「対話」の重要性を気付かせてくれる物語
男女、友人、親子、義理の親子と、さまざまな関係性における登場人物の「対話」が見どころの本作。そこから見えてくるのは、冒頭でも述べたように、人と人が関わり合い紡ぎ出す「温かな愛」だと思います。SNSが隆盛を極める昨今、コロナ禍ということもあり、人々は“繋がり”の多くをインターネットに頼っています。しかし、そこで失われているものが、密な対話だと思うのです。
対話によって相手の心の内側を知ることも
密な対話の結果として、必ずしも愛情が芽生えるとは思いません。伝え方や、相手の話す言葉の捉え方によってすれ違いが生じ、憎しみや争いを生む場合もあります。けれども対話によって、相手の表情に隠された心の内側を知り、より豊かな人間関係を築いていこうとするのが、本来の私たちなのではないでしょうか。本作は、改めてその事を教えてくれます。
本作のラストでは、ある大きな「秘密」が明かされます。その秘密は、人と人が向き合い、相手を(あるいは誰かを)大切に想うがために生まれたもの。物語の登場人物たちは少し特殊な人間関係を築いていますが、一人ひとりが互いに向き合っています。きちんと向き合い対話をするからこそ、自然と秘密も生まれるのです。彼らの姿を目にして、優しい嘘(秘密)の存在を知り、「対話」の重要性を再認識させられました。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk