この春、世界的な原油高の影響により、ティッシュペーパーやカップ麺など身の回りの商品が一斉に値上げされます。ものの値段はどんどん上がり、先行き不透明な今、「できるだけ貯金をしたい」と考える人は少なくないでしょう。
ただし、「貯金」さえすれば本当にこの先の生活は守れるのかというと、『定期預金しか知りませんが、私、本当にお金持ちになれるんですか?』(秀和システム)の著者でファイナンシャル・プランナーの渡邊一慶さんは、首を横に振ります。なぜでしょうか? 理由とともに、渡邊さんがすすめる手堅い資産形成術を教えてもらいました。【前後編の前編】
定期預金にお金を預けない
渡邊さんは、世界最大手のスイスのプライベートバンク「UBS銀行」で世界中のお金持ちからお金を預かり増やしてきました。こうした経験をもとに、マネー初心者向けにわかりやすく資産形成を説いた同書をこのほど上梓。そんなお金のプロが「今は定期預金だけではお金は増えない時代」と断言する理由は何でしょうか。
「定期預金に預ければ預けるほどお金が増えたのは、1990年前後のバブル期の話。当時は、銀行の定期預金の金利は6%、郵便局に至っては8%もありました。1000万円の資産を金利8%の郵便局の定期預金に入れれば、9年で2000万円を準備できたのです。ところが、今は全く違います。現在の金利は大手メガバンクで0.002%程度、ネット銀行で0.1%程度。この金利の低さを見ても、金利でお金を増やせないのは明らかです」(渡邊さん・以下同)
お金の価値も下がっている
さらに、今はお金の価値も下がってきています。例えば、総務省統計局の小売物価統計調査によるとガソリン1L当たりの小売価格(特別区部)は、1966年4~8月は 50円だったのに対し、2022年2月では170円と、56年で3倍以上に。ティッシュペーパーは、2013年11月は239円だったのが、2022年2月は359円と9年間で100円以上も値上がりしています。
同じ100円でも、56年前はガソリン1Lを払っておつりが出たのに、今では支払うことすらできません。
「このことからもわかるように、100円の価値はこの数十年で大きく変わっています。単に預けているだけでは、お金の価値は減り続け、お金が増えるどころか損する一方なのです」
全資産を預金・投資・保険に3分割する
そこで渡邊さんが提案するのが、ヨーロッパ型の資産形成でお金を増やしていくこと。ヨーロッパ型とは? アメリカ型、日本型と比較しながら教えてもらいました。
「日本銀行調査統計局が2021年に発表した『家計の金融資産構成』をもとにお話しすると、アメリカの家庭は全資産の5割以上を株式や債券、投資信託に充てている『株式型』。日本は全資産の5割以上を現預金で保有する『預金型』。それに対し、ヨーロッパは現預金、株式・投資信託・債券、保険・年金などをおおむね3分の1ずつ保有する『バランス型』といえます。
前述の通り、今の日本では『預金型』ではお金は一向に増えません。しかし、アメリカのように資産の半分以上を投資に充てる“攻撃的”な資産運用はハードルが高い。退職金をまるまる投資につぎ込み資産を失う話はよく聞きますが、資産の大半を投資につぎ込むのは極めて危険な行為です」
ヨーロッパ型がおすすめの理由
そこでおすすめというのが、“守備的”な資産運用をするヨーロッパ型の資産運用。
「ポイントは、全資産の内訳が、預金・投資・保険や年金でざっくり3割ずつになるように保有すること。預金は直近で必要なお金、投資は将来必要なお金、保険は万が一に必要なお金と考えましょう」
なお、保険には、生命保険や医療保険を始めとする各種保険、年金には公的年金、iDeCo(確定拠出年金)も含みます。iDeCoを投資信託の一つと位置付けている人も多いですが、iDeCoは年金の枠に入れたうえで、3割ずつの資産分配を考える必要があります。