きく縦に開く。
【4】「べー」と声を出しながら、舌を前に思いっきり突き出す。【1】〜【4】のセットを1日トータル30回行うことが理想。
舌を鍛える「舌回し体操」もおすすめ
もう1つ、坂本さんがすすめるのが、「舌回し体操」だ。
「舌の筋肉が衰えて充分に動かせなくなると、唾液の分泌量が減ってしまう。唾液には殺菌作用や自浄作用があるため、いわば天然の消毒液のようなものなのです。舌回し体操で舌の筋肉を鍛えれば、唾液の分泌量が増えて虫歯や歯周病を防ぎ、口臭を減らすことにもつながります」(坂本さん)
やり方は簡単。口を閉じた状態で、舌をよく伸ばして歯茎をゆっくり、しっかりなぞっていく。
《「舌回し体操」のやり方》
【1】舌を伸ばして歯茎の表面を、右上奥からぐるりと右下奥へ、ゆっくり円を描くように6秒ずつかけて回す。
【2】そのまま折り返し、右下奥からぐるりと右上奥まで6秒ずつかけて戻る。
【3】歯茎の裏側を、右上奥からぐるりと右下奥へ6秒ずつかけてなぞる。
【4】折り返して裏側の右下奥からぐるりと右上奥へ6秒ずつかけてなぞる。
【5】上あごのいちばん奥の、右と左の歯にそれぞれ3秒ずつかけてさわる。
【6】下あごのいちばん奥の、右と左の歯にそれぞれ3秒ずつかけてさわる。
「表側を右上のいちばん奥から左上のいちばん奥まで横になぞり、そのまま左下のいちばん奥から右下の奥へ円を描くようにゆっくり一周する。同じように逆回りも行ってみて、舌が回しやすい方向と回しにくい方向があるかを確認してください。例えば、右は回しやすいけど左は回しにくいという人は、普段から右ばかりで噛んで食べる癖があるなど、均等に噛めていない可能性があります」(坂本さん)
右回しと左回しを裏面、噛む面を合わせて「1セット」。慣れてきたら、どの位置から始めてもよい。これを毎日3回、食事の後に行う。
「朝食抜き」はなぜ口臭のもとに?
東陽町歯科医院院長の大谷直さんが語る。
「寝ている間は唾液の分泌が減るため、朝起きたときは1日のうち最も口臭が強い状態にあります。食べ物を咀嚼することで唾液が分泌され、口臭が減るのですが、朝食を抜いてしまうと、“口が臭い”状態が昼まで続くことになる。口臭を気にするなら、少しでも朝食を食べる習慣をつけた方がいい」(大谷さん・以下同)
◆緑茶のカテキンによって消臭
そのときに緑茶を一緒にとるとさらに効果的だ。
「緑茶に含まれるカテキンが、口臭の原因になる硫黄化合物と結合し、消臭してくれる。ペットボトルよりも急須で入れる方がカテキンが多いので、より効果的です。ただし、緑茶には利尿作用のあるカフェインが入っているので、飲みすぎると体内の水分が尿として排出され、唾液の量が抑制されてしまうので注意してください」
口臭に潜む胃がん、食道がんのリスク
これまで紹介してきた「口臭解消マニュアル」を実践してもなお強い口臭が続くようなら、「口腔内以外」の原因を疑ってみることも必要だ。
きくち総合診療クリニック理事長の菊池大和さんが説明する。
「よく“肉が腐ったようなにおい”といわれますが、酸っぱいような腐敗臭がする場合は、胃がんや食道がんなど上部消化管に病気がある可能性があります。糖尿病の人の息も、アセトンと呼ばれる物質特有の甘いにおいがします」(菊池さん・以下同)
アセトンとは体内で脂肪がエネルギー源として使われたときに出る物質。糖尿病でインスリンの分泌が低下し、血糖コントロールがうまくいかないと発生しやすくなり、それが呼気に混ざって甘いにおいがするのだという。疑わしい病気はほかにもある。
◆肝硬変や肝臓がんの可能性も
「口臭におしっこのようなアンモニア臭が混じっている場合は、肝硬変や肝臓がんの可能性があります。かなり進行している場合が多いので、こちらも注意が必要です」
もし、こうした症状に心当たりがあるのなら、どこで診療を受けるべきか。
「歯科医は口腔の専門家なので、まず歯周病などを疑います。多くの人は大なり小なり口腔に問題を持っているので、そこで何かしらの“原因”が見つかります。しかし、ほかの病気が理由の場合、歯周病などを治療しても口臭は改善しません。その際はなるべく早くかかりつけ医に相談してください。かかりつけ医が歯科医をすすめるようなら、総合診療医に相談してみることをおすすめします」
いつマスクを外しても大丈夫な、“息さわやか”を目指そう──。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2020年9月17日号
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