歳三が問いかける「どう生きるか」
いまの時代の感覚からすると、新選組は危険な組織に思えるかもしれません。敵対する浪士たちからは「血も涙もない」と言われるような集団であり、そう言われるゆえんの中心には土方歳三の存在がありました。烏合の衆である組織を強化するため「局中法度」という“法”を作り、これを犯したものを容赦なく切腹をさせたのは広く知られる通りです。
組織に歯向かうものは厳しく罰する――時代が時代だったとはいえ、組織と異なる考えを持つ個人を徹底的に排除する体質からは、反面教師として学ぶべきものがあると感じます。
”夢追い人”の土方が描かれる
しかし、どうにも歳三に惹かれてしまう人が多いのは、彼が一人の“夢追い人”だったからだと思います。本作もその点にウェイトが置かれています。彼の夢とはもちろん、「武士」として名を轟かせること。そして夢のためには手段を選ばず、どこまでも冷酷になれました。歳三を称する際に使われる“バラガキ”(「茨垣」と書く)とは、「乱暴者」の隠語だと言います。
若い頃から喧嘩に自信のあった歳三は、刀一つで成り上がっていくと誓い、そのためなら嫌われ者の役も買って出て、いくつもの死線をくぐり抜けました。そうして実際にこの後世にまで、彼の名は語り継がれています。
いまは時代が違いますから、彼のような“バラガキ”として身を立てることは難しい。けれども、土方歳三の精神は「誰にでも自分の人生を変えられるチャンスがある」ことを教えてくれます。「俺はこう生きるが、あなたはどう生きるか?」「どう生きたいのか?」――スクリーン越しに、歳三がそう問いかけてくるような気がしました。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk