
イライラをセーブできずに態度に出してしまう人、そもそも憤りを覚えやすい人がいます。彼らに共通点はあるのでしょうか? 身近にいた場合、どのように対処して怒りをかわせばいいのでしょうか? 答えてくれるのは、アンガーマネジメントコンサルタントの安藤俊介さん。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」を研究し、近著『なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム)でも、怒りの感情が起きるメカニズムを分析しています。早速教えてもらいましょう。
自己肯定感の低い人ほど怒りやすい理由
安藤さん曰く、怒りやすい人、それを表に出しやすい人の大きな共通点は、「自己肯定感の低い人」だそうです。
「自己肯定感とは、自分自身のあり方を肯定し、自分のことを好きだという気持ち。特に、誰かと比較して持つ“相対的自己肯定感”と違って、他者からの評価に振り回されず、自分自身を十分に価値ある存在だと思える“絶対的自己肯定感”を持っていないと、怒りやすく、攻撃的になりやすい傾向があります」(安藤さん・以下同)

なぜ自己肯定感の低い人ほど怒りやすいのかというと――。
「人は怒ることで体を臨戦態勢にして、価値観、考え方、立場、プライド、家族、仲間など、大切なものを守ろうとします。怒りは防衛感情なのです。
その点、自己肯定感の低い人は、守らなければならないと思っている対象が多く、必然的に怒る機会が増えます。例えば、仕事でミスを指摘されたとします。自己肯定感の高い人は、ミスを指摘されたことくらいで自分の価値が下がるとは思っていないので素直に聞く傾向があります。ところが、自己肯定感の低い人は、ミスを指摘されたことで自分の価値、つまり立場が危うくなると考えてしまうのです。
さらに、自己肯定感の低い人はさまざまな物事を、自分に対する攻撃として捉える傾向があります。ミスを指摘されることは、自分の尊厳をおとしめる攻撃と捉え、反撃に出ます。攻撃をされれば反撃するのは生物としては自然な反応なのです」
「怒りやすい人」は具体的にはどのような人なのでしょうか。よりイメージしやすいよう、5つのタイプを対処法とともに挙げてもらいました。
【1】ダメ出し魔には加点主義のメリットを知ってもらう
まずは、ダメ出しをする人。
「特徴としては、人を褒めるよりもけなす方が得意。加点主義ではなく、減点主義で物事を見たり、人を評価したりします。『何ができている』、『足りているか』ということよりも、『何ができていないのか』、『何が足りないか』に意識が向かい、『自分が欠点を教えてあげる』と、上から目線に。それが優越感につながり、自己肯定感を上げてくれる材料になるため、味をしめてダメ出しを繰り返すのです」

周囲にいたら、ちょっと困りますね。どう対応すればよいのでしょうか。
「このタイプは、親からダメ出しをされ、マイナス部分ばかりを責められて育ってきたという可能性が考えられます。怒ったり相手にダメ出しすることが当たり前と考えているかもしれません。減点主義で物事を見る傾向にあるので、『物事は加点主義で見ることができて、その方が得である』と別の見方を示し、発想の転換を促すのです。
例えば、あるLINEグループで、前に告知されたお知らせを、再度告知している人がいたとします。そこで、『同じことを繰り返さないでください』と言うより、『大事なことなので、リマインドしてくれてありがたい』と言う方が、好感度は上がります。
同じ物事でも怒ることなく、むしろ感謝していて、人から好印象を受けている。その姿を見る機会が増えれば、『人を認める方がメリットがある』と、徐々に考えが変わっていくかもしれません」
【2】褒めずに怒りがたるタイプにはストレートに承認を求める
次に、頑として人を褒めないタイプです。
「できて当然なんだから、特に何かを言う必要がないと考える人です。一方で、できていないことについては遠慮なく怒ります。
彼らにとって、悪いこと、間違ったこと、できないことがあれば怒られるのが当然という考え。家庭や学校でも褒められた記憶より怒られた記憶の方が多い、昭和生まれの世代に見られる傾向です。自分が褒められた経験が少ないので、褒められても素直に受け取ることができません。相手のことも褒める必要がないと思っているか、そもそも何をどう認め褒めればいいのかもわからないのかもしれません。

このタイプが夫の場合、妻が毎日部屋をきれいに掃除していたとしても、『家事をするのは妻の仕事なんだから当然』くらいに思っているでしょう。『たまには努力を認めてほしい』とか『感謝の気持ちを伝えてほしい』と言おうものなら、『いちいち褒めなくてもやるのが妻の仕事だろ!』と開き直ることも。もちろんその理屈は今の時代には通用しませんが、それに気づくのはなかなか本人にとってハードルが高いのです。
対策としては、できていることや認めてもらう必要のあることは、どんなに開き直られても、根気よくこちらから投げかけること。繰り返し承認を求められることで、その必要があるのだと感覚的につかめるようになるかもしれません」
【3】マウンティングされたら同じ土俵に乗らない
自分が相手よりも優位であることを示そうとする、マウンティングタイプ。
「自己肯定感の低い人は、自分自身に価値があると思えない、あるいは認められない傾向にあります。そこでステータスや物質的に頼ることで、自分の価値を上げることを考えます。高級ブランドを身に着ける、子供を有名進学校に通わせる、知人友人に有名人やお金持ちがいる、といったいわゆるキラキラしていると思われているもの、人間関係をもって、自分の価値が上がると考えています」
ただ優越感に浸るだけならいいのですが、厄介なのは、自分が下だと思う相手に切り返されると、強い怒りを持って屈服させようとする人。
彼らへの対応策としては、同じ土俵に乗らず、スルーすることです。

「マウンティングは同じ土俵に乗っているからこそ意味があり、その土俵にいなければ勝負になりません。例えば、高級マンションの上層階に住んでいることをアピールしてマウンティングをしてくる人は、その住環境に価値があると思っているわけですが、そこに価値を感じない人にとっては、そのマウンティングは無意味です。
つまり、マウンティングされてうっとうしさや落ち込み、腹立たしさを感じている場合、少なからず自分も同じ土俵に片足を置いている証拠。自分にとって、本当に価値のあるものは何かを仕分けし、乗る土俵を少なくすることも、マウンティング戦で怒りの攻撃を浴びないための一手となります」
【4】非を認めず逆ギレする人には「次からどうしてほしいか」を伝える
頑なに自分の非を認めない、謝らない、謝れないタイプがいます。
「仮に非があったとしても、それは自分が悪いのではなく、自分がミスをするに至った、周りの状況が悪いと責任転嫁して逆ギレするようなタイプです。謝ることで自分の価値が下がると思いこんでいるのでしょう。
自分を肯定するために必要なプライドを死守すべく、自分の非を認めないのでしょう。自己肯定感の低い人は、もともとのプライドが低いため、高くしようと力まないとプライドを維持できないのです。

したがって、このタイプに無理に謝らせることは得策ではありません。素直に謝れるようになるには少し時間がかかりますから。
周りとしては、謝らなくてもいいし、反省もしなくてもいいので、次からどうしてほしいかを具体的に伝え、その内容を理解してもらえればOKだと考えましょう。謝ってもらうことが目的ではありません。次からどうしてくれればいいのかさえ伝われば、結果オーライ。こう考えれば、あなた自身も穏やかでいられるでしょう」
【5】不機嫌アピールをされたら相手にしない
「話しかけるな」「触れてくれるな」といわんばかりに、表情や態度で自分が不機嫌であることを露骨に表に出すタイプがいます。
「それによって周りが気を使ってくれたり、助けてくれたりすると思っているのでしょう。本人は、いかにして不快な感情と向き合い、対処すればいいか分からず、他力本願とばかりに周りの人を頼るのです。
機嫌が悪ければ、誰かが労わってくれる、誰かがこの気持ちを晴らすのを手伝ってくれるはず、という思い込みがあると思われます。これは子供の頃から不機嫌な人が近くにいて、そうふるまっているのを見てきたのか、あるいは自分がそうすることでいいことがあった経験をしている可能性があります。過去に成功体験があるため今も続けているのでしょう」

対策は、彼らの「成功体験」をこれ以上増やさないこと。
「不機嫌アピールをしても何一ついいことはないと学んでもらいましょう。不機嫌アピールする人を助けもしなければ、気にかけもしません。少しでもかまうことで、不機嫌さを増長させてしまいます。
自分の感情は自分で責任を取るものと、自分の問題として向き合ってもらう暗黙の了解を徹底させましょう。職場であれば、職場のルールとして明文化するのも一つの選択肢です」
以上の通り、自己肯定感の低さが招く、厄介な“怒り人”から身を守るには、真正面から闘わないこと。これに尽きるようです。
◆教えてくれたのは:アンガーマネジメントコンサルタント・安藤俊介さん

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、日本の考え方、慣習、文化に合うようにローカライズする。教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。近著に、『なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム)がある。https://twitter.com/andoshunsuke