幸福も不幸も呼び寄せる人の“想いの強さ”
本作は、演劇版で「SF推理喜劇」と謳っているように、ミステリー色の強い作品であるため、ネタバレせずに説明するのが非常に難しいところ。ただ言えるのは、ホラーテイストに仕上げていることで、それがさらにエンターテインメント性を増しているという点。演劇版でのウィットに富んだセリフの数々は映画版でも健在で、優れた俳優陣が大いに楽しませてくれることでしょう。
そして、本作の “核”となるテーマにも注目です。あらすじの通り、本作は “誰もいないはずの場所に特定の誰かが現れる”、演劇版の言葉を借りるならば、 “ドッペルゲンガー”の物語。ドッペルゲンガーは登場人物たちのさまざまな、そして非常に強い「思念」を表しており、この「思念」=「想いの強さ」こそが次々と怪異を巻き起こすのです。
演劇版とは異なるラストか
思念は、観客に恐怖を与えるだけのものではありません。想いの強さは、ときに人を幸福へと向かわせ、またときには不幸を呼び寄せてしまう。“好意”のようなポジティブなものであれ、“憎悪”のようなネガティブなものであれ同じだと思います。本作でこのテーマを体現しているのが要と滋の関係です。破綻していた夫婦関係が、互いの想いの強さによって最終的にどうなるのか。演劇版とは異なるラストが待っていることでしょう。
◆文筆家・折田侑駿さん
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk