9月17日より公開中の木村拓哉(48歳)主演の映画『マスカレード・ナイト』。2019年に公開された『マスカレード・ホテル』の続編である本作は、前作からさらにパワーアップした印象です。
高級ホテルで巻き起こるコミカルかつスリリングな物語の展開だけでなく、共演の長澤まさみ(34歳)らをはじめとする俳優同士の掛け合いも必見の作品となっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
木村拓哉×長澤まさみ 2年半ぶりの“水と油”コンビが導くミステリー
本作は、作家・東野圭吾(63歳)による同名小説を原作とし、木村拓哉を主演に迎え映画化したもの。公開初日から9月20日までの4日間で、累計67万8000人の観客を動員し、興行収入は9億4000万円を突破、映画ランキングでは初登場1位の好スタートを切りました。
2週目にはこの倍近い数字に達しており、前作の最終興行収入46億円を超える売り上げを記録するかもしれません。前作に続いて鈴木雅之監督(63歳)がメガホンを取り、今回もとある高級ホテルを舞台に、笑いあり涙ありの“ドタバタ劇”が繰り広げられています。
一癖も二癖もある怪しい客たちが登場
物語のあらすじはこうです。ある日、警察に匿名の密告状が届きます。そこに記されていたのは、数日前に都内のマンションの一室で起きた不可解な殺人事件の犯人が、大晦日の晩に「ホテル・コルテシア東京」で開催されるカウントダウン・パーティー、通称「マスカレード・ナイト」に現れる、というもの。
次なる凶悪な犯罪を防ぐため、“疑うことが仕事”の新田(木村)たち刑事はホテルで潜入捜査を展開します。しかし、彼らと行動を共にするのは、“信じることが仕事”のホテルコンシェルジュ・山岸(長澤)をはじめとする、ホテルのスタッフたち。ホテルの客としてやって来るのは、一癖も二癖もある怪しい者たちばかり。
新田と山岸は、時に自分の主張を頑として譲らず、また時には相手の主張を聞き入れながら、“バディ関係”を築き、犯人に迫っていきます。
多くの登場人物が入り乱れ、さまざまなエピソードが複雑に絡み合い、一つの大きな物語として着地する本作。これをゴールへと導いていくのが、木村演じる新田と、長澤演じる山岸による、“水と油”な関係のコンビです。前作から2年半以上の時が経ったため、観客としても「久しぶり!」という気分。
彼らは過去に一度手を組んで、事件解決のため奔走した仲です。とはいえ、職業柄どうにも相容れない。“お久しぶり”な2人が過去の経験を活かしつつ、どのようなバディ関係を築くのか、注目したいところです。
視覚に訴える緻密な人物配置と空間設計
前作を含めた『マスカレード』シリーズの特徴に、“物語は主にホテル内でのみ展開していく”ということが挙げられます。つまり登場人物たちは、基本的に常にホテルの中にいる。いくら舞台が高級ホテルとはいえ、私たち観客はずっとホテル内の人々の行動を観察するというわけで、場合によっては飽きてしまう人も出てくるのではないかと思います。
ところがそうならないのが本作の魅力の一つ。観客を飽きさせない工夫が施されているのです。
まず、なんといっても本作の醍醐味が、錚々たる俳優陣の豪華共演です。主演の木村、長澤を筆頭に、小日向文世(67歳)、梶原善(55歳)、泉澤祐希(28歳)、鶴見辰吾(56歳)、篠井英介(62歳)、石橋凌(65歳)、渡部篤郎(53歳)らが続投。
そして、今作では新たに石黒賢(55歳)、沢村一樹(54歳)、木村佳乃(45歳)、麻生久美子(43歳)、高岡早紀(48歳)らが加わっています。これだけ多くの俳優が入り乱れるとなれば、とっ散らかった印象になってしまいそうな気もするでしょう。
多彩な音声がホテルの中を飛び交う
しかし、そんな心配は無用です。ホテルという限られた空間を利用して、逆に非常に洗練された画が作り上げられ、それが連続してスクリーンに映し出されます。例えば、新田と山岸が会話をしているシーンでは、2人の会話とはあまり関係のない他の人物が奥に映り込み、その別の人物へとフォーカスが移ることで、異なるエピソードがシームレスに展開していきます。
緻密に計算された人物配置や空間設計、それらを滑らかに捉えるカメラワークなど、観客を飽きさせない丁寧な作りであることが感じられます。
また、先に記したような視覚的な面だけでなく、聴覚を刺激する要素も加わります。そう、俳優たちの声です。登場人物の誰も彼もが、その見た目や挙動からして一癖も二癖もあるのですが、彼らの発する声も同様です。笑い声や怒鳴り声まで、実に多彩な音声がホテルの空間では飛び交います。
誰かの声に気を取られていると、どこかで発生している新たなエピソードを見逃して(聞き逃して)しまうかもしれません。観客にとって、目にも耳にも贅沢な作品なのです。