仕事で多忙だった夫も、コロナで帰宅が早くなり、在宅勤務も週に何度か。夫婦で過ごす時間ができたのはいいけれど、家事の負担は増え、本音をいえばストレスもたまります。たまには家事から解放されて、のんびりしようと「ブックホテル 箱根本箱」へ。

今回は、首都圏から近場の温泉でのおこもり滞在を、旅行ジャーナリスト村田和子がご紹介。「本に囲まれ、暮らすように滞在する」がコンセプトとあって、夫婦、母娘、友人など、親しいかたとのおこもり滞在にぴったり! もちろん自由気ままな一人旅にもおすすめです。
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本に囲まれる憧れの空間
文豪が訪れ別荘も多い箱根・強羅。そんな強羅の緑の中に佇む「ブックホテル 箱根本箱」は、小さな宿ながらインパクトは大きく、ユニークな存在。

まずは、玄関の扉が開くと目に入る、本に囲まれた吹き抜けのロビーラウンジに圧倒されます。

館内には、洋書、古書、新刊などあわせて約1万2000冊の本があるのですが、それというのも、出版の取次「日販」が社員向けの保養所をリノベーション、自然と調和するライフスタイルを提案する「自遊人」を企画・運営に迎え、2018年にオープンした宿なのです。
ロビーラウンジの書棚には「衣・食・住・遊・休・知」をテーマに選ばれた本が、緩く分野ごとにディスプレイされ、閲覧はもちろん、すべて購入もできるといいます。

棚を順に眺めているだけでも「こんな本があるんだ」「美しい表紙だなぁ」など、さまざまな発見をし、思いが巡ります。そして、お目当ての建築・アート関係の本が集まるエリアには、個人ではなかなか所有が難しい大型本もあり、滞在中に読むのが楽しみに。

◆客室には温泉露天⾵呂と著名人がセレクトした書籍も
客室はインテリアや広さが異なる7タイプ全18室。全室に、温泉露天⾵呂と、著名人がセレクトした書籍をまとめた「あの⼈の本箱」があります。

人気の施設だけに客室は早めに埋まり、我が家はたまたま空いていた1階の客室へ。元保養所ということで、価格から考えると、お部屋はややコンパクトな印象ですし、機能面でも、少し不便に感じることもあります。でも、それを上回るデザイン性や心地よさがあるので、問題には感じませんでした。

私の部屋の「あの人の本箱」は、ヘアスタイリストの松浦美穂さんの選書。大好きな画家マグリッドの画集を見つけ、「好みが合うかも!」と他のセレクトにも興味津々。

原稿用紙風のレターセットもセンスがいいんです。

コロナ禍とあって、ラウンジでは飲み物のみの提供。「こだわりのおやつ」は客室で楽しめます。冷蔵庫のソフトドリンクもフリーです。

客室に籠りたいというかたは、2階マウンテンビュー・コーナースイートを選ぶのもよさそう。

1室のみなので、早めの予約がおすすめです。
2つの源泉が楽しめる大浴場は密にならずゆっくりと
チェックインすると、夫はすでに温泉モード。

客室の露天風呂も温泉ですが、「まずは大浴場!」という夫の言葉に促され、地下一階の大浴場へ。

廊下にも「あの人の本箱」や、特定のジャンルを集めた本箱が並び、「あ、これ読んだことある」「みて、これ面白そう」と時折立ち止まっては話していると、あっという間に時間が経ちます。

◆露天風呂は鳥のさえずりなど自然を満喫
男女別の大浴場では、無色透明の強羅温泉の湯、そして白濁した硫黄のにおいがする、大涌谷温泉の湯と2種類が楽しめます。2つの効能が得られるとあって温泉好きならずともうれしい!

風に揺れる木々、朝には鳥のさえずりなど、自然を満喫できる露天風呂でゆったりすれば、コロナのストレスもどこかへ飛んでいってしまうようです。

食を楽しみに滞在したい。ローカルガストロノミー@箱根
滞在で、もっとも印象的だったのが食事。「本箱」というコンセプトに注目が集まりがちですが、食事を目的に訪れる価値も十分にあります。


カウンターで料理が出来上がる様子をライブで眺めながら、また、館内着で肩ひじ張らずにリラックスしてコース料理をいただけるのも、本格的なレストランでは珍しく、他にない魅力です。

イタリアの名店で経験を積んだシェフ・佐々木祐治氏が提供するのは、自然派イタリアン。ローカルガストロノミーという通り、近郊で収穫された農作物や駿河湾・相模湾で揚がった海の幸を生かした料理は、食することで土地への理解も深まります。
◆黒たまご?インパクトのある料理が登場
メニューを見ると、スターターは「強羅の黒たまご」。宿に入る前に大涌谷に立ち寄り、名物の黒たまごは頂いたけれど……また黒たまご?と思ったら、うれしい誤算でした。

タラ、じゃがいも、白子のコロッケ生地に、イカスミのパン粉を塗したインパクトのある料理が登場。確かに見た目は黒たまごですが、中はクリーミーな食感で白子のコクが効き、美味。
こちらは、ひらめと空心菜を、空心菜を練り込んだ深い緑色のクレープで包んだもの。ソースはにんにくベースで、オレンジに見えるのはカラスミ。食材が口の中で絶妙にコラボして、思わず笑みがこぼれます。

メニューには「白金豚、カボチャ、おかひじき、コーヒー、オールスパイス」と素材名だけがかかれているメイン料理。いったいどんなものかと想像が膨らみます。

白金豚に、コーヒーとオールスパイスのソース、仕上げにカカオを添えた逸品でした(カボチャ・おかひじきは、つけあわせ)。デザートまで頂くと、お腹も心も満たされ幸せ気分に。食後のお茶を頂きながら「また季節を変えて来たい」と再訪を決意するほど。ワイン好きなかたには、自然派ワインも各種あるとのことで、楽しみが増えそうです。

朝食も野菜が多く体に優しい料理が並びます。パンは夕朝食ともに、ブーランジェリーヤマシタの天然酵母パン。箱根本箱で食べて、お土産として店に買いに行く人も多いとか。
ショップにはこだわりの「食」も。絵本コーナーは大人が夢中に
ショップも、自遊人が運営をしているとあって、書籍や工芸品のほか、体によい厳選された「食」のラインナップが目をひきます。

一角には、絵本のコーナーもあり、子どもの頃に夢中になった絵本をみつけては、懐かしさから長居をするかたも多いとか。

日頃は、アクティブに五感で味わう旅が好きな私ですが、コロナ禍ではそうはいかないことも多いもの。箱根本箱での滞在は、籠りながらも本を通じてたくさんの世界を発見・想像し、つながる楽しさがあります。

お洒落な空間で、自由気ままに、本と温泉、そして食を楽しむことは、コロナで疲れた心身のリフレッシュにもなります。親しいかたとぜひ、出かけてみてはいかが?

なお、箱根本箱への宿泊は、施設の造りや過ごしかたの理由から、お子さんは小学校高学年以上が目安です。小さなお子様連れは、年に2回ほど開催される「お子様歓迎デー」をねらうか、系列の長野県「松本十帖」には、お子様ウェルカムのお部屋もあります。
【DATA】
「ブックホテル箱根本箱」
〒250-0408 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
アクセス: 箱根登山鉄道 ケーブルカー「中強羅駅」徒歩5分
料金:「レストランディナー満喫! 季節のスペシャリテ・自然派イタリアンをコースで楽しむプラン」(1泊2食)2名1室ひとり:2万1688円(サ込・税別)~
http://hakonehonbako.com
教えてくれたのは:旅行ジャーナリスト・村田和子さん

旅行ジャーナリスト。「旅を通じて人・地域・社会が元気になる」をモットーに、旅の魅力を媒体で発信。宿のアドバイザー・講演なども行う。子どもと47都道府県を踏破した経験から「旅育メソッド(R)」を提唱、著書に「旅育BOOK~家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ(日本実業出版社・2018)」。現在は50歳を迎え、子どもも大学生となり、人生100年時代を楽しむ旅を研究中。資格に総合旅行業務取扱管理者、1級販売士、クルーズアドバイザーなど。2016年よりNHKラジオ『Nらじ』月一レギュラー。トラベルナレッジ代表。(https://www.travel-k.com/)旅ブログも行っている。(http://www.murata-kazuko.com/)
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