ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、今年8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護。ほとんど寝たきり状態だった要介護5の母ちゃんは、今では歩行器を使って外を歩けるまでに回復。しかし、寒い日が増え自宅で過ごすことが難しくなってきたため、冬の間は再び施設に入所することに。4か月の介護生活を経験してオバ記者が感じたのは、介護には「覚悟」が必要ということでした。
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「施設になんちゃ行ぎだくねーよ」
まあ、喜んで施設に入る老人はいないだろうけど、それにしてもここまでジタバタされるとは思わなかった。2週間前に「寒い間、あったかい施設(介護老人保健施設)に入ってて」と弟から言ってもらい、入所3日前に入所日を告げた時から入所前日の夕方まで、「施設になんちゃ行ぎだくねーよ。いいんだ、オレの腹は決まってんだが」と自殺をほのめかすから、「ああ、やるならやれ、ここでやれ」と私。
最後の最後までバトルだったけれど、その間にも日に日に朝夕は寒くなって、朝起きたら霜がおりていた。寒さに強い93歳の母親も、さすがにこたえたのかしら。
一夜明けたら、「ほれ、タオルに名前を入れたか」「薬はカバンに入れたか」と、施設に行く気まんまんなの。だから施設からの迎えの車に乗り込んだところで、「あんまり悪タレつくなよ」と言うと、「あははは! 悪タレつくがもな」だって。まったく、バイバイと笑顔で手を振って見送ったら、緊張がほどけて、背中から崩れ落ちそうになったわ。
介護から離れてさっそく4日間の”鉄旅”へ
さ、さ、さ。私も待ちに待った『大人の休日倶楽部パス』で、4日間の鉄旅だわ。それで介護生活4か月のアカをきれいさっぱり流してやる、と思ったらああ、もう、嬉しくて嬉しくて、笑いが止まらない。これ、夢じゃないよね。お昼どきだったので、気持ちを落ち着かせるのに、立ち食いそばをすすった。
まずは東北新幹線で大宮駅に向かい、大宮駅から一番早く出発する上越新幹線に乗ったけれど、これといった目的地があるわけではない。ただ新幹線の揺れに身を任せていたら終点の新潟駅に着いていた。で、ホームに降りたら、目の前に「特急いなほ」が停まっていたのでふらふらと。
日本海のすぐそばを走る新潟駅と山形の酒田駅を結ぶ観光列車「きらきらうえつ」は何度も乗ったことはあるけど、特急は初めてだ。さて、どこに行こうか、まだ決まっていない。日本海の空は重たい灰色で、冷たい雨まで降っていて、抱きしめたいほど素敵な車窓だ。
さてさて、それにしてもあたりはどんどん暗くなっていく。いい加減、今夜の泊まるところを決めたほうが良くないか? スマホのホテル予約アプリで泊まるところを探したけれど、ちゃんとした温泉旅館は「あいにく満室でございます」って、そりゃそうだわね。それで駅前にビジネスホテルがあるという理由だけで鶴岡駅で下車した。
日本海沿いを5時間半、鉄道に揺られて青森へ
ホテルの窓から由緒ありげな大きな倉庫がいく棟も並んでいたのはJAの倉庫でした。街歩きをしたら楽しそうな歴史のある町のようだけど、鉄子の”鉄分”が濃くなるにつれて、観光はほとんどせずに、歩くのはいつも駅周辺だけ。
翌日は、鶴岡駅から秋田駅へ向かい、秋田駅から青森駅まで日本海沿いを走る「リゾートしらかみ」に乗ることにした。秋田駅を13時57分発で、青森駅着は19時38分。ってことは約5時間半列車に揺られているわけ。
車中は寝てよし、起きて薄ぼんやりと車窓を眺めてよし。YouTubeでお気に入りの番組をつまみ食いしながら、秋田駅で仕込んだワインをスタバのカップに移し入れて、酔っぱらわない程度にちびちびすすり飲みって、キャーッ、最高じゃない?
と、私は思っているんだけど、「乗り鉄の基本はひとりずつ窓際に縦乗り。車中で会話などせずにひとりの時間を楽しんで、現地に着いたらいっしょに飲むなり、遊ぶなり」なーんて、乗り鉄の流儀を話してもたいがいは引かれるばかりよ。
だけど、たまに身を乗り出すスキモノがいてそのひとりが10歳下のYちゃん。秋田駅を出るとき「いま友達と八戸にいて、青森に泊まるんだけど」とLINEが入り「じゃ、合流しようか」で、私が予約したチープな青森のホテルの居酒屋で女3人で乾杯!
品川で生まれ育った2人に田舎暮らしの話をしていたら、母親の姿がどんどん薄れてきた。