
老後に必要な資金は、何千万円にもおよぶと聞いて、頭を抱える人もいるでしょう。そこで焦って、お金を増やそうと投資に踏み切るのはちょっと危険。では、どのように対策をするべきでしょうか?
そんな誰もが抱える疑問を、10月30日公開の映画『老後の資金がありません!』に本人役で出演する経済ジャーナリスト・荻原博子さんに聞きました。焦ってやってしまいがちなNG行動や、今からできる貯蓄を増やすためのお得ワザを紹介します。
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老後資金、今やってはいけないこととは?
テレビや雑誌で「60歳までに2000万円必要」などの企画があると、不安な気持ちになりますよね。映画『老後の資金がありません!』の、天海祐希さん演じる主人公・後藤篤子も同様でした。ただ、そこで焦りは禁物です。お金について心配になったときに、つい手を出しがちなのが投資。けれど投資には、リスクがあることをまず知っておきましょう。

投資には向き不向きがある
投資というのは儲かるだけではなく、損するときもあります。冷静に投資ができる人はいいのですが、大部分の人は儲かった味が忘れられずにのめり込んでしまい、大損をしてしまう恐れがあるので、万人にはおすすめできないんです。
もし自分が投資に向いているかどうか知りたいならば、株を一つ買ってみるといいですよ。ポイントは株価が下がってしまったときです。
100万円で買った株が50万円になったときにショックを受ける人は、投資に向いていません。けれど、値下がったときがチャンスだと思える人が、投資に向いているんです。50万円になってしまったときに株を買い増して、その株がまた100万円まで値上がれば、元が取れるどころか儲けが出る、という考え方ができる人の方が、精神的に投資に向いています。
リスクについての見通しを立てられるかだけでなく、精神的にも向き不向きがあるんですよ。
ギャンブル的に投資をするのはNG
また、しっかりとお金を持っていて、余裕のあるなかで投資をする分にはいいと思います。けれど、使ってはいけないお金に手をつけてまで、ギャンブル的に投資をするのはよくありません。
「iDeCo」はデメリットも多い
最近、金融庁が宣伝している「iDeCo」(個人型確定拠出年金)。毎月一定額の投資信託などを買って、老後に向けて運用していくというものです。国がすすめるから安心と思われがちですが、メリットばかりでなくデメリットもあります。

60歳まで引き出せないのが最大のデメリット
最大のデメリットは、原則として60歳まで預けたお金を引き出せないこと。定期預金だったら、家計が苦しくなれば解約して現金を引き出して使うことができますが、不況になったときに使える手元の資金がないのはかなりのリスクです。
意外と費用がかかる
さらに、iDeCoは手数料や維持費も意外に高く、少なくとも初期に2829円(1社のみ3929円)、運用中に年間2000~8000円弱の費用がかかるのです。これらの手数料を補えるほど儲かる商品を選んで買うのは、初心者には難しいこと。気軽に手を出すのはおすすめできません。
減税効果が期待できないことも
所得税や住民税の減税ができるというメリットも謳われていますが、ふるさと納税などで控除を受けている場合は対象になる額がほとんどない場合もあります。減税には上限があるので、それも踏まえて検討しましょう。
投資をするよりもおすすめの「まとめ払い」
まとまったお金があるのならば、投資よりも「まとめ払い」のほうが、リスクはなく、確実にお得だといえます。
たとえば、通勤や通学の定期券や回数券を考えてみましょう。例えば、東京の国立駅から大手町駅に通勤する場合(中野乗り換えでJRと東京メトロを使う場合)、1か月定期だと1万7180円ですが、6か月定期なら8万7250円で、1か月あたり1万4540円ほどです。1か月あたりの差額は2640円ですから、6か月では1万5840円もお得になります。
これは利回りに換算すると約18%と、かなりの高利回りです。貯蓄を取り崩してでも6か月定期を買って差額を貯蓄するのが、投資よりも確実にお得な方法です。
もしものときの保険の選び方
さらに、老後を考えて保険はどうすればいいのか?という疑問にもお答えします。

積み立て式の保険にはもう加入しない
積立式や貯蓄型の保険は避けるべきです。積立式の代表的なものといえば、子供の学資保険や個人年金などが挙げられますが、まず加入する前にいくら払うのかを試算しましょう。そして、払う額と契約書の満期になったときにもらえる額を見比べてみてください。例えば、100万円払っても95万円しかもらえない…なんてこともありえるんです。
なぜかというと、今の日本の保険の運用利回り金が0.3%程度とものすごく低いから。銀行の普通預金金利の0.001%よりもマシかと思われるかもしれませんが、保険の場合は手数料や保障の負担金がつくため、損をする可能性があります。今後保険に入るならば、掛け捨ての保険のみにするのがおすすめです。
保険で一つだけ、例外的に手放すべきでないものは、バブルの時期に加入した個人保険などです。加入当初の高い利回りがずっと続くものが多いので、解約してはいけませんよ。

保険も「まとめ払い」がお得
生命保険に加入している人は保険料を毎月支払っている人が多いと思いますが、保険料もまとめて払う方法に切り替えるのがおすすめです。効率がいいのは、毎月支払う「月払い」よりも、1年分まとめて支払う「年払い」。保険料が1~3%前後、安くなりますよ。
火災保険や地震保険、自動車保険もまとめて払うとお得になるものが多いので、一度見直してみましょう。
要注意なのは起業と離婚
定年退職後のことを見越して、今こそ起業と思ったり、第二の人生のために1人に戻りたいと思ったりするかもしれません。けれど、それが経済的には逆効果になることもあります。これらのリスクも考えてみましょう。
起業は自身のお金で始めないで
先行き不安なご時世で、一流企業に新卒入社すれば一生安泰、ということもなくなりつつあります。『老後の資金がありません!』では、松重豊さん演じる主人公の夫・章も、突然会社が倒産するという不幸に見舞われていました。そこで、元気がある50代の今こそ、起業をしようと意気込む人もいるかもしれません。
開業をするときに気をつけるべきは、自分や身内のお金を使わないことです。自分だけの考えでは計画や見通しが甘く、短期で失敗してしまうという最悪のケースに陥りかねません。
そこで、日本政策金融公庫などを使って、他人に事業の内容を見てもらうことが必要です。第三者がお金を貸してあげてもいいなと思える事業計画が立てられるということは、ビジネスの成功率は高いということです。

熟年離婚はリスクが高い
長年の不満を抱えている夫婦が、熟年離婚するケースが増えています。厚生労働省が2018年に発表した「同居期間別に見た離婚件数の年次推移」によれば、結婚して20〜25年経ってから離婚する夫婦は非常に多いです。
長年の夫婦生活で耐えられないことがあるのもわかりますが、実際に離婚すると、その後の生活がかなり苦しいものになります。いわゆる「離婚分割」で、夫の年金を妻にも分けることができたとしても、夫婦合わせた年金額は平均的に20万円程度です。
2人で20万円だったらやっていけるかもしれませんが、1人あたり10万円ずつでそれぞれがアパートを借りて生活するのは至難の業。そうしたことを考えると、夫婦仲の改善は、老後の生活の安定には大切なことだといえるでしょう。『老後の資金がありません!』の主人公夫婦のように、なんでも話し合える関係で、仲良くやっていけるのが一番なんです。
◆教えてくれたのは:経済ジャーナリスト・荻原博子さん

おぎわら・ひろこ。1954年、長野県生まれ。大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。経済の仕組みを生活に根ざして解説する、家計経済のパイオニアとして活躍している。著書に『私たちはなぜこんなに貧しくなったのか』(文藝春秋)、『一生お金に困らない お金ベスト100』(ダイヤモンド社)など多数。10月30日公開の天海祐希主演映画『老後の資金がありません!』に本人役で出演。https://rougo-noshikin.jp/
構成/イワイユウ